先週の放送でのお話。
病を得た鳥羽法皇は、崇徳上皇と親子の関係を築きたいと願います。
彼が写しているのが、
法華七喩(ほっけしちゆ)
の中の
長者窮子(ちょうじゃぐうじ)
でした。
鳥羽法皇はこの譬え話の中の親子の姿に、
崇徳上皇と自分の姿を重ねていたのでしょうか。
そして、それは平清盛の手に托され、
崇徳上皇へと届けられますが、
彼はそれが
法華七喩・長者窮子
であることから破り捨ててしまうのでした。
劇中、清盛がこの「長者窮子」についての説明台詞がありますけれど、
あれでは上皇が破り捨てた理由が判りづらいので、
ここで記事にしたいと思います。
法華経は釈尊の教えの中でも大乗仏教の幹をなすとされている経典です。
(とはいえ、釈尊入滅後、500年後ぐらいの成立らしい)
この中に「法華七喩」、
あるいは「法華七譬(ひ)」という譬え話が7つ収められています。
その中の一つが
長者窮子
だということになります。
だいたいこのようなお話です。
ある男がさまよっていました。
行くあてもなく、留まる場所もありません。
彼は幼い頃に、家出をしていたのです。
それからもう50年もの間、
貧しく、見窄らしい姿で様々な国をさまよい歩き続けていました。
そんな我が子を捜し求め方々を尋ねて廻っていた彼の父親、
しかし、長い年月の捜索に疲れ、
ある町に定住し、そこで財を成し長者となります。
ある時、男がいつものように糧を得るためにふらついていると、
見知らぬ町に辿り着きました。
そこが父親が住む町だったのです。
息子は大きな屋敷を見つけました。
ここなら、何か食べられるものが手に入るかもしれない、
彼はそう考えました。
屋敷の中を覗き込みます。
すると、ここの主らしい男性の姿が見えました。
恰幅が良く、立派な身なりの男性でした。
最初は何か食料が手に入るかもしれない、
お金を恵んでくれるかもしれないと考えましたが、
あまりの場違いに、彼はここを去ることにしました。
悪くすれば、自分はここで奴隷にされてしまうかもしれない、
もう少し、自分に見合う場所のほうがいい、と。
その立ち去る彼の姿を認めた父親は、
ひと目で彼が自分が捜していた息子だとわかりました。
父親は使いの者を遣ることにしました。
しかし、突然使いの者に声をかけられた男は、
捕まえられると思ったのか、驚きのあまり、
気を失ってしまったのでした。
使いの者が気絶している彼を連れて帰ってきました。
部屋に入れて寝かせますが、
父親はそんな彼に落胆し、また憐れに思い、
使用人に彼が目を醒ましたら自由の身にしてやれと命じて、
自室に戻ってしまいました。
男は捕まえられずに済んだことに安心し、
屋敷を出て行きます。
しかしながら、やはり息子のことを諦められない長者は、
一計を案じ、ただ屋敷に連れてくるのではなく、
いい仕事がある。他よりも破格の賃金で雇いたいから、
うちに来ないか
と誘わせることにしました。
これに飛びつく男。
こうして、息子は父親の元で働き、暮らすこととなりました。
しかし、これでは息子とは、主と下働きの関係でしかありません。
そこで、父親自身も下働きの姿となり、
同じ職場で働く同僚として関係を築いていくことにしました。
父親は息子に今までどうしていたのかと聞きます。
それではいけない、しっかりと定職に就き定住しなければならないと、
あくまで年長の同僚として諭します。
その説諭に効果があったのか、
息子はそのまま父親の屋敷で働き続けています。
そして、様々な仕事を任せられるようになり、
ついには全財産が収められている蔵の管理を預かるまでになります。
息子を使用人として雇ってから20年。
老いた父親は己の死期を悟ります。
父親は縁者を集めました。
そして、息子も呼びました。
そこで宣言したのです。
この男は私の息子です。
私の全ての財産をこの子に遺します。
男はこの20年間の事の意味を悟ります。
長年離れていた父親と再会したとしても、
心の内では素直に父親だとは思えないだろう。
だから、父親は自分のために長い時間をかけてくれたのだと。
そして、全財産を与えてくれようとしている。
息子は涙を流して父に感謝するのでした。
…というお話。
法華経としては、
「長者=仏」で「窮子=衆生」だということになります。
すなわち、私たちは全て仏の子であり、
仏の導きにより、成仏できるというような譬え話です。
劇中、鳥羽法皇がこの長者窮子を写し、
ずっと距離を置いていた崇徳上皇に受け取らせようとしたのは、
この父親の気持ちに自分の心を投影していたからであり、
また、崇徳上皇がそれを破いたのは、
自分を遠ざけていたのは誰あろう鳥羽法皇自身であり、
近衛天皇崩御後、跡には自分の長男・重仁親王を就かせるか、
自分が再び皇位に就くのかと期待していたのを裏切ったのも
鳥羽法皇自身です。
そして、事態は取り返しのつかない情況にまで至っているんですね。
そもそもは彼が
叔父子
と疎まれなければならない原因を作った「彼」に責任があるのですが…
それについては
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