…タイトルでは振り返るとしていますが、
恥ずかしながら、この事件の全体像について、
全く認識していませんでした。
日本テレビの深夜番組「芸人報道」に
スマイリーキクチさんがご出演、
当時から現在までの話をされていて、
そのお話ぶりから、あらためて調べてみたところ、
たいへんなことになっていたということを知らされました。
スマイリーキクチさんはピン芸人さんです。
これは2008年のR-1予選の時のもののようですね。
ブラックな漫談家として人気を博していた芸人さんなんですが、
とてつもない不運に見舞われて、
芸人としての仕事がほとんど出来なくなるという事態に
追い込まれたそうです。
1988年11月から1989年1月、東京都足立区で
女子高校生が監禁され殺されるという事件がありました。
この事件では、殺人と死体遺棄の他に、
猥褻目的誘拐略取、監禁、強姦、暴行という大罪が行われていました。
被害者のご遺体をドラム缶に入れてコンクリート詰めにしたため、
世の中では、
女子高生コンクリート詰め殺人事件
として知られています。
加害者4名が逮捕され、刑事裁判に。
懲役17年から懲役3年以上4年以下の実刑有罪判決が出ています。
しかし、この4人は少年であったため、
実名を知ることは出来ませんでした。
1999年、この事件にキクチさんが関わっている、
キクチさんが犯人だという噂がネット上に流れるようになります。
それは、キクチさんの出身地が事件現場と同じ足立区で、
犯人グループが同世代であり、
また、不良の時代があったなどという
個人を特定することは不可能な理由からだったようです。
その噂が誹謗中傷になっていきます。
もちろん、その舞台もネット上でした。
時間が経つにつれ、彼が犯人であるという根拠が、
事実ではない事柄から増えていきます。
そして、彼がこの事件のことを「笑いのネタ」にしたという、
これまた事実無根の書き込みが2ちゃんねるにあり、
人殺しが反省もせずにテレビに出ている
などとネットには非難が集まるようになっていきます。
キクチさんは当初、あまりの馬鹿らしさに、
取り合わなかったそうなんですが、
所属事務所は、そのような事実がないことを公式サイトに掲載、
すると、今度は
無実の証拠を出せ
などというキクチさんにとって、
絶対に不可能な要求をしてくる書き込みが。
キクチさんは警察に相談し、
警察は管理者からログを提出させるなどして、
この脅迫罪に当たる中傷の書き込みをした3人を特定、
それはキクチさんにとっては、
全く知らない人物であったようです。
ここで状況が改善されればよかったんですが、
この時は事態が収拾するどころか、
人殺しをテレビに出すな
なぜ、CMに人殺しが出ているんだ
などという抗議がテレビ局、企業に寄せられ、
舞台でも彼が登場すると、
観客は顔を見合わせてひそひそ話をするようになります。
さらに状況を悪化させたのが、
元警視庁刑事の北芝健さんの2005年に出版された
「治安崩壊 凶悪犯罪社会を生き抜くために知るべきこと」
でした。この中に、
少年グループの一人は刑期を終えた後、2004年7月、再び、恐喝事件を起こして逮捕された。もちろん社会に出てきたのはこの一人だけではない。一足早く出てきた別の男は、お笑い系のコンビを組んで芸能界でデビューしたという
という記述があり、キクチさんは昔、
「ナイトシフト」というお笑いコンビを組んでいました。
北芝さんのこの本には、
キクチさんだと特定する記述はなかったそうですが、
ネットの住民には、
それがキクチさんの事に違いないと思い込ませる内容だったんです。
この北芝健さんという人は、
これまで何度もテレビでお話を伺っていますが、
ファンタジー北芝
などという異名を持つ人です。
目立ちたいのは結構ですが、
そのために人の気を惹く話をする人です。
少し話を聞いていれば、
それら全てが真実とは限らないことがわかるような人物です。
実際に彼がいくつかの未解決事件について語り、
後に犯人が逮捕された時、
彼の説明と大きく違っていたということばかりでした。
2005年のこの本の中に北芝さんが書いたのは、
おそらくキクチさんのことだったのでしょう。
その情報源はおそらく、ネット。
その程度の人なんでしょうが、
警視庁にいた元刑事が書いていることなので、
これがキクチさんが犯人であるという根拠となってしまいました。
こうして、さらにキクチさんへの中傷、
テレビ局や企業への抗議が増えるようになります。
2008年、キクチさんがブログを開設します。
これで自分が無関係であることを、
自ら書いていけば、みんなが分かってくれる、
ネットでさんざん嫌な思いをしたが、ふとブログで自分の言葉を発信すれば、『殺人犯スマイリーキクチ』の汚名を晴らせる
という思いからの決心でした。
しかし、その期待は裏切られ、コメント欄には
中傷の書き込みが殺到し、
後にキクチさんがコメントの表示を承認制に変更したものの、
彼を擁護する書き込みをした人のブログに、
誹謗中傷の書き込みをする人が出現、
また、いわゆる"縦読み"などの手法で、
中傷文を書き込む者、
全く無関係のサイトの掲示板などに、
彼を攻撃する投稿をする者たちが現れてしまいます。
ついに彼は、自分を犯人だと思っている人に、
