「アルプスの少女ハイジ」などの名作アニメは、
主に日本アニメーションが製作する「世界名作劇場」となっていきます。
これらの作品には原作があり、
それは主に19世紀のヨーロッパが舞台となっています。
子供が見ていたアニメ作品とはいえ、
そこには当時の時代背景を反映した描写が多数見られ、
今回の番組は
アニメの向こうに歴史が見える!名作アニメで読み解く世界史
と題して、当時のヨーロッパを考えてみます。
お話は大阪大学文学部の藤川隆男教授。
最初は
アルプスの少女ハイジ
から。
アルプスの少女ハイジは1974年1月から約1年間放送されました。
原作はスイスのヨハンナ・シュピリ。
信じられないことですが、
この作品を制作するにあたり、
なんと1年間もスイスへロケハンに出ています。
後にその名を広く知られることになる宮崎駿さん、高畑勲さんも
このロケハンに参加しています。
その調査は作品に生かされ、
やがて世界中でこのアニメ作品が放送された時に、
それが日本製だとは気付かれないほどだったとか。
平均視聴率も20.7%と、大人気の番組でした。
両親が亡くなり、叔母・デーテに預けられた5歳のハイジは、
叔母が出稼ぎに出ることになり、
アルムの山小屋に一人で住んでいる
父方の祖父のアルムおんじの元へ送られます。
おんじは人間を嫌うかのように人との関わりを嫌い、
村人たちも彼を気味悪がっていました。
大きい声じゃ言えないけど、
若い頃、人殺しをしたって言うじゃないか
村人の間ではこんな噂も。
彼が人殺しだというのは真実でしょうか?
そして、なぜ、彼は山に一人籠もっているのでしょうか?
アニメにはその点についての詳しい描写は見られません。
しかし、原作にはこのように書かれています。
おじいさんは若い頃、兵隊になってナポリに行ったらしい。
そして人を殺してナポリから脱走してきたんだって-
アニメ版でクララが山にやって来た時に、
輿から彼女の車椅子への介助をしています。
この部分は原作ですと、
おじいさんはずっと昔、
苦しんでいる男を介護してやったことを思い出しました。
その男というのは
シチリアの戦争の時の隊長だったのです
という描写があります。
彼はスイス軍人としてイタリアへ行ったのでしょうか?
実はそうではなく、
そこには当時のスイスの国情が関わってきます。
今でこそ、優れた刃物や精密機械、観光で知られるスイスですが、
19世紀にはそういった国力となる産業がありませんでした。
そんなスイスの男たちには、
生活のために傭兵となる人が少なくありませんでした。
アルムおんじもその一人。
彼は元傭兵だったのです。
傭兵としてイタリアへ。
当時のイタリアは国の統一を巡り、
フランスやオーストリアが介入し、
「19世紀で最も悲惨な戦場」と呼ばれるほど、
激しい戦争中でした。
原作でもアニメでも、
具体的に彼がそこで何を行ったのか、
何があったのかについては書かれていません。
しかし、戦場から戻ったおじいさんは
人間を避けるようになり、
山へ引きこもってしまうことになってしまったのでした。
そんなアルムおんじでしたが、
自然の中で3年間のびのびと育てられたハイジ。
そんな彼女が突然、ドイツ・フランクフルトの
クララの屋敷へと連れて行かれることになってしまいます。
それは、叔母のデーテが奉公している先で、
ゼーゼマン家が娘の遊び相手を探していると聞き、
以前から学校に行かせていなかったことを心配していたデーテは、
ハイジの意志を無視して彼女をフランクフルトに連れてきたのでした。
ゼーゼマン家の娘、クララは幼い頃に母親を亡くし、
常に車椅子に座っていて外出もしません。
そんなクララには教育係のロッテンマイヤーがいて、
12歳のクララの勉強などは家庭教師が見ていました。
それにしても、なぜ、クララは学校へ通っていないのでしょうか?
当時のヨーロッパの上流階級の子供たちは、
学校に通わないのが一般的でした。
貧しい子供たちがいる学校を避け、
自邸で勉強させていたのです。
また、クララの温厚な父の仕事からも
当時の世界情勢を知ることが出来ます。
私のパパは汽車に乗ったり船に乗ったりして、
外国に行くの。
そしてそこで色々なものを
売ったり買ったりするお仕事をしてるの
クララは父親のことをハイジにそう話しています。
帰宅しても間を置かずすぐに出ていき、
また長い間留守にしているため、
クララはいつも寂しい思いをしているようです。
19世紀のフランクフルトは世界の中心といえる都市でした。
金融一族ロスチャイルド家がその基礎を築いた街です。
マイヤー・ロスチャイルドは安く仕入れた古銭を
富裕層に高値で売り、その利益を元手に金融業を始めます。
さらにナポレオンに対抗する国々に資金を提供、
各国の権力者と結びつき、
ロスチャイルドの財産は一国の財産をも上回りました。
ゼーゼマンもこの富豊かな街で
時代を動かしていたのでしょうか?
ハイジはお屋敷の暮らしになじめませんでした。
夢遊病を患い、ゼーゼマンの判断でアルムの山へと帰されます。
その翌年、クララがハイジの後を追って
アルムの山へとやって来ます。
ハイジがいなくなったことで、
クララが寂しい思いをし、
またハイジから聞かされていた山への憧れもありました。
ここでクララはハイジの協力を得て、
自分の足で立つことが出来るようになります。
ここでまた一つの疑問が。
クララは金髪に青い瞳なのに対し、
ハイジは黒髪に黒い瞳です。
実は原作でも「黒」だと描写されています。
スイスはドイツ、フランス、
イタリア、オーストリアに囲まれた国です。
その国旗の如く、民族の十字路でもありました。
多民族国家であるスイスには
様々な人たちが暮らしていて、
特に東部のグラウビュンデンの山岳地帯には、
昔から黒髪と黒い瞳の人々が住んでいました。
原作にはハイジのお祖母さんがこの地方の出身だと書かれています。
ハイジはその遺伝子を受け継いでいるという訳ですね。
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ハイジの原作はお読みになったことはありますか?
なかなか面白い内容で、
とてもキリスト教色が強いものとなっています。
おじいさんにしても、
彼は人嫌いで教会にすら顔を出しませんでした。
ハイジの洗礼名(本名)はアーデルハイトで、
これは「崇高なもの」を意味します。
崇高なものにより心洗われたおじいさんは、
再び信仰心を取り戻すことが出来た、ということになります。
そういう面でも楽しめると思います。
なお、スイスには「ハイジの家」なるものがあるらしく、
その中にはハイジもいるようですが…
左がハイジだそうです。
この際、日本人としてはどちらでもいいような気も…
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明晩以降「母をたずねて三千里」
「フランダースの犬」についてお書きする予定ですが、
明晩は難しいかもしれません。