まずは関係のない話から。
今夜、帰宅時に桂枝雀さんの「崇徳院」を聞いていたんです。
この歌が柱になっている落語です。
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の
われても末に あはむとぞ思ふ
崇徳天皇の歌です。
これは小倉百人一首にも採られた一首で、
滝の水は岩に当たると分かれてしまうけれど、
また一つに合うことになる。
現世で添えなくとも、来世で結ばれよう。
そんな歌でした。
崇徳天皇とは全く関係のない噺ですけれど。
枝雀さんの「崇徳院」には下げがないことが多く、
動画の仁鶴さんのものがスタンダードではあります。
この大河ドラマの脚本は藤本有紀さんです。
彼女は朝ドラの「ちりとてちん」が好評で、
私も大好きなドラマです。
このドラマでは、落語が題材になっているエピソードが多く、
この「崇徳院」も採用されていました。
離ればなれになった一門の4人の弟子。
末の弟子は既に落語を捨てていて、
引き戻そうとする兄弟子に師匠の元へ戻ることを拒むんですが、
兄弟子たちの前で彼が飼っていた九官鳥が
セヲ~ハヤミ イワニ~セカルル~
と喋るんですね。
落語を捨てたと言っている彼は、
昔、師匠から稽古をつけてもらった「崇徳院」を
今もずっと稽古し続けていて、
それを聞いていた九官鳥もこの歌を諳んじていた…
泣かせられた物語でありました。
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さて、本題。
崇徳院の今後の扱いが不明なので、
崇徳院のその後とその伝説について記事にしておきます。
崇徳天皇は上皇となっても、
政治の実権を握ることはありませんでした。
そこで起こる保元の乱、そして敗北、
彼は讃岐国へと配流になってしまいます。
天皇または上皇の流罪は400年ぶりのことでした。
讃岐での彼については、資料によって異なるんですが、
後白河天皇を恨み続けていたとか、
反省の意志を示したとされています。
後者のほうで話を進めますと、
崇徳上皇は讃岐で「五部大乗経」なる五部の大乗経典を写経しています。
これを反省の意を込めて、また乱での死者の鎮魂の意味で、
京の寺へ収めて欲しいと都へと送ります。
…が、後白河天皇がこれを拒絶、
この写本には呪詛が込められているやもしれぬというのです。
讃岐へと突き返された写本を手に激高する崇徳院。
日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん
彼はこう叫ぶと、舌を噛み切ります。
そして、
この写経の功力を三悪道に回向す
送り返されてきた写本に、
口からしたたる血でこの文字を書きました。
爪と髪を伸ばし続け、そのまま天狗道へ堕ちたといいます。
1146年、崇徳院崩御。
しかし、後白河天皇は意に介さず、
喪に服する必要もなく、朝廷による葬儀も無用だとしました。
後白河にとって、崇徳は罪人だったのです。
30年後、後白河と藤原忠通に近い人物が立て続けに死亡します。
そして、その翌年、延暦寺の強訴があったり、
京の町の3分の1が焼ける大火が起こったりで、
また、政情不安となる出来事も続きました。
この前後から「崇徳院の怨霊」の存在が噂されるようになっています。
また「藤原頼長の怨霊」も。
後白河は怨霊を鎮魂するとして、
それまで「讃岐院」としていた院号を「崇徳院」と改め、
また、頼長には正一位太政大臣を追贈しています。
この後も崇徳院の怨霊伝説は歴史にも関わってくるんですが、
ずっと後の世、平安末期以来の武士の世が終わり、
明治天皇が即位する際も、
崇徳の御霊を京へと戻し、白峯神宮を建てていて、
また、1964年の「崇徳天皇八百年祭」では、
昭和天皇が讃岐の崇徳天皇陵に、
勅使を遣わして式年祭を執り行わせていたりします。
これらは崇徳院の怨霊の害を恐れたもので、
その恐怖は近年にまで続いていることがわかります。
日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん
この言葉を遺したとされる崇徳院。
この後、源平の争乱が起こり、
民であるはずの武士が天下を動かし、
皇であるはずの天皇が
武士の意に従う世の中が
間もなくやってくることになります。