アブソリュートポジション、
N514-W119-E625-S751。
ポジション確認。
アブソリュートタイム、
B7946051年41時17分32秒。
西暦変換しますと、
1783年6月13日7時18分33秒。
無事、タイムワープ成功しました。
コードナンバー921832、
これから記録を開始します。
1783年、天明3年の江戸。
店の前で呼び込みをしている男がいる。
ここは水茶屋。
団子やお茶などを提供する江戸時代のカフェである。
お客が入っている様子はない。
経営不振の水茶屋が仕掛けた秘策とは何か、
その人気挽回作戦をドキュメントする。
えー、この時代の人々にとって、
私は時空を超えた存在となります。
えー、彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっており、お見せする事はできませんが、
今回も無事密着取材する事に成功しました。
水茶屋「あけびや」。
留吉はこの店の主、いわばオーナーである。
従業員は女性1人のみ。
名前はカメ。
客が入らず、すっかりやる気をなくしている様子だ。
水茶屋は江戸庶民の間で流行していた。
道端や寺の境内に店を構え、
手軽にお茶が飲めるとあって人気があった。
この町角でも水茶屋ブームに便乗しようとした。
だが、店が乱立し、互いに客を食い合うという
過当競争に陥っていた。
この店では何ヶ月も赤字続きのようだ。
呼び込みに疲れた留吉がカメにお前も呼び込めと促し、
店の奥へと消えていく。
そこへ1人の男性が現れた。
大山さん、どうも。
留吉が出てきて迎える。
大山と呼ばれた男は店内を隅々まで見渡している。
この男は何者だろうか?
彼は口入屋の大山権左衛門。
口入屋は奉公先や縁談などを周旋する職業で、
大山は他にも手広く事業を行っていた。
留吉は権左衛門にこの店の立て直しを依頼していたようだ。。
これだけ水茶屋があると、
値段で勝負しようっていってもキリがない。
じゃあ、味で勝負しようかっていうことになると、
新しい食べ物を考えるのに、時間も手間もかかるでしょう。
そこでですよ、とびきり器量のいい娘を置いて、
接待をさせるんです。
で、娘目当ての客が繰り返し来てくれるっていう寸法です。
権左衛門は一つのプランを提案してきた。
看板娘で客を呼ぼうというのだ。
これに留吉は納得出来なかったようで、
そんな姿形のいい娘を雇える金があるなら、
最初っから苦労はしない。
この留吉の反応に権左衛門は笑顔を浮かべて、
いるじゃないですか。
左手を伸ばして留吉の後ろを示した。
留吉が振り返ると、そこではまだカメは自分の爪が気になるようだ。
ありゃ、駄目だ。
ちっともよくありませんぜ。
そういう留吉に、
いや、あの子は磨けば光ります。
権左衛門は断言した。
私の力を以てすれば、きっと輝きます。
一つ私に任せていただけませんか?
ただし、稼ぎの3割を自分の取り分としたいという提案を、
留吉は了承するのだった。
2日後、カメが権左衛門に手を引かれて
店の2階に上って来てみれば、
その部屋には髪結いと呉服商が座っていた。
待つこと40分。
襖を開けてみると、
そこには花魁風の姿をしたカメが立っていた。
この時代のアイドルといえば花魁である。
トップクラスの花魁は、江戸中の憧れだった。
これじゃ駄目だ。
しかし、権左衛門は気に入らないようだ。
これじゃまるで女郎じゃないか。
茶屋の娘は吉原の女郎とは違うんだ。
客が求めてるのは、
気軽に話しかけてくれる身近にいる娘なんだ。
自分のイメージとかけ離れた出来に、
カメの髪と着物をやりなおさせる。
この頃、江戸っ子の興味の対象に変化が現れていた。
トップクラスの花魁は高嶺の花で手が届かない。
それに代わり、ブレイクしたのは、
水茶屋の看板娘。
いつでも会いに行ける身近なアイドルとして、
人気が高まっていたのだ。
カメは花魁風の濃い化粧から、
素人娘のナチュラルメイクへ。
そして、着物も親しみやすいものへと変えていく。
テーマは近所にいそうな可愛い女の子だ。
こうしてカメは権左衛門が考える看板娘へと
その姿を変えていった。
じゃあ、おカメ、
早速、店に出ておくれ。-
留吉がそう促すと、権左衛門はそれを制止する。
まだ何かあるようだ。
今日からお前さんはおカメじゃない。
カメも留吉も驚いて権左衛門を注視する。
おカメっていうのは、聞こえがどうもよくないだろう。
人に好かれるような名前に変えるんだ。
今までは黙ってされるようにされていただけのカメも
これには立ち上がり、
あたしの名前はおカメなんだけど。
と納得しない。
権左衛門は店に出る時だけに使う名前だと、
説明するものの、留吉もカメと同じく反対のようである。
留吉さん、留吉さん、
あんた本気で店を変えようと思っていますか?
