軍師官兵衛第28話「本能寺の変」その背景～時系列で見る本能寺の変～

敵は本能寺にあり！

という明智光秀の台詞はおそらく後の創作なんでしょうけれど、
もしも、本当にそれを叫んでいたとしても、
ほとんどの兵たちは、それがどういう意味を持つのか、
よくわからなかったのでしょう。
どうやら、進軍の方向が変わったようだが、
本能寺とやらはどこにあるのか、
そこに誰がいるのか、
それを理解していた兵は少なかったと思います。
後に光秀配下の本城惣右衛門が
「家康を討つものだと思っていた。本能寺という場所も知らなかった」
という覚書を残していますが、それが事実だとしても
それが明智軍全体の認識であったかどうかはわかりません。

本能寺の変の光秀謀反の動機については、
今作では天皇を蔑ろにする信長を討つというものが主でした。
私もここでお書きしたことがあるんですが、
「邪馬台国はどこに」同様、
学問でさえない部分を多く含んでいます。
そこで、今回はそれを脇に置いて、
この変を時系列的に見てみたいと思います。

天正10(1582)年5月15日、
備中高松城攻めの羽柴秀吉から援軍の要請を受けます。
毛利本隊の到着が予想されていましたので、
それへの対応です。
この直前に武田を攻めて戦勝した織田信長の帰還があり、
徳川家康の功績を称えて、饗応の宴が開かれていました。
その接待役が光秀でしたが、
秀吉からの援軍要請に、信長は光秀にその役目を命じます。
ここで光秀は接待役の任から解かれる訳ですが、
それについては、光秀の接待が気に入らない、
あるいは光秀の発言が気に入らないかで、
信長が光秀を足蹴にしたという記録もありますが、
信憑性のほうは不明です。
光秀は出陣の準備のため、居城の坂本城へと戻り、
26日にはもう一つの居城、丹波国亀山城へに入りました。
27日、愛宕権現に参籠して戦勝祈願、
28日に連歌の会を催し、発句の光秀が
「時は今天が下しる五月哉」と始めたことで、
後に、「時」と明智家の出自「土岐氏」をかけて、
謀反の決意が込められているのではと言われるようになりますが、
その真意は光秀のみが知るところです。

29日、織田信長が本能寺入り。
これは彼自身も中国入りするためのもの。
手勢は最大でも100人程度と考えられていて、
本来なら、これから軍が集結するはずだったのでしょう。
翌6月1日、本能寺で盛大な茶会。
信長にしては珍しく大勢を招いての茶会だったと。

その夕刻、光秀は1万3000の兵を率いて、
亀山城を出陣し京を目指します。
翌未明、桂川を渡河したところで
「敵は本能寺にあり」と言ったとか言わなかったとか。

早朝には本能寺を包囲した明智光秀の軍。
物音に気付いた信長が森蘭丸に確認に向かわせます。
蘭丸は寺が既に包囲されていること、
旗には明智の桔梗紋が見えると報告、
ここで信長は明智光秀が謀反に及んだことを知ります。
蘭丸ら小姓たちは信長に脱出を勧めますが、
蘭丸の報告から推察できる兵数からそれは不可能だと信長は判断、
その時に「是非もなし」と言ったと伝わります。
明智軍の侵入に弓で応戦する信長、
弓の弦が切れ、槍を手応戦しますが、
肘を負傷し、奥へと後退します。
その時、女衆が供を申し出たものの、
信長は脱出を指示、蘭丸に火を放たせ、
彼自身は奥の部屋に籠もり、自刃。
この当日の本能寺の様子は「信長公記」の記述に沿ったものですが、
「イエズス会日本年報」ルイス・フロイス書簡によれば、
明智軍の兵は抵抗されることなく寺へと入り、
手と顔を洗っている信長を見つけ、
水を拭っているところに矢を射、信長の肋骨に命中。
彼はそれを抜き取って、薙刀を手に取り応戦、
銃弾を受けたため、奥の部屋へと籠もりました。
この後、信長は切腹したとも、
火を放って焼死したとも言われている、
とされています。

明智光秀謀反の動機に比べて、
変そのものについての差異は小さいかもしれません。
とにかく、短時間で事は済んだようです。
しかし、近年の発掘調査で
当時の本能寺には堀や土居などで防備されていたことがわかりました。
それでもあっという間に落ちてしまったのは、
100対1万3000だったから、
あるいは本能寺に明智軍が堂々と入ったからかもしれません。