奇っ怪な鳥がいるものです。
今回は特に動画がほとんど見つからなかったものの、
とても目を惹く鳥でしたので、
記事にしたいと思います。
エリマキシギは日本でも見られます。
ただし、季節柄、私たち人間が惹かれる襟巻きはありません。
彼らの襟巻きは繁殖用なので、
冬羽にはないんですね。
今回のエリマキシギたちは普段、インドやアフリカで過ごし、
繁殖期に春~初夏を北欧からシベリアに渡ってきています。
そんな5月のスウェーデンのエリマキシギたちの姿が放送されていました。
これがエリマキシギのメスです。
メスには襟巻きがありません。
そしてこれが繁殖期のオス。
エリマキシギは英語で「ruff」といいます。
「ruff」とは、
このような襟巻きのことで、
それに似ているので、そう名付けられました。
繁殖のためにまず行われるのが、
オスたちの縄張り争いです。
そんな縄張り争いをしているオスの襟巻きは、
こうなっていることが多いです。
黒い襟巻きです。
縄張り争いに勝利した「縄張りオス」は、
直径1mほどの縄張りを持ちますが、
彼らの襟は黒い羽毛になっています。
同じエリマキシギのオスなのに、
黒い襟と白い襟があるんです。
白い襟のほうが数が少なく、
オス全体の2割ほどなんだとか。
縄張りを構える黒襟は、
侵入者が来れば追い払います。
しかし、白襟のオスがやって来ても、
なぜか攻撃しません。
この白襟は、縄張り争いに参加せず、
最初から戦いを放棄している弱いオスなんです。
だから、黒襟は白襟を放置しているんですが…
黒襟のオスたちが真上にジャンプし始めました。
そして、地面で羽ばたいて白いお尻を上げています。
すると、メスの群れが飛来しました。
あれは黒襟のディスプレイだったんですね。
メスが来ると、ダンスに熱が入ります。
翼を精一杯広げて、尾羽も上げて、
自分の健康状態をアピールしています。
しかし、メスはなかなか興味を示してくれません。
そこへ通りかかるのが白襟。
そして彼に近づく黒襟。
ついに白襟が攻撃されて追い払われるのかと思いきや、
お互いに顔を寄せ合っています。
その2羽のオスたちに興味を示したのか、
メスがオスたちへと近づいてきました。
すると、突然、
黒襟が白襟を攻撃しはじめました。
さっきまでは何も起こらなかったのに、
黒襟は白襟の頭をクチバシでつついています。
急に白襟が敵だと認識したのでしょうか?
それをじっと見ているメス。
エリマキシギのメスは強いオスが大好きです。
だから、黒襟は白襟を攻撃しているのでした。
その攻撃もどんどんエスカレート。
白襟はどんなに突かれても、
踏まれてもじっと地面に伏せたままです。
そんな時、メスが尾羽を上げました。
交尾が可能になったんです。
ここまでがエリマキシギのオスの求愛となります。
それにしても、白襟はどういうつもりだったのでしょうか?
痛い思いをして、戦う気がないなら、
黒襟たちに近づかなければいいはずです。
しかし、白襟が黒襟に攻撃されるのも、
エリマキシギの習性なんです。
これはいわば「お芝居」。
黒襟と白襟が顔を寄せ合っていた時に、
依頼が行われたのでしょう。
依頼を受けた白襟はその合図として、
地面に伏せます。
合意の上で、黒襟は白襟を攻撃していました。
黒襟はメスに強いところをみせたいがため、
白襟を攻撃し、白襟はそれを承知で攻撃されていたんです。
合意である証として、時に白襟が演技を中止することがあります。
それは黒襟の攻撃が激しすぎた時。
「お前の相手はもう厭だ」と、
白襟はいつでもお芝居をやめることが出来るんですね。
だから、黒襟の攻撃もほどほどに、ということになります。
手加減しているとはいえ、
なぜ、エリマキシギはそんな習性を獲得したのでしょうか?
