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花燃ゆ 第3話「ついてない男」 その背景 ~松陰の行動原理 陽明学・知行合一とは?~

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幕末の長州のここまでで見るべきもののうち
今のところ、1/100も描かれていませんね。
吉田松陰だけでも脱藩と奥州の旅、
プチャーチンのロシア船への乗り込み失敗、
ペリーのアメリカ船での渡米失敗と、
この時期に欠かせない面白い話をすっ飛ばして、
何を描いていたかといえば、
後に夫となる久坂玄瑞との馴れ初めの創作話と、
その後に夫となる楫取素彦との馴れ初め創作話。
歴史的な出来事に創作話を入れ込む場合、
その歴史との親和性とに歴史に対する敬意、
歴史上のエピソードに負けないだけの創造力が必要でしょう。
彼は神籤で凶を引き、文と出会って大吉を引く。
だいたい、そこまでのストーリーが不合理過ぎます。
これが歴史を借りた物語ではなくとも、
架空の若い男と若い女の話だったとしてもおかしな点ばかり。
盗み聞きされたことがわかっていても、
同じ場所で命に関わるような密談を続け、
その盗み聞きの主を見ても久坂玄瑞は誰何しない。
おおよそ、生きている人間ではあり得ないことです。
家族を立て続けに失い、神籤で凶を引いたから「ついてない男」って。
視聴者は主人公が楫取素彦と久坂玄瑞と結婚することを知っていて、
それぞれの馴れ初めの描写を見た視聴者は、
その件をそのためのものだと認識することでしょう。
そのぶん、視聴者は冷めた目でその件を見ることとなりがちなぶん、
それに負けない創作が必要ですが、
あまりにもチンケ過ぎて鼻で笑う気さえおきないぐらいで
ドロップアウトしたくなりました。

さて、劇中に「知行合一」という言葉が聞かれました。
私がこのブログでこの四字をお書きするのは、
東日本大震災直後以来となるでしょうか。
江戸時代、学問といえば儒教、儒学のことでした。
儒学といえば、孔子を祖とする思想です。
この儒学はその長い歴史の中で、
孔子の言葉の解釈の違いなどから分派が生まれていきます。
その中の一つで、12世紀、儒学の中興の祖とされる
朱熹(しゅき/日本読み)がまとめたのが朱子学と呼ばれる考え方です。
江戸時代の日本で儒学といえば概ねこの朱子学を指しました。
物事をよく見つつ書に臨みその真理を得ようとする「格物致知」、
行うのは知るという過程を経た後であるべきだとする「先知後行」、
そして身分制度などの考え方が支配者としての徳川幕府に都合が良く、
260年間庇護されてきたのでしょう。
よく知ろうともしないで行動を起こすな、
こういう考え方は正しいのですが、
現状を改めるという行動には時間がかかり、
また、その意欲も抑制されていきます。
16世紀の中国では朱子学にありがちな机上の空論が繰り返され、
朱子学に対する疑問を持つことすら許されない実情を見て、
王陽明が実践的儒学、陽明学(後世の呼び方)を誕生させました。
生まれながらの善なる心こそ真理であるとする「心即理」、
心と一体である体は真理であるから、
私欲のない心で物事を進めていけば良いとする「致良知」、
物事を知ることと行うことは同じ良知によりなされるもので、
知っていて行わないのは知らないのと同じであり、
行動を伴わない知識に意味はないとする「知行合一」などがその特徴です。

物事を疑ってかかろうするのはどちらなのかは明白です。
そして、現状を行動で改めようとするのはどちらかも。
朱子学が幕府に有り難がられ、
陽明学は危険な思想ともいえます。
実際、支配者からの視点ではなくとも、
陽明学には危険な一面もあります。
なにしろ、その問題を認識しつつ、
行動を起こさないのは、その問題を認識出来ていないということなのですから、
認識から行動までの時間は極端に短くなります(陽明学的には無ということか)。
私の好きな陽明学者に大塩平八郎がいますが、
彼は天保の大飢饉での大坂での米不足から、
大塩の乱を起こし、敗れて息子共々自ら爆死しています。
吉田松陰なども陽明学者を自称しています。
彼が東北へ行くためになぜ脱藩という大罪を犯したのか、
また、なぜロシアやアメリカに渡ろうとしたのか、
そこにはこの陽明学的な発想があります。
極端な行動力の源ともなった日本の陽明学には危険な一面もあり、
幕末を代表する陽明学者・山田方谷は弟子たちが望んでも、
その人物を選んで陽明学を教えたといいます。
無闇矢鱈に陽明学を広めることの危険性を知っていたのでしょう。
心に問い、心から生まれた理論に真理を求めた朱子学と、
心に問い、心から生まれた理論を実践して真理を得ようとした陽明学、
現代社会においても、
どちらともが必要な考え方ではあろうかと思います。




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