直接会って説明できたらと考えるようになります。
ライブの場所、日時をブログに書き、
終了時に声をかけてくれたら、
どのような質問にも答えるとしたんです。
しかし、誰一人現れませんでした。
彼のブログにはもう仕事のことは書けなくなっていました。
彼が「○○テレビの××」に出ると書けば、
そのテレビ局とその番組のスポンサーに抗議が殺到するからです。
共演者が誰かわかれば、
その人も攻撃されるからです。
何者かもわからない人たちから中傷されるようになり、
これら見えない攻撃者から
彼は身の危険も感じるようになります。
2008年4月、再度警察へ相談に向かいます。
警視庁のハイテク犯罪対策捜査センター、
管轄警察署の生活安全課などですが、
そこで聞かされたのは、警察官たちからの
・キクチさんを本気でコンクリ事件の犯人と信じている人はいない
・削除依頼をして様子を見ましょう
・様子を見ればネット誹謗中傷は落ち着く
・有名税みたいなもの
・遊びだと思う
・キクチさんがインターネットなんてやらなければいい
・殺されたら捜査しますよ
という信じられない言葉でした。
キクチさんは知人から紹介された弁護士から
中傷書き込みをした者を特定するために掲示板管理者から発信者のログを開示してもらい、接続業者が発信者の個人情報を開示する必要がある
掲示板管理者と接続業者が開示を拒否した場合は訴訟になるが、裁判所が開示命令を出すとは限らない
という説明を受け、
実際に訴訟を起こすためには
大変な時間と労力が必要であることがわかります。
誰を訴えればいいのか、
それを特定できません。
ただ、一つだけ相手がはっきりしているものがありました。
北芝健さんと、
その本の出版社です。
このために風評被害に遭っているということを
訴えればよいのではないか、と考えます。
今度は、同じ警察でも管轄の刑事課へ相談に。
すると、
コンクリ事件との関係や虚偽の記載を否定し、今後誹謗中傷の書き込みをしたら刑事告訴する
という警告文を載せるようアドバイスされたそうです。
これを掲載しつつも、
それでも中傷コメントを書いてきた人物に対して、
警察が発信者を特定して検挙ということになりました。
そして、警察は彼らに対し、
この事件の資料を見せて、
キクチさんが無関係であるということを示したようです。
また、この警察の動きに合わせ、
北芝さんと出版社から風評被害を受けたことを理由に
出版差し止めと謝罪広告を求める内容証明を通達。
出版社は当該の書籍で、
記載された文章から一般読者がキクチ氏をコンクリ事件の犯人と認識することはないため、出版差し止めと謝罪広告を拒否する
という回答が返ってきて、
それは即ち、北芝さんがキクチさんを
犯人だとしている訳ではない、
という証明書を獲得したことになるのでした。
「芸人報道」では、キクチさんが
そういう状況で、周囲の人の優しさ感じたと仰っていて、
その中でもに千原せいじさんの言葉を話されていました。
キクチさんはせいじさんとは2度ぐらいしか
お会いしたことはなかったそうなんですが、
ある日突然電話で、
お前、大丈夫かぁ? お前、こんなシャレならんでぇ。
当分、ちょっと仕事出来ひんやろ?
こんな状況じゃ。
弁護士代とか、金もかかるやろ。
俺、貸すわ。ええから、言え。
このような事を言われたそうです。
キクチさんは
「ありがとうございます。お気持ちだけで嬉しいです」と
断ったそうですが、
100万ぐらいやったら、
返さんでもええ。
言えや。いつでも言うてくれや
と。
今、彼はインターネットの使い方、モラル、
ネットにおける法律の落とし穴などについて
講演活動されているそうですが、
その内容には、
人との関わり合い
が含まれているそうです。
この問題では、2008年9月から2009年1月までに中傷犯19人が検挙。
2009年2月5日、多くのマスコミがこの中傷事件を取り上げ、
警察も無関係だと発表したことから、
彼への疑いが事実無根であることが、
世間にも広く知れ渡ったのでした。
私がこの話を知ったのはこの時でしたね。
ただ、こんなに苦しまれていたのかと、
知らなかったことを恥ずかしいです。。
キクチさんのこの本を読まなければと思いました。
(読了後、この記事も修正します)
大津の中学生の自殺事件でもありましたよね。
いじめ犯が誰であるかについて、
あたかも「その人」であるかのように攻撃し、
その結果、その人と関係者は命の危険まで感じることに。
ついでにデヴィ・スカルノまでがそれを鵜呑みにし、
ブログに加害者少年の母親であるとして実名を挙げて攻撃、
相手に事実無根だとして謝罪要求されると
逆ギレする始末。
キクチさんの事件では検挙された被疑者たちは、
・ネットに騙された
・本に騙された
・仕事、人間関係、離婚など私生活で辛いことがありムシャクシャしていた
・彼はただ中傷されただけだが、私生活で辛かった自分のほうが辛い
・他の人は何度もやっているのに、なぜ一度しかやっていない自分が捕まるのか
・(表現の自由を主張した被疑者に自分の名前が書かれてもよいのかと問うと)彼は芸能人だから書かれてもよいが、自分は一般人だから嫌だ
と答えていたそうです。
私たちは、その仲間にならないように、
気をつけなければなりませんね。