記事はテキスト上ではほぼ出来ていたんですが、
アップしようという段階でメンテナンスであることに気付きました。
そういえば、その予告、見た記憶があるんですよねえ。
今回の総合診療医は、
大津ファミリークリニックの谷口洋貴先生です。
ご専門は「家庭医療学(内科全般、小児科)」となっていますね。
谷口先生は診察室で患者を診るだけではありません。
患者さんのいるお宅まで出向く在宅医療もされています。
そして、今回の症例も谷口先生が実際に診られたものです。
その日の夕刻、患者さんの娘さんに連れられて来たお宅の部屋では、
布団の上で患者さんが頭をのけぞらせて
仰向けに横たわっていました。
そばにいらゃしゃるのはご主人のようです。
「妻が…帰ってきたら、こんなんで」
ご主人が奥さんの腕をさすろうとすると、
痛い! 痛い! 痛いーっ!
と叫びます。
「先生! 裕子が痛くて死にそうだって言うんです!」
今朝は…、どんな様子でしたか?
この質問には娘さんが教えてくれました。
「朝からだるそうで…、
今日は外出する予定だったんですけど、
母だけ寝かせていたんです。
それで、夕方に帰ってきたらこんな状態で」
ご主人が続けます。
「救急車を呼ぼうとしたらこいつが嫌がって。
先生のところへ伺おうにも、
動かそうとすると痛がるし…」
患者さんは立花裕子さん68歳・主婦。
153cm、53kg。
主訴は「痛くて死にそう」。
血圧を測ろうとしますが、
カフを巻くだけでもとても痛そうです。
体温は37.6度の微熱、
血圧は150-90と少し高め
脈拍は早めの100…ですが、緊急性のあるものではないようです。
ご本人はお話しするのも苦しそうなので、
まずはお二人に伺います。
裕子さんは普段、どんな生活をされていましたか?
「最近、母は朝起きるとよくパソコンに向かっていました。
頼みもしていないのに、母は私の婚活に夢中なんです。
38歳の私にその気が無いから、
母親の自分が頑張らないとって。
本当に有難迷惑で…。
1週間前の朝も私が朝ご飯を作っていたんですが、
呼んでもなかなか来ないので、
お父さんに呼びに行ってもらったんです」
「仕方ないので、私が裕子を呼びに行きましたよ。
すると、またパソコンにしがみついていました」
「それであんまり猫背が酷かったんで、
『おい! 姿勢が悪いぞ』って言ったら、
振り返って言うんですよ」
あ、お父さん。来週の土曜日に決まったから
「…って。勝手に見合いの日取りを決めていました。
…そういえば、あの時、鼻をかんでいましたね。
『なんだ、風邪か?』と裕子に訊いたら、
蓄膿だとかなんとか言っていました」
…そうですか。
これまで裕子さんはどこか痛いと言っていたことはありますか?
「そうですねえ…。私が退職してから、
いい留守番役が出来たからって、テニスを始めまして、
その日、いつものようにお昼前にテニスから帰ってきたんですが、
試合で転んだとかで右手を少しすりむいていました。
それで、足も少し引きずっていたんで、
どうしたのかって訊いたら、
足は元々痛いのよ
と。右膝らしいんですが…。
それから、その日の試合に負けたからって、
庭で素振りを始めて。
肩が痛いとかで、私が肩をもんでやりました。
あれはたぶん筋肉痛ですね。
あとは…一昨日ですか。
庭いじりをしていたんですが、
蚊が飛んできて、殺虫剤で殺していました。
その時、スコップで指を切ってしまって。
傷は何でもない様子だったんですが、
やっぱり、まだ肩が辛そうでしたね。
あ、その後ですよ。
縁側に座って握り飯を食べていた時、
なんか飲み込めない
って言っていました。それに、
なんか顎が痛い気がして
と。大口で握り飯を
頬張り過ぎただけだと思うんですけどね」
ここからが最初のカンファレンスになります。
榎本先生は
皮膚筋炎
大内先生は
リウマチ性多発筋痛症
長野先生も
リウマチ性多発筋痛症
