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あさのあつこ「弥勒シリーズ」5冊読了

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ここのところ、読書に多くの時間を割いています。
元々読む速度が遅い私ではあるものの、
一気に読んだのがあさのあつこさんの「弥勒」シリーズ5冊でした。
その間、資料系の本も読みませんでしたし、
書く方も手を止めていました。

時代小説は昔から読んでいまして、
それでも、手を出すのは私が気になる方向性のものばかり。
今は何でも読むべきだということで、
これまで毛嫌いしてきたものも読む事にしました。
あさのあつこさんについては、
毛嫌いという程でもなかったんですが、
他のジャンルでの彼女から、
彼女が時代小説を書いたなら、という想像が働かず、
興味を持てなかったんですね。
それで、彼女の時代小説は初めての経験となりました。

以前から、時代小説を読むにおいて、
私にはある種の渇望がありました。
それは昔のものなら見られたものですが、
ここ十数年のものについてはあまり見られないように思います。
それがあさのあつこさんの「弥勒の月」にはあったんです。
私が会いたかった時代小説の主人公は「木暮信次郎」だったようです。

娯楽時代小説には人情話が定番ですが、
そうでなくともいいと思うんです。
捕物ならそうでなくとも成立するはずで、
でも、冷たく見える主人公でも、
その中の人情味が魅力だったりします。
もっと冷たい主人公の作品を読みたいと思い続けてきました。
その願いが満たされたのが「弥勒の月」の木暮信次郎です。

「弥勒の月」の主人公は常町廻り方同心の木暮信次郎、
そして、小間物問屋の若い主・遠野屋清之介の二人、
あるいはそれに信次郎の下の岡っ引き・伊佐治を加えた
三人が主人公の娯楽時代小説です。
木暮信次郎という同心が人間味のない人物で、
そこを魅力として描けるというのは素晴らしいと思います。
シリーズの後書きなどにも見られるように、
あさのさんの読書歴から作品に藤沢周平の影響を感じます。
そして、木暮信次郎からはシャーロック・ホームズを感じます。
「弥勒の月」では、まだシャーロックを思わせる描写は少なめですが、
信次郎というキャラクターが一人歩きしている
現時点での最新作5作目「冬天の昴」では、
彼の人物描写がシャーロックの影響を強く感じます。
ただ、頭は切れつつもシャーロックが冷たさの中に持ち合わせている
人間味とか、正義感を信次郎は持っていません。
ただ、日常と尋常を倦み、日常ならざるもの、
尋常ならざるものに対してのみ興味を示します。
説明文では全く魅力的ではない木暮信次郎ですが、
あさのあつこさんの見事な人物描写で、
自身尋常ならざる人間味の欠片もない彼が輝いています。
実は、捕物、あるいはミステリーなどとして見ますと、
この「弥勒の月」で最も大きな軸となっている事件の締めは、
あまり好きではありません。
それでも、木暮信次郎、遠野屋清之介、
伊佐治、おりんなどの描写が素晴らしいので、
私はこの「弥勒の月」を絶賛することとなります。

このシリーズは現在5作刊行されていまして、
特にシリーズタイトルがないため、
出版社などは「弥勒」シリーズと呼んでいるようですが、
それぞれ独立した読み物としても読めるようにはなっています。
それでも、せっかく読むのであれば、
続けて読みたいシリーズですし、
特に「弥勒の月」と第2作「夜叉桜」はそうすべきであろうかと思います。。
次の「木練柿」は短編連作を、
その次の「東雲の途」は清之介が中心の話、
第5作の「冬天の昴」が信次郎の描写が中心となっています。
現在、「冬天の昴」のみがハードカバー単行本のみで、
それ以前のものは文庫化されています。
私は「冬天の昴」は書棚に優しい電子版で読みました。
おそらく、この後もこのシリーズは続けていかれるんでしょうけれど、
それを楽しみにしつつも、
気に入りすぎてあまり続けて欲しくないとも思いますね。
読み返さなければ、と思うシリーズでもあります。






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