先週の番組は本当に怖いお話でした。
それは、同番組では
記憶はこうしてねつ造される
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-10498292605.html
以来の恐怖でした。
冤罪の類についてはこれまでも時事ネタとして、
足利事件、郵便不正事件、神戸の競艇選手が起訴された痴漢事件など、
何度かお書きしてきました。
冤罪という言葉自体は、
無実の人が犯人扱いされ、誤認逮捕されたり、裁判で有罪になってしまうこと
ということのようですが、
警察に捕まって裁判になった場合、99.9%以上の確率で有罪になる。無罪になる人は1000人に1人もいないのが現状
つまり、自分に身に覚えがないのに、
逮捕され起訴されてしまった場合、
たいていそれは冤罪となり得る訳です。
そう仰る今回の先生は今村核弁護士。
この
映画「それでもボクはやってない」ではアドバイザーを務めた先生。
それは、周防正行監督3年間法廷に通い傍聴取材した際に、
今村先生が関わる2件の冤罪裁判で
無罪を勝ち取っていたのを見ていたことからでした。
***CASE1***
数年前の出来事。
電車内で1人の男性が居眠りをしていました。
そこへ近づく初老の男性。
彼は居眠りの男性の膝の上の鞄から財布を抜き取りました。
この初老の男性はスリの常習犯だったのです。
しかし、今回このスリは予め配備されていた
私服警察官によって現行犯逮捕されます。
ここまでは警察によって、
一つの窃盗犯が逮捕されたという話なんですけれど…
それを見ていたサングラスの男。
彼はその時、座席で新聞を読んでいました。
サングラスの彼、Aさんに私服警官が大声を上げます。
おい! お前もだ!
驚くAさん。
仲間だろ!
Aさんは違う、仲間ではないと主張するものの、
彼は仲間役として、スリと一緒に現行犯逮捕されてしまいました。
連行された警察署の取調室で警察官は、
あの路線で何度も犯行を繰り返しているスリ団のリーダーだよな
と言っています。
当然、Aさんには関わりのない話です。
とぼけるな! あの路線で前に起こった2件の事件、
あれもお前だろ!
と警官はまくし立てています。
数ヶ月前の事、駅のホームで男子大学生が居眠りをしていました。
その両脇に近づき座る2人の男。
サングラスの男が新聞を広げ、辺りに目を配っています。
もう1人が大学生の鞄に手をやり…
しかし、ここで大学生が目を醒まし、2人はその場を去り、
犯行は未遂に終わった、そんな事件がありました。
その数日後、その2人が大学生の前に姿を現します。
強引に物陰に連れ込まれた彼に2人はナイフを突きつけ、
この前の事は絶対に喋るな!
と脅しました。
Aさんを逮捕した警官は、
この事件の主犯だと考えていたのでした。
彼は起訴され、2年6月の有罪判決を受けてしまいます。
Aさんはただその時、電車の中に居合わせただけなのに、
なぜ、このようなことになってしまったのでしょうか?
有罪を決定づけたのは、
先の事件での男子大学生の証言でした。
警察署に連れてこられた大学生は、犯人と会っている重要な証人です。
大学生は署で「写真面割台帳」と呼ばれている、
複数の人物の写真が貼り付けられているファイルを見せられました。
その中にAさんの写真も混ぜられている訳なのですが、
大学生は、たくさんの写真の中から、
迷うことなくAさんを指さしたのです。
どういうことでしょうか?
ここには誤った目撃証言を生み出してしまう落とし穴があったのです。
台帳をよく見てみると、たくさんの写真の中で、
唯一、Aさんだけがサングラスをかけて写っていました。
しかも、彼の写真だけが暗く写っています。
この写真の撮影時、カメラのフラッシュに問題があり、
そのまま撮られた写真が台帳に貼られていたのです。
人はたくさんのものの中から1つを選ぶ時、
特に違和感のあるものを選ぶ傾向があります。
証人である大学生も、台帳の中で一番違和感のある、
サングラス、暗い、という写真を選んだ可能性があります。
これは心理学で「暗示誘導効果」と呼ばれているそうです。
それにしても、この大学生はナイフを突きつけられた時、
間近で犯人の顔を見ているはず。
それなのに、彼はAさんを犯人だと誤認してしまいました。
ナイフにその原因があります。
人は、凶器などを目の前にすると、
そこに意識が集中し、他の部分を見てないことがよくあります。
つまり、この大学生には、
犯人の特徴などの記憶は乏しかった可能性があるんです。
そして、Aさんはこの大学生と同じ路線を利用していて、
それまでもその姿を見ていたのかもしれません。
無意識に彼の姿が記憶に残っていても、
不思議ではない訳です。
ここで記憶の混同が起こらなかったとはいえません。
そして、大学生はAさんの写真を指さしました。
不当な判決にAさんは控訴、
控訴審では弁護団が新たな証言を提示、
大学生の思い違いである事を証明し、
Aさんには無罪判決が下されました。
しかし、逮捕からその時まで、
3年間もの長い年月が必要となりました。
***CASE2***
自宅近くで自動車を運転していた男性Bさん。
彼は走行の邪魔をしたとして、
バイクの男性と口論になりました。
双方、停車して言い争っていましたが、
Bさんはバイクの男性が中学の同級生であることに気づきます。
同級生との思わぬ再会に怒りが治まるBさん。
それなら、もういいじゃないか
と、Bさんは口にし、なだめるつもりで
バイクの男性の左頬に手をやります。
彼をなだめるつもりでした。
指先で彼の頬に触れたところで…
なに、すんだよ! 俺に暴力、振るったな!
