今秋は久しぶりに朝ドラを見ております。
吉本せいの半生はこれまでも何度かドラマや映画になっていて
昨年の藤山直美さんがせいを演じられた舞台は
松竹芸能が吉本興業創業の話を扱った点が意外でした。
実在の人物を元にした物語が多くなった朝ドラですが、
もちろん、モデルであってドキュメンタリードラマではありません。
そこここに彼女のエピソードが盛り込まれるなどしています。
吉本せいは「端席」、つまりろくな芸人が上がらない、
客も集まらない寄席小屋「第二文芸館」を買収しています。
ほかの小屋と同じことをしていては商売にならないということで、
彼女は木戸銭、入場料を割安にしています。
これが劇中の「風月亭」ですね。
おそらく、この命名は自然の美「花鳥風月」の言葉から、
実在する吉本の小屋「花月」を抜き取ったものでしょう。
なお、本物の「花月」の命名は
吉本泰三・せい夫妻が
「芸はパッとせんでも占いはよぉ当たる」と評判だった
落語家の桂太郎に占ってもらったところ
「花と咲くか、月と陰るか」と出たらしく、
そこからとも、
異説では法善寺で夫妻が引いた神籤の託宣によるとも。
あとは冷やし飴なんかも有名ですね。
泰三が経営に無頓着で芸人たちを連れて遊んでいる中、
暑苦しくて寄席に客足が遠のく夏の日、
せいは氷の上に冷やし飴の瓶を転がして寄席の前で売ることを思いつきます。
冷やし飴は主に関西で飲まれていたもので
溶かした水飴に生姜汁を加えたもの。
彼女はサイドビジネスとして始めたものが大繁盛し、
それを目当てに集まった客が
寄席に入っていくという好循環を生み出しています。
彼女が生きた演芸、興業の世界は
あの時代「えげつない」部分も多かったでしょうから
彼女にもそれはそれは「えげつない」話もあることでしょう。
朝から「えげつない」てんの姿は見せられないとは思いますけれど。
さて、笹野高史さんが大御所落語家「喜楽亭文鳥」として
「時うどん」を披露されていました。
さすがに名優の中の名優。
一席丸ごとだとどうかはわかりませんが、
落語ファンも納得できる大御所ぶりだったのではないでしょうか。
江戸の「時そば」は上方では「時うどん」です。
「時うどん」が明治の頃に東京に伝わって
「時そば」になったともいわれています。
実に単純な噺で、劇中にあったように
まだ一人前になる前の噺家さんが披露することも。
登場人物が多くなく、場面展開も少ない、
筋もわかりやすいこともあって
覚えるということではやりやすい噺なんだと思います。
ただ、そうであるからこそ、
高座では個性を出しづらい噺ではなかろうかと思います。
覚えているか、覚えていないか、
できるか、できないかでいえば、
たいていの落語ファンなら、
少し稽古すればできそうなのが「時うどん」「時そば」かと思います。
ただ、それを面白く、
且つ、その噺家ならではの色づけをして披露するには
やはり、相応の実力が必要となります。
私も「時うどん」では、「藤吉」が好きだという
「引っ張りな!」が大好きで、
前半は2人組でという設定で、
後半は1人ですけれども
主人公は2人で詐欺を働いた時と同じ動きを再現しようとします。
ただ、この2つの「引っ張りな!」は人物も違えば人としての性質も違い、
それなのに、後半の主人公は前半のツレを再現しようとするため
前半の「引っ張りな!」に、
後半の「引っ張りな!」を寄せる必要があります。
そして、同じではいけないという微妙な演じ分けが必要で、
落語家の技量がよく出る噺なのではないかと思います。
ドラマでは笹野高史さんの役者魂を見ました。
実話としては、当時、
芸人は落語家(+講談)が別格で
ほかはめくりが朱墨になり「色物」として格下に見られました。
集客力も落語家次第という部分があったようです。
吉本せいは、一流の小屋から
初代桂春団治を引き抜き、
新聞に採り上げさせることで大成功を収めていますが、
「喜楽亭文鳥」はどうなるのでしょうか。
初代春団治に相当する落語家は
波岡一喜さんが演じられるとのことですが
「えげつない」話にはならないんでしょうね。
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