久しぶりに思い出した言葉があります。
代理によるミュンヒハウゼン症候群
ミュンヒハウゼンはドイツの冒険譚「ほら吹き男爵の冒険」の主人公。
実在のミュンヒハウゼン男爵カール・フリードリヒ・ヒエロニュムスは、
体験談を面白おかしく大袈裟に話したそうです。
故星新一さんはその孫のお話を創作。
ミュンヒハウゼン症候群は虚偽性障害の一つです。
精神疾患ですが、身体症状が出現するのも特徴です。
虚偽性障害の約1割を占めるというミュンヒハウゼン症候群は
自身が病人であることを主張することが主な症状で、
それは仮病の場合もありますし、
自らの体を傷つけてでも病気になろうとすることもあります。
最初は本当に何かしらの病気がきっかけなのかしれません。
病気になると「辛いのに頑張ってるね」といった声が掛けられます。
そして、自分に向けられた関心を能動的に求めてしまうようになります。
ただ、周囲の関心を自分に向けたいだけかもしれませんが、
自傷行為に走ることになります。
また、病気や怪我は治るべきではありませんし、
周囲に求めるのは強い関心ですので、
自身も重傷でなければならなくなります。
これがミュンヒハウゼン症候群で、
ミュンヒハウゼン症候群のうち、傷つける対象が自身ではなく、
「身近の代理の人間」になると
代理によるミュンヒハウゼン症候群(代理ミュンヒハウゼン症候群)
と呼ばれるようになります。
たとえば、母親が子供の看病をします。
その時、母親は周囲から「たいへんですね」などと
気遣ってくれるようになります。
もしかすると、この時、子供は本当に病気なのかもしれません。
ただ、その周囲からの注目が忘れられなかったり、
その時の自分に対する関心が再び欲しくなると、
子供に怪我をさせたり、
食べ物ではないものを食事に混ぜたりするようになります。
こうすれば、母親は子供を看病することが出来ます。
周囲は「たいへんですね」と言ってくれます。
子供の症状が重ければ重いほど、
あるいは原因が不明であればあるほど、
周囲は"献身的な母親"に対して
「たいへんですね」と思ってくれるでしょう。
自身も看病している自分自身に酔うことになります。
この代理によるミュンヒハウゼン症候群、
こんなことがあるのかと思われるかもしれませんが、
アメリカでは年間1000件が確認されています。
ミュンヒハウゼン症候群自体、
その鑑別が難しい病気である上に、
見かけ上の症状が"代理人"に現れるので、
さらに困難になります。
この代理によるミュンヒハウゼン症候群を見せる人の中には、
看護師の経験があるなど、
医療の知識をある程度持ち合わせている場合もあり、
医師などが本当の原因に辿り着けないよう工夫していて、
"代理人"は「原因不明の病」で苦しめられることになります。
そして、たいていの場合、
"代理人"はその真実に気付いていません。
日本でも児童虐待として扱われている事件の中には、
この代理によるミュンヒハウゼン症候群が相当数含まれているのではないか、
以前からそう言われていて、
実際に2008年の統計では、
虐待死した児童の4.5%の加害動機が
代理によるミュンヒハウゼン症候群となっています。
この代理によるミュンヒハウゼン症候群の多くは、
母親が加害し、子供が犠牲者となります。
ただ、そうではないケースもあるのではないか、
そんな気もします。
たとえば、医療職などであれば。
なぜ、こんなことを思い出したのかといえば、
川崎市の老人ホーム連続殺人事件の加害者が介護職であると同時に、
救急救命士の資格を持っていると聞いたからなんです。
この事件では勤務に対するストレスが動機だと伺える供述があり、
また、金銭の窃盗も絡んでいるのかもしれませんが、
彼自身が周囲の注目を浴びたかった可能性もあるのではないでしょうか。
昨夜の報道では、彼が被害者たちの元に最初に駆け寄り、
救命処置を行っていたと報じていました。
動機が複合的なものであれば、
これが含まれている可能性もあるのではないかと思っています。
当人が自覚していない場合もあり、
その真実は永遠にわからない可能性もありますが…
この事件はいろいろと考えさせられます。