昨夜、本庶佑(ほんじょたすく)京大名誉教授に
ノーベル医学・生理学賞の受賞が伝えられました。
山中伸弥先生の時もそうですが、
いつかは受賞される先生として認識されていて
むしろ、時間がかかりすぎという声もあります。
ちょうど、先月、仕事で免疫チェックポイント阻害剤、
免疫チェックポイント阻害薬についてお書きすることがあり、
勉強させて頂きましたが
知れば知るほど画期的なアプローチだと思います。
がんには三大治療、三大療法と呼ばれる治療法があります。
一つは外科手術により腫瘍を取り除く方法、
次にがん細胞を死滅させたり、
増殖を抑えたりする抗がん剤を用いる化学療法(薬物療法)、
そして、放射線照射でがん細胞を死滅させる放射線療法です。
本庶先生の研究がきっかけとなった
免疫チェックポイント阻害剤はこれらとは異なるアプローチで
がんを治療します。
私たちの体の中では、常にがん細胞が発生していると考えられていますが、
それでも、すぐに「がん」と診断されるような状態には至りません。
それは、免疫細胞の働きがあるからです。
免疫細胞にはがん細胞の増殖を抑制する働きがあるわけですが、
一方、がん細胞は免疫細胞の活性化を防ぐシステムが備わっています。
単純にいえば、がんという病気は
がん細胞による免疫細胞の活性化を防ぐシステムが
免疫細胞の働きを上回った時にかかるといえるかもしれません。
1992年、本庶先生は
免疫細胞であるT細胞の表面に「PD-1」という受容体を発見。
がん細胞はこのPD-1に「PD-L1」という分子を結合させ、
T細胞の機能を抑えていることがわかりました。
免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれるがん治療薬は、
PD-1にがん細胞よりも先に結合させることで
がん細胞の免疫細胞に対する活性化抑制システムを阻害するというもので、
私たちの免疫細胞が本来の力を発揮できるようにする医薬品です。
免疫チェックポイント阻害剤としては、
ニボルマブ(製品名オプジーボ)や、
ペンブロリズマブ(製品名キイトルーダ)などかよく知られています。
共同受賞のジェームズ・P・アリソン氏も、
1995年に抑制性受容体のCTLA-4を発見しています。
がん治療のパラダイムシフトにもなり得る本庶先生らの活躍ですが、
「ノーベル賞」という言葉の響きは強力で、
今頃、臨床の先生方が患者さんやご家族に
この薬についてしきりに質問されているのではないかと心配します。
iPS細胞はまだいくつかの臨床研究が始まったばかりですが、
既に免疫チェックポイント阻害剤は国が承認しています。
そのぶん、患者には手が届く治療といえるでしょう。
半年ぐらい前、
辛坊治郎さんが「森元総理がオプジーボで治った」と発言されていたと思います。
もちろん、患者には治療方法の選択肢について知る権利がありますので、
質問するのは当然ですが、
どんな治療方法にも適応というものがあります。
原理的にはあらゆるがんに効果が期待できる
免疫チェックポイント阻害剤ですが、
「これしかない」と思い込むのは危険です。
ところで、本庶先生は
僕はいつも「ネイチャー、サイエンスに出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割だ」と言っていますし、大体そうだと思っています
研究者になるにあたって大事なのは「知りたい」と思うこと、「不思議だな」と思う心を大切にすること、教科書に書いてあることを信じないこと、常に疑いを持って「本当はどうなっているのだろう」と
と語りました。
報道を見ていますと、
「9割は嘘」という言葉の解釈が間違っているケースが多く、
先生が仰りたかったのは
自然科学の世界では常に新しいアイディアが生まれ、
それが優れている場合には、そちらに置き換わっていく、
更新されていくということなのです。
物理学におけるニュートン力学は絶対的なものだと思われていましたが、
アインシュタインは、それでは説明できない可能性を考え、
より良い相対性理論を唱え、
物理学の常識は更新されました。
さらに、自然科学は間違えてもいい学問でもあります。
論文が発表され、本当にそうなのかほかの研究者たちが再現しようとします。
その行程により、その現象を元の論文よりも上手く説明できる場合もありますし、
そもそも、STAP細胞のように再現できないなんてこともあり得ます。
(実際には大半の論文が未検証なのが実体)
「教科書に書いてあることを信じないこと」については
私も常々お書きしているように、
「疑え」ということなんです。
鵜呑みにするなということです。
疑わなければ真実に近づくことはできません。
先生の発見だって、
世界中の研究者たちが疑ったことでしょう。
疑われたことで、その真実性、有効性が確認されてきたのです。
そのほか、報道で気になるのは
先生が基礎研究の重要性を語っておられる部分をカットしていること。
財務省の言うがままに研究費を削減し続けている現政権は
研究に何かしらの結果を求めます。
それも数年単位の結果です。
本庶先生のこの研究は22年と報じられ
まだまだ、この先も続くことでしょう。
何か結果が得られるかもしれない、
何も結果が得られないかもしれない
そんな基礎研究の中から
がん治療のパラダイムシフトが起きるほどの発見がありました。
日本の研究者が多数のノーベル賞を受賞しているのは、
今の日本の研究機関が優れているからではありません。
昔の日本の研究機関が優れていたからで、
そこに予算が投じられていたからなんです。
日本の研究者がノーベル賞と縁がなくなるのも
そう遠いことではないはずです。
山中先生の第一声の声の高さが違いますね。
彼が以前からお会いすると最敬礼すると仰っておられた
本庶先生への受賞のお祝いの電話です。