とバイクの男が激高、警察に被害届を出してしまいました。
取調室で事情聴取を受けるBさんは、
被害者が平手打ちで3発殴られたと訴えていることを知らされます。
それも往復ビンタでだそうです。
もちろん、殴ってはいません。
ただ、軽く触れただけです。
そう主張しても、警官は
ここへ来る奴はみんなそう言うんだよ
と聞いてくれません。
名指しで訴えられたBさんを犯人だと確信している警察であり、
Bさんは取り調べでただ押し問答を繰り返すしか出来ませんでした。
4日後、疲れ果てたBさん。
向かいの警官も疲れたと呆れています。
被害者は殴られたと言うし、
お前は触れただけだと言うし、
これじゃあ、調書も作れないよ
というと、持ち出してきたのは国語辞典でした。
これで、「触れた」と「殴った」の中間の言葉を見つけよう
と言い始めました。
そして、
いい言葉があったぞ。
「叩いた」、これならいいだろ?
と提案してきました。
Bさんは考えます。
触れただけなのに叩いただなんて…
でも、「肩をトントン叩く」とも言うし…
もうそれでもいいか…
疲れ果てていたBさんは
わかりました
と受け入れてしまいます。
こうして、調書には「叩いた」と供述したと記されることとなりました。
送検され、今度は検察官の取り調べを受けます。
殴ったんだろと言われ、また触れただけと主張。
しかし、検察官は
調書には叩いたと書いてあるじゃないか!
叩いただけでも暴行罪になるんだぞ!
もちろん、Bさんは納得しません。
そこで検察官は
わかったよ。じゃあ、こう書けばいいだろう。
「相手の顔を殴りつけました」
「詳しく言うと指先で相手の頬を叩きました」
それでどうだ?
Bさんの主張は「触れた」でした。
それが警察で「叩いた」となり、
検察では「殴った」になってしまいました。
その結果、略式裁判で罰金10万円の有罪。
この略式裁判というものが曲者で
事実関係に争点がない時に行われる訳なんですが、
その判決は、検察官の書類のみにより下されます。
納得出来ないBさんは、冤罪を晴らすべく、
正式裁判を要求、弁護団は現場の状況から、
彼が殴っていないことを立証しました。
その結果、彼は無罪を勝ち取ることが出来ました。
Bさんが殴っていないことを、
弁護団はどのようにして証明したのでしょうか?
番組ではこれがクイズになっていましたが、
おわかりになりますか?
チュートリアルの徳井義実さんは、
芸人であることを忘れて、即答の正解を答えていましたが…
どちらのケースも、どこの誰でも
このような情況になってしまう可能性があります。
明日にでも、今夜にでも。
恐ろしい限りです。
先ほどのクイズですが、記事中の画像にその答えがあります。
被害者は「往復ビンタで平手打ち」と訴えていましたが、
その被害者はヘルメットを被ったままでした。
この情況での往復ビンタは難しく、
正面から殴りつけるのであれば可能ですが、
もしも、往復ビンタを強行しようとすれば、
Bさんが怪我をしているはずです。
控訴当初、弁護団はBさんのみからヘルメットの話は聞かされていたものの、
検察の調書にはありませんでした。
警察は訴えてきた当時に被害者の写真を撮影しています。
その時の写真の被害者はヘルメットを被っています。
その写真は、弁護団が請求することで、
初めて開示されることとなりました。
検察は、その写真がBさんの有罪への弱点だと気づいていたのです。
だから、証拠として自ら提出しませんでした。
弁護側は、検察側が持っている証拠がどのようなものであるか、
知る術はありません。
ただ、この時は、警察が被害者の写真を撮ることを知っていたので、
それを指摘することができ、裁判官が検察に提出を勧告、
殴ってはないということが立証された訳です。
この時の判決文には記されていないそうですが、
この時の裁判官は、奥さんで往復ビンタするとどうなるか、
実験してみたそうです。
逆にいえば、そこまでしないと、
Bさんの無罪判決は下りなかったことになります。
このような良識のある裁判官(と奥様)ばかりかどうかには疑問がありますが。
そして、もしもあの時、バイクの男が、
ヘルメットを外した状態であったならば…?
恐ろしい話です。
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