ですが、側頭動脈炎という但し書きが付いています。
ここから除外できるもの、
他に可能性はないのかを検討していきます。
榎本先生は皮膚筋炎ではないかとした理由として、
全身の痛み、肩こり、飲み込みづらさを挙げました。
これらの症状から、
体幹部の筋肉に炎症が起こる「近位筋障害」の可能性を指摘。
皮膚筋炎は自己免疫疾患の一種で、
まぶた、手、指などの関節に発疹が出来、
左右対称に筋肉の障害による筋力の衰えなどが症状で、
進行すると嚥下障害にも至ります。
5~15歳、そして50~60歳代の女性という二極化した層に多い病気です。
大内先生は中高年の女性に多く、
微熱を伴うことから、リウマチ性多発筋痛症としました。
これは、肩、腰、太ももなどの筋肉痛、
そして、手などに関節痛を引き起こすことがあります。
長野先生もリウマチ性多発筋痛症としましたが、
側頭動脈炎を加えています。
側頭動脈炎は、こめかみや顎などの動脈に炎症を起こす病気で、
高齢者に比較的まれに見られますが、
放置すると失明に至り、
リウマチ性多発筋痛症と合併することが多いともされています。
彼ら3人の研修医の鑑別の共通点は、
いずれもそれが
自己免疫疾患の病気である膠原病
という点です。
本来、私たちの免疫系は外部からの侵入者に対し備えられていますが、
自分の筋肉や骨、関節、皮膚を攻撃することがあり、
これを自己免疫疾患と呼んでいます。
この場合、皮膚筋炎だとすると、、
患者の免疫系が自分の皮膚と筋肉を、
そして、リウマチ性多発筋痛症の場合は、
筋肉と関節を攻撃していることになります。
ただし、谷口先生は患者さんに高齢者が多いことから、
リウマチといっても、わかりやすく
リウマチ性多発筋痛症を筋肉リウマチと呼び、
関節リウマチとは分けて説明されているそうです。
関節リウマチは比較的小さな関節に、
左右対称に症状が出るようです。
次に「そうではない可能性」についても考えます。
もしも、皮膚筋炎であったなら、
1週間でここまでに至るように急性発症はなさそうです。
また、激痛が起こるのは典型的ではありません。
すると、皮膚筋炎の可能性は低くなります。
ここで榎本先生は顎が痛いと訴えていたことから、
開口障害を考えました。
そして、いずれにせよ、土を触っていた時の傷から、
破傷風になった可能性を指摘しています。
破傷風は土の中の菌が傷口に入り、
その毒素が神経を冒して全身の筋肉が硬直し、
手遅れになると命にもかかわる病気です。
しかし、谷口先生は、たしかに破傷風は痛みという症状はあるものの、
痛みより先に引きつりのほうが大きく、
酷くなると光の刺激だけで痙攣を起こすようになるそうです。
では、蚊がいたことから、
蚊が媒介する病気はどうでしょうか?
たとえば、日本脳炎。
日本脳炎ウイルスの感染によっておこるこの病気は、
中枢神経が冒されます。
しかし、1960年代には年間1000人程度の患者が発生していたものの、
積極的にワクチン接種を行った結果、
現在は10人程度ではないかと推定されています。
今回の患者さんがこの10人の中にいないとは断定できませんが…、
日本脳炎の症状には高熱が含まれています。
患者さんは微熱。
日本脳炎ではないようです。
長野先生は悪性腫瘍の可能性も考えながら、
診断していきたいと発言。
谷口先生は、患者さんが必ずしも、
それが聞きたかったんや
というような症状ばかりを話してくれるとは限らないと話します。
ここで症状をまとめましょう。
患者さんの痛みの特徴は、
・全身
・顎
・肩
・膝
・というような大きな関節
・急性の痛み
というものでした。
急性且つ全身の痛み。
しかし、患者は全身が痛いと訴えていましたが、
必ずしも、全身が本当に痛いとは限りません。
一部分かもしれません。
その場合は、痛みの根っこを捜し出すことになります。
…続きます。
(今夜は大がかりな記事は作れませんので、明晩に)