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世阿弥「秘すれば花なり」・松尾芭蕉「謂い果せて何かある」 -メッセージソング今昔-

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またまとまりのないお話を。
誰でも小学校、あるいは幼稚園かそれ以下から、
何かしらを創作していて、
それは道を歩いていてのオリジナルの鼻歌だったり、
授業での作文だったり、水彩画だったりします。
私も創作を創作だと思わず、そういったことをしてきましたが、
ある程度長じてからは、他の人よりも
創作活動をしてきたと思います。
そして、創作という行為が自分に向いていないと思い続ける訳なんですが。

秘すれば花なり

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」は
能楽師、能作者・世阿弥の言葉。
私の頭の中で、芸術論を考えた時に、
昔はこれに対して反発していたこともありました。
芸術という言葉も好きではありませんでしたね。
その頃の私が何より大切だと考えていたのが、
第一印象での美だったと思います。
手紙だと、たとえばいわゆる「達筆」なものを書いたとしても、
受取手がそれを読めなければ、それは手紙ではないんですよね。
書き手の言いたいことが伝わらないのですから。
相手が読めるかどうかを無視している時点で、
それはもう手紙でも何でもないわけです。
ただ、だんだん「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」の奥に
秘めた花の色が見えてくるにつれ、
この言葉が好きになりました。


さだまさし「主人公」


時には思い出ゆきの 旅行案内書にまかせ
"あの頃"という名の駅で下りて
"昔通り"を歩く
いつもの喫茶には まだ時の名惜りが少し
地下鉄の駅の前には"62番"のバス
鈴懸並木の古い広場と学生だらけの街
そういえば あなたの服の模様さえ覚えてる
あなたの眩しい笑顔と
友達の笑い声に
抱かれて 私はいつでも
必ずきらめいていた

"或いは""もしも"だなんてあなたは嫌ったけど
時を遡る切符があれば欲しくなる時がある
あそこの別れ道で選びなおせるならって…
勿論 今の私を悲しむつもりはない
確かに自分で 選んだ以上精一杯生きる
そうでなきゃ あなたにとても
とても はずかしいから
あなたは教えてくれた
小さな物語でも
自分の人生の中では
誰もがみな主人公
時折思い出の中で
あなたは支えてください
私の人生の中では
私が主人公だと




映像が歌の中にあり、そしてメッセージが込められています。
"私の人生の中では 私が主人公だと"歌われていますので、
特に隠している訳ではないのでしょうけれど、
これは"あなた"が"私"に対して言った言葉で、
あくまでも物語の中での言葉。
物語の中でそのメッセージを聞かせる歌は、
今はなかなか聞けません。
私がしつこいぐらいに嘆いている今のメッセージソングなんですけれど、
今だと、この「主人公」のメッセージの一つを伝えようとするならば、
歌い手が聞き手に自分の言葉として
"あなたの人生の主人公はあなたなんだよ"と、
歌詞の中で直接歌ってしまいそうです。
それで昔のように売れているならともかく、
なぜか今はこういう直接的な歌詞が多いですよね。
この書き方だと、奥行がなくなりますし、
バリエーションに乏しくなりますので、
誰が歌っても同じメッセージになりがちです。
そして、何様感満載になることも。
特に生き方、人生観を歌ったものが多くなると、
世の中、何様だらけになってしまいます。


いひおほせて何かある

松尾芭蕉が弟子・松尾芭蕉が
弟子・向井去来の句の評の中で言ったとされる言葉です。


下臥しにつかみ分けばや糸桜

枝垂れた桜の下に寝そべって、
垂れ下がっている花を掴みたい、
そんな去来の句で、彼はその桜について、
この句で言い尽くすことが出来たとしました。
それを芭蕉は批判しました。
この句は去来が言おうとしていることが
表されているのかもしれないものの、
全てを言い果せた時に、そこに何かがあるのか、
何の意味があるのか、芭蕉はそれを問いました。
特に日本の芸術はそうですよね。
俳句の場合は、十七文字にはない部分を見せようとしますし、
日本の美術、絵画だと、
他の文化では考えられない何もない空間が広く設けられて
生け花とフラワーアレンジメントの違いでもそれは感じられます。
描きたいものは描ききりつつも、
そこにはまだ何かがあるというのが日本の美意識なのでしょう。
そうではない歌詞が悪いというわけではありませんが、
簡明直截なものばかりだと、
歌の楽しみが狭くなってしまいます。


昔から作詞では歌い出し数行で、
その状況、情景を描いていることが多かったのですが、
次の曲では特にその歌い出しで
非常に細かく歌い手が見ている映像を歌詞にしています。
そして、非常に全体的に言葉数が多い曲です。
その中にメッセージが入れられていますが、
多量の言葉を用いた上でも、
その上で、まだ何かあるんですよね。

中島みゆき 「傾斜」

傾斜10度の坂道を
腰の曲がった老婆が 少しずつのぼってゆく
紫色の風呂敷包みは
また少しまた少し 重くなったようだ
彼女の自慢だった足は
うすい草履の上で 横すべり横すべり
のぼれども のぼれども
どこへも着きはしない そんな気がしてくるようだ

冬から春へと坂を降り 夏から夜へと坂を降り
愛から冬へと人づたい
のぼりの傾斜は けわしくなるばかり

としをとるのはステキなことです そうじゃないですか
忘れっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
悲しい記憶の数ばかり
飽和の量より増えたなら
忘れるよりほかないじゃありませんか

息が苦しいのは きっと彼女が
出がけにしめた帯がきつすぎたのだろう
息子が彼女に邪険にするのは
きっと彼女が女房に似ているからだろう
あの子にどれだけやさしくしたかと
思い出すほど あの子は他人でもない
みせつけがましいと言われて
抜きすぎた白髪の残りはあと少し

誰かの娘が坂を降り 誰かの女が坂を降り
愛から夜へと人づたい
のぼりの傾斜は けわしくなるばかり

としをとるのはステキなことです そうじゃないですか
忘れっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
悲しい記憶の数ばかり
飽和の量より増えたなら
忘れるよりほかないじゃありませんか

冬から春へと坂を降り 夏から夜へと坂を降り
愛から冬へと人づたい
のぼりの傾斜は けわしくなるばかり

としをとるのはステキなことです そうじゃないですか
忘れっぽいのはステキなことです そうじゃないですか
悲しい記憶の数ばかり
飽和の量より増えたなら
忘れるよりほかないじゃありませんか



寒水魚/中島みゆき

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