蚊が運ぶ病気で亡くなる人は年間100万人
昨日、今年初めて蚊に刺されました。ここ数年、デング熱やジカ熱など、蚊が媒介する感染症が日本にとっても他人事ではなくなっているので、いつまでも痒みと軽い腫れで済んでくれたらと思います。
そんなことを考えていますと、先日の「サイエンスZERO」を思い出しました。14日の放送で「ゲノム編集(2)がんを根治!? 医療で始まる大革命」というもの。ゲノム編集技術により、がんなどの病気を根絶しようという研究のお話でした。
その中で蚊のゲノム編集が扱われていました。衛生害虫である蚊はマラリア、デング熱、ジカ熱などを媒介します。歴史上、人間にとって生命を脅かす動物はたくさんいましたすが、最大の脅威が蚊です。現在でも年間100万人が蚊が運ぶ病気で亡くなっているともいわれもいます。ちなみに、3位が蛇で、2位は人間のようです。
2年間でマラリア感染者はいなくなる?
番組では人間がマラリアに感染しない技術研究について紹介。マラリアは蚊がマラリア原虫に寄生され、蚊が吸血することにより、原虫が人間の体内に入ることで感染します。カリフォルニア大学アーヴァイン高のアンソニー・ジェームズ特任教授は「蚊がマラリア原虫に寄生されなければいいのではないか」と考え、研究を行い、マラリア耐性遺伝子なるものを発見。これを蚊の受精卵に組み込むことで、その蚊はマラリア原虫に侵入されることはなくなりました。
しかし、これではその卵から生まれた個体だけがマラリアに無縁になるだけで、この蚊が成虫となって交尾を行い、次世代が生まれた時に、その耐性遺伝子が受け継がれるとは限りません。そこで、ジェームズ特任教授は交尾相手にも耐性遺伝子を組み込み、全く新しい遺伝子配列を付け加えました。こうすることで、別の蚊と交尾して受精卵ができるたびに、自動的にそのゲノム編集遺伝子を受け継ぐことになります。
次世代以降にもゲノム編集を行った性質が受け継がれるというこの「遺伝子ドライブ」。そうして、地球上には全ての蚊がマラリア耐性遺伝子を持っていることに。ジェームズ特任教授の計算では、その期間はわずか2年とのこと。
天然痘ウイルスは絶滅させたが…
現時点で、このゲノム編集された蚊が自然界に放たれたことはありません。実験室で厳重に管理されています。この研究が実用化されれば、マラリアは根絶することができるでしょう。マラリアを媒介する全ての種の蚊(あるいはサシチョウバエにも)に同じことを行えば、マラリア原虫を絶滅させることになりそうです。
ただ、一度、このような蚊が放たれてしまうと、もう後には戻れません。生態系を人間がゲノム編集により変えていくことに危機感を感じる一方、大勢の人の命が失われずに済むのであれば、とも思います。考えてみれば、天然痘ウイルスの撲滅宣言が出されたのが1979年のこと。現在、天然痘ウイルスは研究室に保管されているウイルス株のみで、自然界における天然痘ウイルスは絶滅したといえるのかもしれません。
ウイルスが生物かどうかの議論はさておき、天然痘ウイルスの絶滅が容認されるなら、いずれマラリア原虫の絶滅もあるかもしれません。しかし、蚊ならどうでしょうか。蚊を絶滅させれば、マラリアだけでなく、ジカ熱やチクングニア熱、デング熱、日本脳炎などを防ぐことができるかもしれません。ゲノム編集技術が確立される前から、蚊を絶滅させる技術は研究されています。蚊を絶滅させていいのか? 絶滅させるべきではないのか? ゲノム編集の技術進歩もあり、既にその選択肢は人類の目の前にあるのかもしれません。