知らざりき雲居のよそに見し月の
かげを袂に宿すべしとは
佐藤義清(のりきよ)の歌です。
今回は凄いシーンがありましたね。
舞い降る桜の花びらをすくい受け、
それを帰宅した父に手渡す娘、
花びらが風にさらわれ義清の手の上から消えてしまいます。
しばし考え込んだ彼は急に表情を強ばらせると、
娘を蹴り飛ばしてしまいます。、
娘や妻にとっては訳の分からない義清の乱心、
その行いが美しいとは思えませんが、
あれはドラマ上の完全な創作ではなかったりするのが凄いです。
平清盛と佐藤義清はともに鳥羽上皇の北面武士。
年齢も同じです。
この時代より200年前に平将門を追討した藤原秀郷の子孫とされ
佐藤家は代々摂関家の荘園の管理職として財をなします。
義清は18歳で鳥羽上皇に出仕、翌年に北面武士に、
この頃から彼の歌が世に知られるようになります。
妻を娶り、一女をもうけます。
が、突然出家してしまいます。
法号は円位から西行。
まだ23歳の時。
出家がどういう理由からなのかは不明で、
「西行物語絵巻」によりますと、親しい友人が突然亡くなり、
そこに無常を悟り仏道への道を選んだとされています。
そしてもう一つの説が今回ドラマで採用された
「さる高貴な女性」に対する失恋説です。
そこで彼の歌。
知らざりき雲居のよそに見し月の
かげを袂に宿すべしとは
思いもしなかったことだ。
空の遥か彼方に見た月の光を、
涙に濡れた我が袂に宿すことになるとは。
雲居は宮中を指し、月がその人。
月が誰なのかについて有力視されているのが藤原璋子(たまこ/しょうし)で、
今作ではこれを採用し、あのような描写になりました。
義清の17歳年上の璋子、40歳の彼女は衰えるどころか、
ますます美しさを増していたとも。
しかし、璋子の夫は鳥羽上皇で、崇徳天皇の母、
こんな恋が実るものではありません。
「西行物語」によりますと、
煩悩の絆を断ち切るために、
狩衣にすがりつく娘を縁の下に蹴り落としたとあります。
娘は4歳でした。
周りから見れば、何一つ不自由のない義清が出家したことは、
とても驚かれたようです。
藤原頼長は日記「台記」の中で
俗時より心を仏道に入る。家富み、年若く、心に愁無きに、遂に以て遁世
と書き記しています。
彼の出家の動機について正確なところは不明ですが、
このような歌も見られます。
弓張りの月にはづれて見し影の
優しかりしはいつか忘れん
面影の忘らるまじき別れかな
名残を人の月にとどめて
この大河では、清盛と義清が親友だという設定という事で、
西行についての本を読みました。
その中で面白かったのがこの
瀬戸内寂聴さんの「白道」。
出家の動機を主に待賢門院璋子への恋として捉え、
それが寂聴さんの事情も考えさせられました。
出家の理由はこれ、
という単純なものではないのかもしれませんね。
こちらは白洲正子さん。
仏の道の話というよりは歌が楽しめる一冊で、
特に桜を詠んだ歌が多く扱われ、
日本人の桜好きは西行の影響かも?
身を捨つる人はまことに捨つるかは
捨てぬ人こそ捨つるなりけれ
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