叱りつけるように留吉に説明する権左衛門。
そして、
店、変えるのと名前と、何が関係があるんだ
というカメの抗議を最後まで聞かず、
関係ある。
店は新しくならなければいけないんだから、
名前も変えて、蒔き直しをする。
だから、聞け。お前は、今日からおうめ。
おうめさんだ。
店に出る時にはその名前を通してもらいたい。
源氏名を彼女に押しつける権左衛門だった。
早速、浮かぬ顔をしているカメの手を引いて、
店先で留吉は呼び込みを始めた。
外は雨。
雨の中、2人の男が歩いてくる。
いらっしゃいましぃ。
いつものように呼び込む留吉。
これまではほとんどの客が素通りしていたが、
その2人は足を止めてくれた。
この店に興味があるようだ。
どうぞ、どうぞ。
どうぞ、どうぞ。
いらっしゃいませ。
留吉が手招きすると、
2人は顔を見合わせて何かを話し始めた。
そして、互いに頷き合うとこちらにやって来る。
店内に腰掛ける2人はカメのほうをチラチラ見ていて、
それは彼女への興味を示していた。
カメがお盆にお茶を載せてやって来た。
そして、ぶっきらぼうにお茶を置いて、
去って行ってしまった。
客の顔色が一変する。
彼女の接客態度に原因があるようだ。
2人は代金を脇に置くと、
すぐに店を出て行ってしまった。
次の日、権左衛門は店に長唄の師匠の絹を連れてきていた。
彼女は行儀見習いの指南もしているらしい。
どうやら、権左衛門は
カメの接客研修をさせるつもりのようだ。
はじめまして。
絹は笑顔でカメに挨拶する。
しかし、カメは返事をしない。
すると、一瞬で笑顔は消え去り、
絹は怒声を上げた。
挨拶は!
人様に会ったら、目を見て挨拶だろ!
絹に怒鳴られたカメは振り返って留吉に抗議する。
ちょっと。
何であたしがこんなことをやらなきゃいけないんだよ。
それには、堪えてくれと右手で返事する留吉。
突然、絹がカメの両手首を掴んだ。
絹は権左衛門のほうへと向き直り、
お客さんを真っ直ぐ見て。
やはり、カメは気に入らないようで、
留吉への抗議を続けていた。
いらっしゃいましだろ!
絹はそう言うと、権左衛門へ向けて笑顔を浮かべ、
いらっしゃいまし。
と手本を見せていた。
そんな絹は背中越しにカメの声を聞く。
クソババア
呆れかえった絹が店を出て行く。
引き留める留吉。
やる気のない子の相手するほど、
暇じゃありませんもんで。
しかし、必死に頭を下げる留吉。
こういう事に慣れていない娘なんで、
ここは大目に見てやってくだせえな。
元はといえば、私が諭さなかったのが悪かったんで。
頼みます!
お願いします!
