NHK総合テレビの「ガッテン!」では、
ベルソムラ騒動があり、
その再放送の中止と謝罪と訂正が行われました。
NHK「ガッテン!」 糖尿病患者に適用外処方の睡眠薬を勧める
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-12251142061.html
ただ、その謝罪、訂正が行われた今週の放送でも、
コラーゲンの健康効果を扱っていました。
私はコラーゲンの経口摂取により、
美肌効果やその他の健康面への作用はないという立場ですが、
以前もお書きしたように、
もしかすると、何らかの作用があるのではないかと、
その可能性も考えなければならないと思っています。
理論は番組で紹介されたものの、
それは実験によって確かめられるべきで、
それも二重盲検法のような
プラセボ効果や観察者バイアスを除去できる方法で
検証されなければなりません。
今回の「ガッテン!」でも、
それは行われていませんでした。
NHKを駆り立てているのは何だろうかと思います。
視聴率が欲しいのでしょうか。
それにしても、雑ですよね。
しかも、次回は
「突然の激痛!意外と知らない“盲腸"の真実(仮)」とのことで、
虫垂炎がテーマなのでしょう。
人体にとって虫垂が無駄ではないことは周知のことで、
そこを扱ってくるとは思うんですが、
この番組は「お役立ち情報」を扱う番組で、
その種の知識をありがたがる番組ではありません。
まさか、抗菌薬で対処できない虫垂炎も
切らない方がいいとか言わないとは思うのですが、
既に医療関係者の方々の中からは心配の声も聞かれます。
虫垂炎の誤った情報は、
人を殺しますので、どうなるのでしょうか。
余計な話が長くなりました。
「ガッテン!」では不眠症治療薬のスボレキサント(商品名:ベルソムラ)を
糖尿病患者に勧めて大炎上した訳ですが、
昨年夏のEテレ「サイエンスZERO」もある薬を
ほかの病気の治療に使用しようというお話でした。
ただし、これらは似て非なる方向性のものです。
昨年から今年にかけて、
がん治療薬の「オプジーボ」が高額すぎると話題になりました。
それは肺がん患者が1年間使用した場合、
3,500万円にもなるというもので、
医療費が国民皆保険制度を破綻させることになりかねないということで、
緊急的に半額になりました。
政府がいえば半額になるのかという疑問もあるのですが、
今後も高価な医薬品は開発され続けることになります。
医薬品の新規開発には莫大な費用と時間がかかります。
創薬には基礎研究、非臨床試験、臨床試験の後、
厚労省の承認審査から承認、販売となり、
販売後調査、販売後試験という流れですが、
ここまでに十数年かかることも多く、
1千億円以上もの費用になることも。
しかも、その過程で脱落する新薬のほうが多く、
研究の初期段階から製品として販売されるまでに至る新薬は
3万件に1件に過ぎないとも言われています。
さらに、薬に必要な化合物も
既に出尽くしているのが現状で、
新薬の開発は難しくなっています。
そこで注目されているのが、
既存の薬をほかの病気に使用できないかという研究、
ドラッグ・リポジショニング
です。
日本語では「薬の再配置」となります。
今、思いつく中で、薬といえるかどうかはともかく、
比較的よく知られているのが
緑内障の治療薬がまつげの美容液に転用されたり、
心疾患の冠動脈拡張作用を持つ薬が
ED治療薬として生まれ変わったりしています。
大正製薬が発毛効果を謳うリアップにしても、
その成分であるミノキシジルは
50年ほど前に降圧剤として開発されたものでした。
これらは偶然に
目的外の新たな作用が見つかったことをきっかけとしたのかもしれませんが、
今はそれがより積極的に行われているということです。
現在は糖尿病に使用されていた
メトホルミン(商品名:メトグルコなど)ががんの治療に、
そして、高脂血症の薬であるスタチン系が
脳梗塞の発症を防ぐ効果があることがわかっています。
カルペリチド(商品名:ハンプ)という薬は、
心不全治療では一般的に使用されているもので、
血管を拡張し、利尿作用をもたらすことで、
心臓の負担を軽くします。
大阪・吹田市の国立循環器病研究センターの野尻崇医師は
このカルペリチドに肺がんの転移を防ぐ作用があることを発見しました。
心臓外科を担当していた野尻医師は呼吸器外科に異動、
肺がん患者などの治療に当たることとなります。
手術で肺組織を取り除くと、
心臓に負担がかかり不整脈を招くことが多いそうで
呼吸器専門の医師たちはあまり使用しないカルペリチドですが、
野尻医師は患者の心臓の負担を軽くする目的でこれを使用しました。
肺がんは転移しやすいがんで、その確率は5割。
予後も観察が必要になりますが、
野尻医師はカルペリチドを投与した患者の転移率が
3割に減っていることに気づきます。
彼自身、目を疑ったとのことで、
慎重に何度も何度もデータを照らし合わせて、
確信を得たようです。
その後の研究を経て、現在、臨床試験が行われています。
がんの転移抑制を標的とした創薬研究はほとんど行われておらず、
それも、血管内に作用する薬による治療は世界初とのことです。
薬を目的外で使用しようと思えば、
各種データを参照しつつ、
臨床試験を行う必要があり、
その結果を以て、初めてその目的での使用が認められることとなるのです。
この後、番組では「世界初のがん治療法」を紹介。
ドセタキセル(商品名:タキソテール)は化学療法に使用される抗がん剤ですが、
抗がん剤は使用するうちに、
がん細胞が耐性を獲得してしまうことがあります。
耐性がついてしまうと、
その抗がん剤の効果は期待できなくなってしまいます。
一昨年10月、慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室の大家基嗣教授と
小坂威雄専任講師らの研究グループは、
このドセタキセルに耐性がついてしまった患者に、
もう一度、効くようにする方法を発見したと発表しました。
そのために用いたのがC型肝炎の治療に使用される
抗肝炎ウイルス薬リバビリン(商品名:レベトール/コペガス)です。
臨床試験の対象となったのは前立腺がんを治療中で
ドセタキセルが効かなくなった患者です。
がん細胞が抗がん剤に耐性を持つということは、
いわば、細胞が自らの周りにバリアを張るようなものですが、
リバビリンはそのバリアを破壊し、
再び、ドセタキセルががん細胞に届くようになるというのです。
進行性の前立腺がんの治療では、
ドセタキセルの使用は極めて標準的な治療法とのことで、
現在も臨床試験は継続中ですが、
この方法が確立されますと、
ドセタキセルは胃がん、乳がん、子宮体がん、非小細胞肺がん、
頭頸部がん、卵巣がん、食道がんなどにも使用されますので、
がん治療の大きな前進になるかと思います。
世界初、リプログラミング療法の臨床試験に成功
―前立腺がんの進行に対する新たな治療法に― 慶應義塾大学医学部
(PDF)
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