軍師官兵衛第35話「秀吉のたくらみ」その背景～伴天連追放令から日本二十六聖人殉教～

豊臣秀吉が突然、キリスト教布教を禁止しました。
戦国時代、西洋との交易は未知の技術、知識、物品の輸入は
権力者の利益です。
織田信長はそれらがもたらす宣教師の布教活動を容認し、
秀吉もそれを踏襲していましたが、
1587年にそれを禁じます。
これを伴天連追放令といいますが、その理由については、
諸説あるといいますか、きっと一つの理由ではないのでしょう。
一つにはかつての一向宗のように、
織田政権を脅かすような大きな武装集団になることを恐れたという理由、
他には、当時のキリスト教徒が神道や仏教の寺社を破壊していたこと、
そして、ポルトガル人が日本人を奴隷として
売買することを防止するためなどの理由が挙げられます。

伴天連とはポルトガル語でpadreからの転、神父を意味します。
キリスト教宣教を禁じる伴天連追放令で、
宣教師は20日以内の国外退去も命じています。
ただ、信仰そのものについては禁止しておらず、
布教に関わりのない外国人には影響がないことも、
この文書には明記されていて、
仏法の害にならない者であれば、
その往来についても許可しています。
つまり、キリスト教布教は困るものの、
貿易による実利は欲しいという訳です。

追放令は出されたものの、
この通達を曲解しての宣教師に対する暴力も禁止していて、
この追放令を以てキリスト教徒迫害が始まったと
いえるかどうかは疑問があるかもしれません。
具体的には徳川の時代になってからの慶長の禁教令以後、
はっきりと迫害といえるようになったといえるでしょうか。
ただ、豊臣秀吉もキリスト教徒を迫害しなかった訳ではありません。
サン=フェリペ号事件～日本二十六聖人殉教では、
豊臣政権のキリスト教に対する姿勢がよく現れていると思います。

伴天連追放令発令から9年後、
土佐にスペインの船が漂着します。
外洋を航海する西洋の船には宣教師が乗っているものです。
台風の被害を受けたこの船の修理の許可を秀吉に求めますが、
秀吉の側は彼らを海賊であると断じ、中米や東南アジアの国と同様に、
日本を武力制圧するため、測量に来たものだとします。
積み荷と金品、航海日誌などは没収され、
無一文のまま進退窮まった船員たちは繰り返し船の修理を求め、
難破から9ヵ月後に日本を離れることが出来ました。

そのサン=フェリペ号の船員が全財産を奪われ、
出航するために船の修理を求める際に、
イエズス会よりも後に日本に来ていた修道会フランシスコ会を
頼ろうとしていたのですが、
頼みのフランシスコ会の宣教師たちは投獄されていて、
彼らは処刑されることになります。

伴天連追放令の後も、イエズス会の宣教師はひっそりと宣教活動を続けており、
それは豊臣政権の知るところではあったようですが、
大っぴらに行わない限りはと、見逃していたとのこと。
フランシスコ会の場合、それを派手にやり過ぎたのか、
秀吉は大坂と京にいるフランシスコ会の宣教師と、
キリスト教徒を捕縛させます。
フランシスコ会員7名と信徒14名、イエズス会関係者3名が捕らえられ、
秀吉は彼らの耳と鼻を削いで市中引き回しの上長崎での処刑を命じます。
捕縛に当たっては、京都奉行の石田三成が担当しましたが、
彼はイエズス会関係者を除外しようと努力するものの失敗、
しかし、耳と鼻を削ぐことについては、
左耳たぶのみで済ますことが出来たのは
彼の尽力によるものともいわれています。
長崎への道中、イエズス会員の身の回りの世話を担当した信徒も捕縛。
26人は長崎の西坂の丘を刑場として望んだとされ、
そこをイエスが磔刑となったゴルゴダの丘になぞらえたから。
西坂の丘で彼らも十字架に磔になり、
そこから自分たちの信仰の正しさを叫んだと伝わります。
そして彼らはそれぞれ両脇から槍で突き殺されたのでした。
彼らが日本で初めてキリスト教における殉教者となりました。
この事件は日本人の間では忘れ去られてしまいますが、
ヨーロッパで語り継がれていくこととなります。