病気を治す…ということは、
その病が発症してから治療するということですが、
発症前に治すという技術が研究されています。
血液のお話。
これが血液を電子顕微鏡で見たもので、
たくさん見えるのが赤血球で、
それより少し大きいものが白血球です。
しかし、今回の主役はここに写っていません。
これよりもずっとずっと小さなもの…
赤血球の大きさは7~8µm(マイクロメートル)です。
今回取り上げるのは、その1万分の1の大きさしかありません。
昨年、慶應義塾大学先端生命科学研究所・曽我朋義教授は、
極めて早期に肝臓病を発見することに成功しました。
肝炎肝硬変になると、徐々に肝臓の機能が失われていきます。
毎年5万人もの人が肝臓の病気で命を落としています。
肝臓病を治療するためには、
まずは早期発見が必要となり、
そのための目安がγ-GTPが指標となります。
しかし、曽我先生は、9種類もの肝臓病を
超早期且つ、ほぼ100%の精度で発見できるというのです。
先生はオフタルミン酸なる物質を発見します。
それは肝臓に炎症が起こると、
血液中に出現する極小の化合物だそうです。
肝臓に炎症が起きますと、
まず働くのが酵素ですが、
その働きの副産物として、
ごくわずかにオフタルミン酸が産生されるとのこと。
曽我先生は、他にも肝臓病患者特有の物質が、
血液中に見つからないかと調べてみたところ、
なんと15種類もの極小物質を発見することが出来ました。
(こういう極小の代謝物質をメタボロームと呼んでいます)
このオフタルミン酸は血液の中で、
全身に運ばれ、もしも、血液検査で、
このオフタルミン酸が検出されたならば、
肝臓に炎症が起こっているということになります。
しかも、驚くべきことに、
そのそれぞれの血中濃度を調べると、
各肝臓病になる前に、その兆候がわかるそうなんです。
こういう記事を作りますと、
大きさが実感出来なくなるのが困りものです。
今回は極小の物質ということで、
赤血球を比較対象として1万分の1だと説明されていました。
どれだけ小さいものなんだということで、
何か良い喩えはないかと考えていたんですけれど、
こんな説明でいかがでしょうか?
これが赤血球です
そして、
アフリカウシガエルでも登場したサッカーボール、
これに喩えてみます。
赤血球の直径がサッカーボールの直径だとしますと、
最大のボールが22cmですから、
その1万分の1は0.022mmでしょうか。
これぐらいの大きさのもので何かないものかと捜してみましたら、
サランラップやNEWクレラップが0.01mmであるようです。
(この2つのラップは厚みが異なる印象ですので、おおよそです)
ということは、赤血球をサッカーボールの直径だとした場合、
その2枚ぶんの厚みぐらいの大きさの極小物質・メタボロームについて、
曽我先生は肝臓病の兆候として発見されたということになります。
ついでに赤血球をサッカーボールの大きさに拡大した場合、
身長152cmぐらいの小柄の人は、
フルマラソンぐらいの距離を
まっすぐ縦にしたぐらいの大きさになります。
(富士山の高さよりも500mぐらい大きい)
血液の中のそんな小さな小さな物質の有無、
濃度でこれから肝臓病になるのか、
なるのであれば、どの肝臓病になるのかわかるというんです。
しかも、必要な採血量はたった1滴で充分だといいますから、
驚かされます。
たった1滴の血液。
それで肝臓病になる前に炎症を見つけられるというお話でしたが、
この1滴の血液でわかる病気は他にもあるようです。
それがうつ病。
これまで、うつ病の診断は問診票などから、
専門医が総合的に判断する以外の方法はありませんでした。
肝臓病のように、γ-GTPの値がどうだからとか、
そういう客観的な数値は(臨床の現場では)ありませんでした。
これでは、医師の技量、患者の表現能力などにより、
同じ状態でも診断が異なる可能性が生じます。
心療内科医の川村則行医師は、
5年間をかけて、徹底的にうつ病患者の血液を調査しました。
すると、うつ病患者は、
血液中の極小物質EAPが減少していることが判りました。
まだ臨床研究中ですが、この血液中のEAPの量を調べることで、
90%の確率で、うつ病を早期に発見することが出来るようになりました。
※参考記事
うつ病を血液検査で簡便に診断する検査法を開発
http://humanmetabolome.com/06/3946
患者にとっても、雲を掴むようなあやふやな話よりも、
具体的な数値を把握できた方が、
症状の改善や生活の励みにもなるはずです。
なぜか体の調子がおかしくて、
ずっと内科に通うことになることもあるでしょうし。
こういった血液中のメタボロームの研究で、
病気との関係が解明されているのは、
まだ全体の10%以下だと考えられています。
今後の研究が進めば、他の様々な病気の早期発見、
それも発症前の発見につながることになりそうです。
ちなみに10年ほど前、
米国で「幸せの物質」を捜す研究があったそうです。
血液の中のこのメタボロームの数値がこうであるから、
この人は幸せだ、この人は不幸せだなんて
推定できる時代が来るのかもしれませんね。
私はその検査を受けませんけれど。
※参考記事
大賀師範のメタボロミクス道場
http://humanmetabolome.com/category/insights/metabo-training
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サイエンスZERO 病気になる前に治す!血中“極小物質”の謎 ~肝臓病・うつ病 さらに研究中~
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