漫画家・村上もとかさんは
江戸時代の遊女たちを救いたいという動機で
「JIN-仁-」を構想したと語っておられました。
吉原遊郭の歴史では、二十数回火災に見舞われ
大勢の犠牲者が出ていますが
遊女が晒されていた恒常的な危機といえば性感染症、
特に梅毒だったでしょう。
おそらく、村上さんはこの作品を構想する初期段階から、
現代の医師が江戸時代でペニシリンを「発見」し使用するという
プロットをお持ちだったと思います。
現在、日本では梅毒の患者数が増加しています。
医師たちにとっても、それは教科書の中の感染症で、
過去の病気と思われがちな梅毒ですが
2012年までは1,000人未満だった患者数は
昨年は5,820人、
今年は48年ぶりに6,000人を超えています。
梅毒はトレポネーマ・パリダム(梅毒トレポネーマ)という細菌の感染により
起きる病気です。
第一感染経路は性行為ですが、
胎内での母子感染による先天梅毒もあります。
梅毒のやっかいなところは見過ごされがちな点です。
梅毒の進行は4段階に分けられていますが、
感染から3か月までの第1期では
トレポネーマが侵入した陰部、口唇部、口腔内に
しこりができ、びらんや潰瘍を作ります。
ただ、これらは痛くもかゆくもないことが多く、
治療しなくても、これらが消えてしまうことも多いです。
だから、市販の軟膏を患部に塗って、
治ったと思って放置するというケースもあり、
医療機関に報告義務がある梅毒ですが、
医療機関にかかっていないケース、
医師が見過ごしているケースも相当数あるのではないかといわれています。
3か月以上経過した第2期では、
手のひら、足の裏、体全体にうっすらと赤い発疹が出ることがあります。
バラ疹と呼ばれるこの発疹も、
治療しなくても数週間以内に消えることがあり、
放置されやすくなっています。
たとえ、症状がなくても、
トレポネーマの感染は続いていますので、
症状は繰り返し現れます。
先進国では、この後の第3期、第4期に至るケースはほとんどありませんが、
第3期では皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍ができ、
脳や脊髄などの中枢神経が冒され
多臓器不全、そして死に至ります。
先天梅毒は妊娠中胎盤を通じ胎児が感染するものですが、
その確率は60%から80%だとされていて、
そもそも、母体の感染が早産や流産のリスクを高めます。
40%が胎児死亡、周産期死亡、
生まれた場合も肝臓肥大、膵臓肥大のほか
何らかの障害を持って生まれてくるケースが多く、
また、何もなくても、生後数年以上経過してから
症状が現れることもあります。
ただ、日本では妊娠の初期検診に梅毒が含まれているため、
こういうケースはほとんどなく、
陽性であった場合、
妊娠中でも服用できるペニシリンなどの内服薬で治療することが可能で、
胎児に影響はありません。
ただ、未受診の妊婦の場合はその限りではありません。
梅毒で誤解されがちなのは、
これが性感染症であることはよく知られていても、
それが「広義の性交」により感染するという点です。
トレポネーマは粘膜や皮膚の小さな傷から感染します。
よって、オーラルセックスでも充分に感染しますし、
可能性としては、キスでもあり得るといえるでしょう。
きっと、この状況にお持ちになったのでしょう。
鈴ノ木ユウさんや講談社、コミックDAYSなどの判断により、
現在、漫画「コウノドリ」で
梅毒が扱われた4話ぶんが無料公開されています。
21日には「コウノドリ」25巻が発売され、
私も読んでいるんですが、
梅毒のエピソードはこの最後に収められているもののようです。
「コウノドリ」では、以前、風疹と先天性風疹症候群の啓発に
その部分が無料公開されたことがありましたが、
発売されたばかりの人気作品の最新刊が
無料公開されるのは極めて異例ではないでしょうか。
『コウノドリ』梅毒エピソードを緊急無料公開! - コミックDAYS-編集部ブログ-
https://comic-days.com/blog/entry/kounodori_baidoku
こちらにリンクがありますので、
こちらからお入り下さい。
ただ、どうやら会員登録が必要なようで、
無料とはいえ、ここで読まない人が出てきそうです。
風疹の時のように、
ハードルは最低限であればと思ってしまいます。
梅毒に対する認識を改める必要があります。
感染者が増えている理由は様々いわれていますが、
その一つにコンドームが使用されないことが増えているからというものがあります。
エイズが死の病として大騒ぎになり、
安定的にコンドームは使用されてきましたが、
HIVに感染しても、先進国では命に直結しなくなり、
性感染症全体への危機感が薄れているんだと思います。
また、テレビなどではほとんどこの話題を採り上げません。
啓発が全く足りていません。
予防ではコンドームで100%確実ということはありませんが、
大幅にリスクを軽減できます。
さらに大切なのは、
よく知らない人とはしない
よく知らない人としてそうな人とはしない
ということだと思います。