ここのところ音楽、
商業音楽についてのぼやきを記事にしていたりするんですが、
そこで思い出したのが、4月のAVANTI。
著名な方が土曜の夕方になると集まるという
イタリアンレストランのウエイティングバーでの日常会話。
その中から、月刊音楽雑誌「MUSICA」の元編集長で代表取締役、
音楽評論家の鹿野淳さん(と"常連"さんと)のお話を書き起こしてみました。
基本的にライブとCDの関係についてのお話になっています。
――音楽ビジネスって、CDは売れないわ、
配信は金になんないわ、世界的になんか壊滅状態で
右肩下がりという中にあって、
ライブだけ、まだなんとかなっているって聞きますけれど、
そうなんですか?
まず音楽シーンという中で考えていくと、
まだちゃんと上がりが見えているのは
ライブという興業だと思います。
それは2000年代に入ってからのこの国の中での
ロックフェスブームっていうものが生んでいったものの
いい影響のものだと思いますし、
あと、CDが売れなくなったということをシビアに考えたアーティスト、
そしてアーティストのマネジメント、という人たちが
音源を作るにはお金がかかるんだったら、
じゃあ、ちゃんとライブを廻ろう、
そこで各々のライブ会場でコミュニケーションをちゃんと作ろうと、
で、地方のライブハウスで50人しか入らなかったとしても、
隣町にまで50人入っていたら、
年間に100本のライブをやっていたら、
それはちゃんとした成功例になるんじゃないかな。
そのライブをやっていく中で、
ちゃんとお客さんとコミュニケーションを取ることによって、
お客さんにライブのチケット代以外にも、
グッズとかも買ってもらえるようになっていく、
そのリスナーというかファンの生活の中に入っていくわけですよ。
Tシャツとかで。
そういうようなところまで関係性を深めていこうっていうことを
やっていくことによって、
音楽ビジネスはまだちょっとなんとかなっている部分もあるので、
そういう意味でいくと、ライブという興業も
音楽シーンにおける右肩下がりはちょっと若干緩いものになっているかな、
とは思います。
――ミュージシャンの一人一人の1年間のスケジュールというか、
エネルギーはライブのほうにシフトしている感じなんですか?
はい。かなり。
だから…、極端な話ですよ。
ライブツアーをするために、シングルを作ります。
で、もう、全国7箇所以上の場所で、
ツアーをやるためには、それなりの作品をちゃんと出して、
プロモーションというものをね、
地方のラジオ局とかともう、1ヶ月間に何百回、曲をかけてもらって、
やっていかないと、やっぱり人も入らないし、
セールスもしていかないです。
で、それのために、シングルを出す、
昔はタイアップのためにシングルを出すと、
そして、シングルを出すと、
それだけでお金になるという時代もあったんですけれど、
最近は半端なタイアップをつけても、
全然、数字にもならないですし
そうやって考えていくと、ライブをやればお金になる。
そのためにはシングルを出そうという人たちも
出てきているっていうのが現実です。
――でも、ライブの入りとシングルの売り上げっていうのは、
わりとリンクしていないんですか?
だから、シングルは出すっていうことで、
プロモーションがなされるんですよ。
だから、そのシングルが売れなくても、
その町にライブに来るために、
地方メディアが取り扱うんですよね。
それによって、ライブに人が入るから、
まあ、それで一つのシングルを出した目的は
達せられる訳なんですよ。
だから、シングルはね。ルアーですよ。
完全に。
――じゃあ、必ずしも、シングルでどっと売れたから、
その人たちがライブで儲けているとは限らない訳ですね。
つまり、本当にライブで実力があるというか、
稼げている人たちっていうのは、
僕たちがシングルチャートを見ているだけではわからない訳ね。
わからないですし、1年間に、じゃあ例えばね、
九州の福岡ぐらいだったら、何回もみんな行くんですけどね、
大分や宮崎や鹿児島とかに、
1年間で2回か3回は行きたいっていうミュージシャン、
そういう人は、2回か3回行った時に、
毎回来てもらうためには相当な努力をしますよね。
その努力っていうのものは、
ライブが終わった後でコミュニケーションを取ったりする、
握手をしたりとか、話をしたり、
すごくダイレクトな努力もあれば、
あとは何回も来てもらって、かみしめてもらうだけの
メッセージと曲の中で、深いことを歌詞として歌おうとか、
そういうこともあったりとかする訳ですよ。
――じゃあ、日本のバンドのライブの内容っていうのは、
ネット配信とかパッケージビジネスが下がっている中で、
どんどん進化しているというか、
どんどん丁寧になっていっているんですか?
だから、とてもいい言葉で言うと、
スピリチュアルとか、メモリアルなものとか、
凄く厭らしい言い方をしますと、宗教化していますよね。
だから、ダウンロードミュージックで、
売れている女性の歌手の方とかね、
あと、デュエットソングとかを歌ってる男と女の物語みたいなものね、
昔の「銀座の恋の物語」がブレイクビーツに乗って、
もっと軽めな歌詞で歌われているデュエットソングって
いっぱいあるじゃないですか。今の世の中。
ダウンロードでは結構聞かれていますよ。
そういう人たちの、1回聞いただけでわかる歌を
歌っている人たちは、なかなかツアー、
ライブの興業は上手くいかないです。
それは、1回で解決しちゃうからです。
だから、1回で解決しない、なかなか偏差値が高いというか、
難易度が高いというか、そういう音楽をやっている人のほうが、
逆にツアーとかライブでは上手くいっている訳ですよ。
――それって、ポップじゃないほうがいいってことね?
そうですね。
だからそもそも、それでいうと、ポップアートとしての音楽、
それから、カルチャー的な時代的なものが
背景になっているポップっていう概念を入れ込んだ音楽が
ライブっていうものには凄く向いている。
ポップスっていう言葉から端を発した、
お気軽で軽くてコンビニエントな音楽っていうものは、
何回も何回も聞いたり、
何回も何回もそのアーティストに会いに行ったりするっていう
ライブの現場にはあんまり向いていないっていう、
この二層構造ですね。
あらためてなるほどなあ、と思いつつ、
書き起こしました。
あんまり楽しい話ではないんですけれど。
同日の放送では、K-POPのお話もありまして、
もしかすると、お書きすることもあるかもしれません。