軍師官兵衛 第26話「長政初陣」 その背景 ～黒田長政の名は織田信長から・偏諱とは～

今回のお話の中で何をお書きしようかと考えていて、
他の方のブログを見ていましたら、
「黒田長政の長は織田信長からもらい受けたもの」とありました。
そう断定する資料がある訳ではないかもしれませんが、
そう考えるのが自然であるようです。

中国に起源を持つ漢字文化圏には、
「諱(いみな)」というものがありました。
これは名前の一部ですが、
諱は「忌む」「名」であり、
普段、口にすることははばかれていました。
名前に霊的な意味を見ていたんですね。
時代劇などでは面倒なので
どの作品でも、平気で皆「秀吉殿」などと言っていますが、
そう呼ばれることはほとんどなかったはずで、
「筑前守殿」「筑前殿」などの受領名(ずりょうめい)や
「藤吉郎殿」などの通称で呼ばれていたことでしょう。
黒田官兵衛でいえば、彼は黒田孝高が公式の名前で、
官兵衛は通称ということになります。
私は読んでいないんですけれど、
この漫画「センゴク」ではそれが守られているそうですね。

日本では嵯峨天皇の頃に、
男子については1～2文字、
女子については「1字+子」が推奨されていて、
男子の場合、2字の名前のうち、
1字を代々の子孫につける習慣が出来ました。
これは現代でも見られることで、代々なのかどうかは知りませんが、
安倍晋三総理の「晋」は安倍晋太郎から受け継いだものでしょう。
代々続いていて、大河ドラマからの頃から現代まで続いている例ですと、
引退された織田信成選手の「信」は、
平姓津田氏、織田氏代々の文字で、
これを「通字(とうりじ)」と呼んでいます。
2字の諱のうち、1字を代々受け継いでいる訳ですが、
そうではないほうの1字についても、
他の人が使用することを避ける習慣があります。
この避けられた1字を偏諱(へんき/かたいみな)と呼んでいます。
権力者などの名前を避けることを避諱といい、
たとえば、上杉謙信は輝虎でしたけれど、
家臣たちは「虎」の字を避けました。
徳川綱吉は娘・鶴姫を愛する余り、
「鶴字法度」なる布令を出し、「鶴」の字を使用することを禁じています。
よって井原西鶴は井原西鵬になり、
先日事業を停止し破産手続きに入った和歌山の老舗和菓子店・駿河屋は
元々鶴屋でしたが、駿河屋に屋号を変更しています。
そういえば、亡くなられたやしきたかじんさんは、
ご本名は「家鋪隆仁」ですけれど、
もともとは「たかじん」ではなく
「たかひと」と名付けられるところだったとのこと。
ただ「仁」が天皇家代々「仁(ひと)」ですので、
それを避けるために「じん」としたということで、
これも一種の避諱といえるかもしれません。

ただ、避けられる文字であるからこそ、
その1字、偏諱にはある意味が生まれました。
権力者が家臣などに与えることで、
その者と自分の繋がりを明確にする、
特別な関係であることをアピール目的、
あるいは恩賞としての価値ですね。
豊臣秀吉で見ますと、
血縁などを除外したとしても、
宇喜多秀家、織田秀信、織田秀雄、蒲生秀行、
小早川秀包、伊達秀宗、毛利秀元、毛利秀頼、徳川秀忠などが
Wikipediaで確認出来ます。
上の上杉輝虎の「輝」は足利義輝からですし、
織田信長が与えたのは別所長治、松平信康など。
特に森長可、長定(蘭丸)、長隆(坊丸)、長氏(力丸)、長重(蘭丸)
彼ら兄弟皆偏諱を受けているのが面白いです。



黒田長政の「長」も信長から拝領したもので、
この時点での黒田を
織田がどう見ていたのかが伺える偏諱だと思います。