今回の番組の主役はオオミズナギドリでした。
動画の数はあまり見つかりませんでしたが、
大好きな鳥なので、記事にしてみます。
オオミズナギドリ。
翼開長は120cmにもなる大きな海鳥です。
正確ではないので番組では使われない表現でしたけれど、
この鳥は時々、
飛べない鳥
と言われることがあります。
ちゃんと飛んでいるんですけれども。
なぜ、そんなふうに言われるのでしょうか?
今回の取材は伊豆諸島の御蔵島でした。
オオミズナギドリの世界最大の繁殖地です。
人口わずか300人ほど、
しかし、80万羽ものオオミズナギドリがここにやってくるといいます。
夜、取材班が島の森に入ると、
何かが木に激突して落ちてきました。
それがオオミズナギドリ。
これが彼ら流の着陸なんです。
昼間は海面、海の上空で過ごし、
天敵のハヤブサやカラスが寝静まった夜に、
島へ戻ってきます。
木に激突し、墜落するようにして着陸したオオミズナギドリは、
地面に開けられた穴の中へと入りました。
あたりにはこのような穴がたくさんあります。
いずれオオミズナギドリはこの中で子育てをするようですが、
今はお休みの時間。
…ですが、数時間もすると、
もう動き出します。
天敵たちが活動を始める前に島を離れるつもりのようです。
しかし、飛び立つ気配はありません。
地面を歩いています。
彼らの足には水掻きがついています。
これでは上手に歩く事は出来ません。
苦労しながらある場所を目指します。
このオオミズナギドリがやって来たのはひときわ大きな木の根元でした。
他のオオミズナギドリもこの木に集まってきています。
そして、オオミズナギドリたちは、
この木に登り始めました。
水掻きのある足の指先には小さな爪があります。
これを幹に引っかけて上を目指します。
こうして15mほどの高さまで木登りし、
まだ夜が明けない空へと飛び立ちました。
オオミズナギドリは多くの鳥類が行っているように
地面を蹴って飛び立つ事が苦手です。
助走をつければ飛べるようですが、
周囲には木があります。
これでは大きな翼を広げて走る事は出来ません。
だから、海へと突き出ている背の高い木に登り、
ここから飛び立つという訳です。
ということで、彼らが求める条件を満たす大木は限られています。
たくさんのオオミズナギドリが暮らすこの島で、
数少ないそんな大木に殺到する事で、
幹には大渋滞が起こります。
中には混乱の影響で落下する者も。
そうすると、行列の末尾からやり直しです。
さらには上に辿り着くまで焦れてしまい、
途中で飛び立ってしまう者まで。
高さも足りず、位置もよくないので、
多くの場合は近くの木に引っ掛かってしまい、
あまりいい結果にはならないようです。
こんなふうに、陸上では不器用なオオミズナギドリですが、
飛び立った後の姿は見違えるようです。
空と海が彼ら本来の住処なのでしょう。
ここで一つの疑問が。
上の動画でも確認出来ますが、
海面に降りたオオミズナギドリはどうやってもう一度飛び立つのでしょうか?
動画でもたしかに海面から飛び立っています。
オオミズナギドリが飛び立つためには、
高さが必要だというのは、
海上でも同じで、彼らは波の高さを利用して、
飛び立っているというのです。
これにはイルカか何かも写っていますね。
波頭で海風を捉えることさえ出来れば、
彼らはほとんど羽ばたかなくても飛ぶことが出来ます。
あの大きな翼は滑空するためのものだったんですね。
オオミズナギドリは「大水薙鳥」と書きます。
まさしく水を薙ぐ鳥ですね。
さらに彼らは高度な技術も利用しています。
グライダーなどで用いられる言葉に、
ダイナミック・ソアリング
というものがあります。
飛行中のオオミズナギドリに対し横風が吹いていた場合、
オオミズナギドリは風上のほうへ体の向きを変え、
風を受けた体は上昇し、
充分上昇したならば、坂を下るように下降、
これを繰り返して羽ばたかずに飛べるんだそうです。
これは新潟の粟島のオオミズナギドリ・ヒナの映像。
親鳥は不在です。
親鳥は狩りの最中なのでしょうか。
御蔵島のオオミズナギドリの場合、
この時期、最長距離ではるか1000kmも離れた北海道南岸周辺にまで
出かけていることがわかっています。
彼らはカタクチイワシやスルメイカを狙うことか多いようです。
まず、イルカやマグロなどの群れを捜し、
それを追跡。
イルカなどに追われたイワシなどは密集度を上げ、
海面付近まで上がってきます。
この球状になった群れの中に突撃しようというのです。
この狩りは長ければ十日間。
長旅を終えて(激突墜落して)島に帰還した親鳥は、
急いで巣穴へと急ぎます。
お腹を空かしたヒナたちに与えるのは、
親鳥がお腹の中で作った液体状の食料。
小さなヒナには一気に与えられませんので、
少量ずつ何度も繰り返し与えています。
しかし、必ずしもヒナたちが無事成長できるとは限りません。
クマネズミがヒナの驚異となります。
そして、ネコ。
本来この島にはいないはずで、
人間が持ち込んだネコが野生化し、
現在の御蔵島には400匹いるとされています。
夜に島へと戻ってくるオオミズナギドリにとって、
夜行性のネコは驚異の存在です。
ネコにとってみれば、ネズミよりも楽に捕食出来る食料であり、
1シーズンに10万羽ほどはネコに襲われていると考えられています。
ヒナだけではなく、成鳥も襲うことがあるネコが、
現在ではオオミズナギドリ最大の天敵となってしまいました。
そんな苦労もありつつ、
親鳥よりも大きく成長した若鳥が巣の中で親の帰宅を待ちます。
しかし、いつまで経っても親鳥は戻って来ません。
これぐらいになると、親たちは子供を島に残し、
越冬地である赤道付近へ一足先に向かっています。
それは子供たちがそれぞれ、
単独で生きていかなくてはならなくなったことを意味します。
子供たちも旅立つ日が近いんですが、
それまでに親ぐらいの体重にしなければなりません。
なにしろ、この時期は親の体重の1.5倍もあるんですから。
巣から這い出た若鳥は、
懸命に羽ばたき、空を飛ぶ練習と筋肉を付けていきます。
そして、これは体重を減らすためでもあります。
いずれ彼らも、親たちが登っていた、
あの大木の根元までやってくるはずです。
誰に教わった訳でもなく、
この木の上から、風を捕まえて空へと飛び立つことでしょう。
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