白襟は痛い思いをするだけで、
何の利益もなさそうです。
生存や繁殖で利益がなければ、
そのような性質が子孫に伝わるはずはありません。
白襟にも何かしらの利益、
つまり、目的があって攻撃を受けていたことになります。
白襟の目的は黒襟と同じ。
メスとの交尾なのでした。
白襟には起死回生の策がありました。
攻撃を受けながら、ずっとメスから目を離しません。
黒襟が他の黒襟に気を取られるなどした一瞬の隙をうかがい、
白襟はメスとの交尾に賭けます。
どの種でも身体的な優劣は存在し、
身体的に劣るオスはメスに近づけないことも。
しかし、「やられ役」なら、
確実にメスのそばまで近づくことが出来ます。
メスはメスで、強いオスを求めてはいるものの、
どうやら、「強い」というのは、
もっと幅広い評価のようで、
白襟が見せる観察力や、瞬発力なども含まれているらしいです。
身体的に優れたオスと、戦略的に優れたオス、
その双方の遺伝子を
代々のメスたちは現代に伝えてきていることになります。
元々はどのようにしてこのような性質が生まれたのでしょうか?
考えられているのは、
このような経過であるようです。
オスどうしが縄張り争いをして、、
勝者と敗者が生まれます。
そして勝者のオスがメスと交尾しますが、
敗者のオスの中から隙を見つけてメスに近づこうとする者が。
それを見つけた勝者オスは、
激しく敗者オスを攻撃、
すると、そこに他のメスたちも集まってきます。
その勝者オスは格別なモテオスに。
モテオスになるためには、
また、誰かをやり込めなくてはなりません。
しかし、そうそう同じような状況は生まないもの。
一方、間男を試みた敗者のオスも、
メスとの接触方法を失ったままです。
ここに双方の思惑が重なり、
両者の役割が決まりました。
やられ役のほうは最初から縄張り争いに加わらず、
白い襟をまとい、それが一目でわかるように…。
…ということなんですが、
個人的には擬人化が強すぎて今ひとつ納得は出来ていないんですが。
いずれにしても、このようなやられ役を演じてまで、
交尾しようとする鳥はこのエリマキシギだけです。
このやられ役の白襟。
頭脳が優れていることが必要なことはもちろん、
観察力では黒襟の隙を伺う、
メスの動向を判断する以外にも必要なことがあるようです。
1羽の白襟に注目して観察していますと、
黒襟が構える縄張りを渡り歩いています。
どうやら、この白襟はどの黒襟と組もうかと
相手役を捜しているようなんです。
最終的にこの白襟が選んだのは、
その中で最もモテている黒襟でした。
特にメスに注目される黒襟であれば、
そのぶん、自分にも交尾の機会があることを知っているのです。
多くのメスにお芝居が注目されれば、
相手の黒襟も全てのメスを見ていることは出来ません。
隙も出来やすくなります。
また、多くのメスが来れば、
他の黒襟がやって来ることもあり、
そこで黒襟どうしの戦いが始まれば、
それは白襟のチャンスとなります。
黒襟と白襟、どちらが繁殖面で有利なのか。
それは白襟がオス全体の2割というバランスで
理解出来ると思います。
おそらく、白襟の数が多くなりすぎると、
白襟の戦略そのものが成り立たなくなり、
その数を減らすこととなり、
そうして均衡が保たれてきているんだと思います。
さて、ここまでのエリマキシギには、
縄張りを持つ強いオスの黒襟、
縄張り争いには加わらない白襟がいました。
実はこれらとはまた違うオスが
最近発見されました。
「偽メス」と呼ばれるもので、
これは他の種にも見られることがあります。
ほぼメスと同じ姿をしていて、
オス特有の襟巻きもありません。
メスの姿であれば、メスに近づくことが出来ます。
ただし、メスがお尻を上げないと交尾は出来ませんので、
メスの近くでそれを伺うことになります。
黒襟が白襟とのお芝居に、
黒襟と黒襟が戦っている隙になどを狙うのが、
偽メスというオスの戦略となります。
以上、ほとんど文章だけとなりましたが、
エリマキシギの繁殖戦略は奥深いですね。
妙に人間じみてて、
昔の漫画やアニメ、コメディドラマなんかにありそうな設定ばかり。
それを自然淘汰で獲得したとすれば、
やはり、自然界は人間の想像を超えていると、
なお一層、興味が湧いてきます。
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