先日、調べ物をしていまして、
私のウェルシュ菌対策についての知識が正確でないことを知った訳ですが、
そんな再勉強をしている時、
東京・足立区の生後6か月の男の子が
離乳食で与えられたハチミツが原因とみられる
乳児ボツリヌス症にて死亡したというニュースが目に入りました。
Twitterの医療クラスタのアカウントからは、
1歳未満の子どもにハチミツを与えてはいけないことは、
常識として周知されていると思っていたといったtweetが見られ、
私も報道に乳児ボツリヌス症のことが出てこないのは、
皆が知っているからだと思っていました。
私が見せてもらった母子手帳には書かれていたと思いますが、
どうやら、書いていないものもあるそうです。
ボツリヌス症はボツリヌス菌が作り出す毒素
ボツリヌストキシンを含んだ食べ物を摂取することで起きます。
ただ、乳児の場合、ボツリヌス菌の芽胞を摂取することで起きることが多く、
この芽胞は体内で発芽し、乳児では便秘のような消化器系の症状、
元気がなくなる、哺乳不良、
すわっているはずの首が不安定になるなどの症状が起こります。
ボツリヌス症は数日かかって発症することがありますが、
乳児ボツリヌス症は最大でひと月かかって発症することもあります。
それはボツリヌス菌が芽胞というカプセルのような構造を形作るからです。
芽胞は一部の細菌が増殖できない環境に置かれた時、
細菌細胞内部に形成されます。
一般的に、細菌は熱に弱く、
私たちも加熱調理することで細菌を殺しています。
しかし、芽胞の状態は熱に強く、
熱湯程度の加熱では不活化できません。
ただ、芽胞の状態ではない細菌は加熱することで無害化でき、
だから、離乳食は火を通すか、通したものになっていると思います。
しかし、ハチミツは加熱するものではありません。
ボツリヌス菌は土壌などの中にいますが、
通常、糖度と粘性が高いハチミツの中では増殖できません。
そこで芽胞を形成し、
周囲が繁殖できる環境に変わることを待ちます。
通常、人間は成長するにつれ、
消化管に多種多様な細菌を生息させるようになります。
最近は健康のために「腸内フローラを調えましょう」などといわれますが、
腸内の微生物群のことを「腸内フローラ」と呼び、
これが体内に取り込んでしまった有害な細菌を無害化しています。
乳児の場合、腸内フローラが未発達で、
さらに消化器系そのものも未完成です。
1歳未満の乳児にハチミツがタブーだというのはそのためです。
私が乳児ボツリヌス症について知らなかったのは、
毎年のように、数は少ないながらも発症例が報告されていた点です。
ほとんどの母子手帳には書かれているはずですので、
ほとんどのお母さんには周知されていると思うものの、
それでも、今後、しつこいぐらいにさらなるアナウンスが求められます。
なかなか食べてくれない離乳食に
ハチミツを混ぜたら食べてくれたなんていう話や
一部では生後1年ではなく、
6か月に短縮すべきという意見も聞きますが、
今回の事例により、考え直す必要があるでしょう。
子どもの年齢による食べ物の禁忌では、
「3歳までの豆類」もあります。
毎年、節分の頃に消費者庁が注意喚起のアナウンスを行っていると思います。
これぐらいの年齢までは喉が未発達で、
食べた豆が気道に入ってしまう可能性があります。
豆がそのままですと、窒息の可能性が、
破片ですと、誤嚥性肺炎や気管支炎を発症してしまいます。
子どもの豆類の誤嚥も事例がありますので、
注意が必要です。
乳児に対するハチミツについては、
読ませていただいたこちらの新刊にも書かれていました。
小児科専門医による子育てならぬ孫育ての本で、
もちろん、親世代にもおすすめです。
子育ての常識は時代によって変化します。
「おばあちゃんの知恵袋」なんていいますけれど、
経験則や言い伝えが
必ずしも正しいことばかりではないことも知っておくべきです。
一般に缶詰や瓶詰めは衛生的だと考えられています。
しかし、一部の細菌が芽胞を作るのは「繁殖できない環境」に置かれた時です。
殺菌済みで衛生面に配慮した環境で
密封加工されたものであれば問題ありませんが、
そうではない密封パックなどには注意が必要かもしれません。
「繁殖できない環境」は鍋の中にもあります。
たとえば、カレーの中。
カレーやシチューなどの煮物の起こりやすいのがウェルシュ菌食中毒で、
これは乳幼児だけの話ではありません。
ウェルシュ菌は43度~47度が増えやすい温度帯で、
繁殖に適さない環境では芽胞を形成します。
芽胞は100度程度では無害化できませんし、
環境の温度低下で発芽して増殖、
また、ウェルシュ菌が毒素を出しやすいのは37度前後だとされています。
カレーで考えますと、
鍋の中のカレーへの加熱が終わり、
常温の環境に放置された鍋では
43度~47度というウェルシュ菌が増殖しやすい温度帯を
ゆっくりと時間をかけて通過します。
そして、翌日などにカレーは温め直され、
ウェルシュ菌は芽胞を形成、
そのカレーを食べた私たちの体の中で発芽し、
ちょうど、私たちの体温というちょうど良い環境で
ふんだんに毒素を出し続けることになります。
あまり重篤なケースはないとされるウェルシュ菌食中毒ですが、
その可能性は知っておくべきかと思います。
カレーなどの保存では
43度~47度という増えやすい温度帯を短時間で通過させるために、
小分けにして冷蔵庫に入れ、
食べる時には鍋の全ての食材が
75度以上になるように1分以上加熱しましょう。
そして、よくかき混ぜること。
これは鍋全体をよく加熱するためと、
ウェルシュ菌は嫌気性ですので、酸素を嫌うからです。
これらの点から、電子レンジはウェルシュ菌対策に不向きです。
また、温めたままの場合は
毒素エンテロトキシンを無害化するため、
60度以上を保つ必要があります。
それと、その時食べる量よりも
あまり多く調理しないことも重要ではないかと思います。
あと食中毒予防で最後に一つだけ。
「においがおかしい物は腐っている」といえるかもしれませんが、
食中毒菌が繁殖していてもにおわないことは珍しも何ともないので
「においがしないので問題ない」とはいえません。
この点を過信している人が多いかと思います。
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