オキシトシン。
私が最初にこのホルモンの名前を読んだのは、
医療現場のノンフィクションで、
病院や医師の都合で投与される陣痛促進剤としてのものでした。
だから、あまり印象のよくない物質だったんですが、
その後も、このオキシトシンという文字を見続け、
本来のオキシトシンには違う意味があることを知り、
さらに最近、どんどんこのホルモンの役割が明らかになるにつれ、
私にとって最も興味のある体内物質となりました。
サイエンスZERO「心と体を支配する!神秘の物質ホルモン(1)~性ホルモン」
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11875531648.html
前回同様今回も、
この春のNHKスペシャル「人体 ミクロの大冒険」から、
新たなお話を交えつつの番組。
オキシトシンでよく知られているのは、
陣痛を促すホルモンとしてでした。
そして、母の子への母性愛。
ただ、オキシトシンは母子関係だけではなくて、
様々な人間関係に関わりがあることが分かってきています。
愛情
信頼
それもオキシトシンの影響を受けていることも、
既に事実として認識されているんです。
ところで、オキシトシンスプレーなるものがあります。
点鼻剤なんですけれど、
日本では認可されていない薬品です。
その名のとおり、オキシトシンを鼻から入れるものなんですが、
調べてみますと、個人輸入の形式で代行業者が売っていますね。
「サイトを見ますと必ず女性名義で」とあります。
悪用されるとたいへんな事件にもなりかねない物質ですので、
世界規模で規制しなければならないと思います。
本題に戻ります。
そのオキシトシンスプレーを使用した実験。
被験者は50組のカップルで、
それを二組に分け、一方にはオキシトシンを使用、
もう一方にはオキシトシンを使用しません。
実験内容はまず、それぞれのカップルに、
個室に入ってもらい、二人が抱えている問題について、
真剣に話し合ってもらおうというもの。
それを研究者が別室でカメラを経由してモニタリングします。
研究者が見るのはその話し合われている内容そのものよりも、
カップルの行動でした。
・目を合わせる
・相手に触れる
・理解を示す発言
などがあるとプラスのポイントを、
・意見の相違
・攻撃的な発言
・侮辱する言動
が見られた場合はマイナスのポイントをつけていきます。
カップルはそれぞれ、あの時の約束は、とか
なぜあの日、夜遅かったのかとか、
問題点、疑問点を相手に質問しています。
質問する側はどうしても詰問の口調になりがちです。
その話し合いで見られる行動は様々ですが、
それを上記のルールで採点していくと、
オキシトシンスプレーなしのカップルと、
オキシトシンスプレー後のカップルでは、
その平均点は異なるものとなりました。
オキシトシンは脳に作用して
人間同士の心の交流を深める働きがあるようです。
人間は単独で生活する生物ではありませんので、
その生物としての根源的な仕組みだと考えられます。
このような実験は欧米を中心に
非常に盛んに行われてきていて、
オキシトシンにより、母親の子供に対する愛情や
夫婦、恋人間の愛情が深まるという結果が出ています。
オキシトシンが作用するのは、
脳の中の報酬系という部分。
欲求が満たされるなどした時に活性化し、
快感を生み出します。
母子間や男女間だけではなく、
たとえば、投資を行った場合、
投資者がオキシトシンの影響が強く出ると、
その投資額が増える傾向にあり、
また、その投資が失敗に終わった場合でも、
オキシトシンが再投与されたならば、
再び相手を信頼するようになります。
このような盲信状態に陥らせる可能性を持つオキシトシンなので、
欧米の多くの国では母乳の出を促す薬品として、
病院で処方されています。
よって、私は個人輸入の完全禁止をするべきだと考える訳です。
さて、ホルモン、神経伝達物質であるオキシトシンですが、
本来は視床下部にあるオキシトシン細胞から分泌されています。
脳内のホルモンを分泌する細胞のほとんどが
視床下部に存在していて、
前回のGnRH細胞もそうでしたね。
これはネズミのオキシトシン細胞。
白っぽく光らせているのがそれです。
そして下方向へ伸びてから左へ向かっている
ピンク色の部分から全身へとオキシトシンが放出されます。
そして、黄色く光らせた部分。
これはそれとは別に、
ここから脳内へとオキシトシンを放出しています。
2年前まで、オキシトシンは体の中に放出されるだけで、
直接脳へ放出されているとは知られていませんでした。
それが新たに発見された訳ですが、
よりダイレクトに行動に影響を与えるためなのでしょう。
こうして私たちの社会的行動を制御しているものと考えられます。
その機構も特殊なもので、
普通、血液に乗った物質は
血液脳関門で遮られるようになっていますが、
オキシトシン細胞は突起を長く延ばすことで、
脳細胞にオキシトシンを届けられるようにしています。
ハタネズミです。
このハタネズミには同じ種でありながら、
山岳ハタネズミと平原ハタネズミという
習性が異なるグループが存在しています。
この2つのハタネズミの脳を比較がこれ。
オキシトシン受容体を黒く染めてあるんですが、
平原ハタネズミのほうが
より多くの受容体があることがわかります。
山岳ハタネズミは単独で生活し、
つがいになることはありません。
しかし平原ハタネズミの場合は、
一生同じパートナーと過ごし、
子育てもオスメスが協力して行います。
より強い愛着行動を示す平原ハタネズミに
オキシトシン受容体が多いということは、
その影響を受ける細胞、部位が多いということであり、
平原ハタネズミが他者との関係を
重要視している生態であるからでしょう。
また、平原ハタネズミの脳で特に黒くなっている
より多くのオキシトシン受容体が分布している部分は
側坐核という領域で、
これが前出の報酬系に当たります。
ここがオキシトシンを受け取りますと、
その作用で興奮し、相手に対して執着するように。
また、恐怖、不安、ストレスを制御する扁桃体という部位にも
オキシトシンは働き、その作用でそれらが沈静化、
興奮状態が抑制されるという効果も生んでいます。
…続きます。
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