先週の
魅惑のスイーツヒストリー!日本人の知らないお菓子な話
から、こんなお話を。
この人は16世紀のフランス人、
ミシェル・ド・ノートルダム。
私たちはノストラダムスの通り名で認識しています。
大予言と呼ばれた当時の風刺詩文が注目されましたが、
デザートの分野に大きく影響を与えた人物でもあるそうです。
ノストラダムスは医師でした。
ノストラダムスという名前は
ペンネームだったのではないかとされています。
彼が生きた時代、ヨーロッパはペスト禍に見舞われていました。
ペストはネズミが媒介する感染症ですが、
当時、感染ルートが不明で、
皮膚が黒くなることから黒死病などとも呼ばれました。
最大の感染者が出た時には、
ヨーロッパ全人口の約三割がペストで亡くなっています。
感染すれば死を覚悟したこのペストでは、
医師も感染を恐れ、診察を拒むこともあったとか。
ただ、ノストラダムスは違っていました。
彼は最前線で感染者の診療に当たったそうです。
それには理由がありました。
彼は妻と子をペストで失っていたのです。
失意と無念から立ち上がり、
ペストと闘う医師となります。
行政からの依頼も受けるなどして、
流行地へ赴いて治療に当たっています。
伝説では、彼は感染ルートを分析し、
ネズミがペストを媒介していることを突き止め、
ペスト対策にはネズミ退治が必要だと訴えたとされています。
また、当時の治療法には、
"悪い血"を出すとして、患者の静脈を切り、
血を排出する「瀉血」という方法が行われていましたが、
彼はそれを否定していたという伝説もあります。
ノストラダムスは医師として、
消毒の意味で患者が触れた場所などを熱湯や酒で消毒、
また、自ら育てた薬草を与えてもいたようです。
現代医学に通じる感染予防を行っていた一人だったんですね。
そんな彼が着目したのが
砂糖
でした。
当時の砂糖は薬剤師が特別に扱う薬でした。
彼は砂糖が消化を助け、肺に良いと考え、
その処方を考えます。
彼がこの頃住んでいた南フランスの森では、
多くの果実が採れましたが、
いつも食べきれず、多くが腐ってしまっていました。
これを砂糖漬にして保存すれば、
冬場の食料不足の時にも良いとして、
飢饉対策としても、
また、日常的に砂糖が摂取出来るとして、
ジャム
を考えつきます。
ただそれは、当時の医学界の考え方とは異なる者でした。
砂糖は塩と硫黄からなり、大量に食べると
内臓と血液を損なう
それが当時の定説だったようです。
この頃の医学界の重鎮でスイス人医師・パラケルススは、
砂糖を
悪魔の食べ物
としています。
高価な砂糖を用いて得られる甘み、
そこには当時の宗教観、
「快楽を求めることは悪」という考え方も影響しているのでしょう。
しかし、医学界を敵に回しても、
彼は体に良いジャムのために砂糖の分量などを追及していきます。
その時、辿り着いたジャムの製法が書かれているのが、
化粧品とジャム論
です。
彼のこの著作ではその他、
美顔や香料などについても説明されています。
これはフランス人が初めて書いたジャムの製法指南書であり、
ベストセラーとなり、長く後世へと伝えられ、
なんと、現在でも購入することが出来ます。
現代の日本では
ノストラダムスの万能薬
というタイトルで。
その中には
ダイダイを蜂蜜と砂糖で保存する方法
―――――その美味しさはたとえようがない。
「ダイダイを四~六片に切り、煮て余分な苦みを取る。
砂糖を二~三ポンド用意、煮詰めてシロップにし、
ダイダイの皮に浸透させる」などと、
現代のジャム作り同様の製法が記されているんだそうです。
日本では"予言者"として知られてしまいましたが、
ヨーロッパでは「ジャムおじさん」なのかもしれませんね。