先週のサイエンスZEROのお話。
日本のコイが絶滅の危機にあると聞けば、
信じられるでしょうか?
日本の、とお書きしましたが、
実は日本にいなくなるということは、
世界のどこにもいなくなるということかもしれません。
そんなお話でした。
コイといえば、私たちにとってとても身近な淡水魚で、
世界中に分布しています。
コイにはこんな姿をしたものいます。
インドネシアなどに住むヒレナガゴイ。
日本のニシキゴイもいますね。
いろいろな姿をしたコイがいますが、
生物の種としては世界で1種、
コイ(Cyprinus carpio/キプリヌス・カルピオ)
しかいません。
全てコイ目コイ科コイ属コイという種であり、
違いは「品種」の差だとされています。
番組のタイトルには
絶滅
とありました。
本当にコイが絶滅するのでしょうか?
私が出勤などで駅まで行く道で、
川沿いを歩いた場合、季節次第で、
30cmのコイを多数見かけることは珍しくありません。
それが絶滅しようとしているとは?
日本一大きな湖、琵琶湖ではコイ料理が名物です。
煮付けるだけではなく、刺身にもします。
そんな琵琶湖で長年漁をしている漁師さんは、
今は少なくなった。
まあ、言うたら幻やね
と嘆きます。
そして、
コイは2種類おるから
と…。
1種類のコイしか記載されていないのは事実です。
それなのに、コイが2種類とは?
琵琶湖博物館に行ってみますと、
コイを分けて展示してありました。
こんなコイと
こんなコイです。
上のコイは流線型に近い体型で、
下のコイは体高が高くなっています。
古くから、琵琶湖などではコイには2種類あることが
経験的に知られていて、
一般に細身のほうを
ノゴイ(野鯉)
と呼んでいます。
絶滅するのではないかといわれているのは、
このノゴイのことだったのです。
私たちの目につきやすいのは、普通のコイです。
これは人間に対する警戒心でもわかります。
池の鯉に餌をやっている映像を見ることがありますが、
彼らはそもそも人間が来ても、
ほとんど逃げません。
しかし、ノゴイの場合は人間が来そうだと察知すると、
遠くへ逃げてしまいます。
実はこの問題に最初に取り組んだのは、
私たちのよく知る人物、
フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト
でした。
ドイツ人医師であり博物学者である彼は、
動物、魚類についても観察しています。
著書「日本動物誌 魚類」の中には
普通のコイ「キプリヌス・カルピオ」も掲載されています。
そしてノゴイも。
彼はコイとノゴイを別の種だと考えました。
ノゴイの学名を
キプリヌス・メラノータス
と名付け新種として主張します。
しかし、当時の研究者たちは、
少し痩せているカルピオだと考え、
シーボルトの主張は退けられてしまいます。
時は流れて2004年、
日本各地をコイヘルペスウイルスが襲いました。
この時、琵琶湖で死んだコイの多くが、
細身のノゴイだったのです。
普段、あまり見ないはずのノゴイばかりが死んでいるのは、
なぜなのか、DNAを解析してみることにしました。
ユーラシア大陸のコイはカルピオタイプのDNA1種類ですが、
琵琶湖でコイヘルペスにより死んだコイのDNAでは、
カルピオタイプが数%程度しか確認されませんでした。
カルピオタイプではないDNAを持つコイ、
それがノゴイなのでした。
そのため、ノゴイを別の種として
記載するべきだという意見が増えてきています。
シーボルトの主張は正しかったのでしょう。
コイとノゴイ、実は元々日本には
ノゴイしかいなかったと考えられています。
カルピオ、私たちがコイと呼んでいる淡水魚は、
人間が養殖の過程で作り出した種だったようです。
背中の肉が盛り上がっているのは、
食用のためなのでした。
もちろん、長い年月のことですから、
あらゆる段階でのカルピオが放流され続けて、
交雑が起こり、純粋な野生種であるノゴイは
いなくなってしまいました。
しかし、ノゴイは琵琶湖に生きていました。
古代湖である琵琶湖には水深があります。
ノゴイはカルピオに生活圏を負われてきたのでしょう。
深い場所は気道の関係上、
カルピオは不得意で、
ノゴイは深く潜ることで、
生き延びてきたのではないかと考えられます。
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サイエンスZERO 「絶滅危機!日本のコイ」
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