巡査に痴漢の男性被告に無罪判決 神戸地裁、「女性巡査の証言の信用性に疑問」
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/111115/trl11111520060009-n1.htm
痴漢として逮捕されてしまうと、
もはや、罪を認めるしかない、
そう言われていました。
それは、刑事訴訟法第336条
被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
即ち、刑事裁判の大原則である
疑わしきは被告人の利益に
が適用されないからなのでした。
本来、犯罪事実を証明する責任は、
訴追側にあるはずなのに、
痴漢事件においては、被告人側が
無実の証を立てなくてはなりませんでした。
いわゆる「悪魔の証明」を行わねばならず、
たいていの場合、それは無理なので、
認めない限り、拘留は続き、
家に帰ることも出来ない、
どうせ、罪に問われるのであれば、
罪を認めて、少しでも量刑が軽く、
また、少しでも早く家へ帰れるほうが良いという訳です。
何年か前の「行列のできる法律相談所」で、
もしも、痴漢に間違われたら、
走って逃げろ
と、北村、本村両弁護士が仰っていたのを思い出します。
性犯罪者となれば、
社会的信用も失い、
職場からも追い出され、
場合によっては、離婚など、
家族から見放される場合もあるかもしれません。
そして、無罪が認められる可能性がほとんどないのであれば、
とにかく逃げろという訳なのでした。
基本的に、痴漢事件における判断材料は、
被害者の証言
のみになってしまうことが多く、
当然、物証などはありません。
今回、兵庫県迷惑防止条例違反で起訴されたのは、
神戸市の競艇選手、森下祐丞被告。
起訴状では、
同市須磨区の路上で、私服で痴漢の警戒中だった
県警須磨署の女性巡査の胸を右手で触ったとして現行犯逮捕
とのことで、証言台に立った被害者である巡査は
5メートル先から右手を上げて走ってきた森下選手に触られた
と証言。
一方、被告人は、
タクシーを小走りで探していてぶつかった
と主張していました。
片田真志裁判官は判決で、
護身術を身につけ、手に荷物も持っておらず、警察学校の訓練で護身術を身につけ、捜査中なのに何も反応しないまま触られたのは不自然
そして、
痴漢としては接近方法が大胆過ぎる
また、
警察官として(逮捕後に)引き返せない状況になり、一部事実を曲げて証言していると疑うことも可能だ
と指摘、被告人を無罪としました。
逮捕時、結婚1週間前だった森下選手は、
判決後の会見で、
取り調べで言い分を聞いてもらえず、結婚式を控えた時期に逮捕され、精神的に苦しかった。今後は選手として今まで以上に真剣に取り組む。
と話したそうです。
この映画、
周防正行監督の「それでもボクはやってない」が撮られている頃、
数度にわたって、ニュース番組でその様子を見ていたんですが、
出来上がったこの映画を見て、
あらためて、痴漢裁判の難しさを理解しました。
この映画以後、また、テレビ番組などで
痴漢冤罪が取り上げられることで、
裁判所も被告人が「無実の証明」が出来なくても、
安易に有罪判決を下す事は減ってきているようです。
しかし、それは痴漢事件で罪を問いづらくなっていることに他ならず、
痴漢行為が行われたという事実の証明を、
被害者自身が行わなければならない
ということのないようにしなくてはなりません。
無実の人が罪に問われることがあってはいけませんが、
痴漢犯が大手を振って暮らせるようでもいけません。
この問題、非常に難しいです。
もう一つ、この無罪判決、
この映画で思い出したのは、経済学者の植草一秀さんのこと。
彼は2006年9月、電車の中で女子高生に痴漢を働いたとして逮捕、
起訴され、最高裁まで戦ったものの、
懲役4月の実刑判決が確定、
既に出所されています。
ずっと無実を主張されていました。
当時、りそなのインサイダー取引について真相に迫ろうとしていた時であり、
そこに政府高官が関わっていた事実に
辿り着こうとしていた最中の国策逮捕だという主張でした。
私は彼のそれまでの前歴を聞き、
当然、彼は痴漢したんだろうと考えました。
しかし、後で考えると、
仮に彼に"手鏡事件"等の前歴があるとしても、
この事件においては、
それを判断材料にすべきではないはずなんです。
こういったことは全ての犯罪報道についてもいえるのでしょう。
私は新聞で
○○容疑で逮捕
と書かれていると、
その被疑者による犯行であると思い込んでいたかもしれません。
逮捕ではなく、任意の取り調べでも、
このような取り調べが行われることがあるとすれば、
また、この当時の上司の犯人隠避が審理中の
郵便不正事件 主任検事 証拠データを改竄 ~冤罪の恐怖~
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-10655375707.html
のようなことがあるとすれば、
なおさら、
逮捕 = 犯人
であるかのような断定はすべきではないのかもしれません。