留吉の懸命な姿に店に引き返した絹は、
店に入ると、まずカメをじっと見て
人の素振りは…、
己の姿を映す鏡と考えなさい。
留吉の必死な姿にカメも考えを変えたのか、
今度は大人しく師匠の言葉をただ聞いていた。
あなたが笑顔で接すれば、
相手も笑顔を返してくれる。
師匠はもう一度、客に見立てた権左衛門にお辞儀をし、
カメも彼女の真似をして見せてはいるが、
しかし、まだ意固地になっているようだ。
それには彼女の過去に原因があるらしい。
カメは留吉の姪。
5年前にカメの両親は麻疹で亡くなり、
唯一の親戚である留吉が彼女を引き取っていたのだ。
留吉にとっては我が娘のようなもの。
カメの寂しさが理解出来るため、
甘やかして育ててしまい、
そのことを留吉も後悔し、接客は別にしても、
これがカメにとって良い機会になればと望んでいたのだ。
1週間後、店は次第に活気を取り戻しつつあった。
カメも笑顔での接客が板についてきたようで、
それが客足にも好影響を与えているのは間違いない。
これで終いって訳じゃあありませんよ。
権左衛門にはまだ何か考えがあるようだ。
勘定を支払って出ていく客にカメが何かを手渡していた。
花の形をした紙のようだ。
来ていただくごとに花びら一枚。
五枚集めるとお茶を一枚差し上げます。
この店で始めたポイントサービスのようだ。
こうしてリピーターを増やそうという作戦らしい。
さらに店先で手ぬぐいを売り始める。
手ぬぐいには「うめ」という文字が刷られていて、
この看板娘グッズは予想以上のヒット商品となっていく。
調子づいた権左衛門はある日、
留吉とカメを旅籠へと案内する。
通された部屋で待っていたのは、
絵師の及川北英だった。
ここでカメの絵を描いてもらい、
錦絵にして売りだそうというのだ。
絵師は既に話を聞いているようで、
こちらがおうめさんですよね。
水茶屋の美人娘だって。
すると、カメは
いえ、カメです。
と名前を訂正する。
これに権左衛門が
水茶屋のおうめとして描いてもらうのだから、
成りきってもらわないと。
…と、言い切らないうちに
あたしの名前はカメだって。
とカメは譲らない。
当惑している絵師に仕方なく権左衛門が説明する。
お店での名前がうめでして、
カメはちょっと雰囲気が悪いかな、と。
事情が飲み込めた絵師は笑顔を浮かべ、
いえいえ、そんなことありませんよ。
おカメさん。いい名前じゃないですか。
そう言われたカメは伏し目がちになってしまっていた。
錦絵とは多色刷りの浮世絵版画のことで、
鈴木春信らが描き始め広まったもの。
及川北英は当代新進気鋭の絵師。
3日後、その錦絵は水茶屋「あけびや」で飛ぶように売れていた。
私はこの店の追加調査をするため、
1ヶ月後へとタイムワープすることにした。
空いている席がないほどの大繁盛のようだ。
しかし、権左衛門にそう言うと
何を言っている。まだまだこれからですよ。
と、まだ何かを考えている様子。
再び旅籠で絵師・及川北英にカメを描かせる権左衛門、
彼は彼女の生まれてからこれまでを双六にしたものや、
絵草紙にして売り出すつもりらしい。
あまりの商魂たくましい様に、
留吉が驚いていると、
これ、実は十年も前の仕掛けでね。
「笠森お仙」だよ。
と説明してくれた。
私は本部の古橋ミナミに
「笠森お仙」について照会してみることにした。
笠森お仙は江戸谷中笠森稲荷境内の水茶屋「鍵屋」の看板娘。
元々美人で人気のあった彼女だったが、
1768年、浮世絵師の鈴木春信が
お仙の姿絵を描いて出版したことから人気に火が着き、
茶屋には彼女目当ての客が殺到したと伝えられている。
姿絵の他にも、絵草紙、双六、
手ぬぐいなどのグッズが売り出され、大ヒットした。
また、このブームの中では、
各地に人気の看板娘が出現、
お仙と競わせた人気投票、美人比べが行われていた。
権左衛門はこのブームを真似て、
カメを売り出そうとしていたのだ。
全てが順調に見えた。
しかし、なぜか旅籠の外には男の人だかりが出来ている。
彼らは瓦版を手にしていて、
そこには、
あけびや おうめ 浮世絵師と逢引き
と書かれてある。
それは水茶屋で生まれたアイドル
「おうめ」のゴシップ記事だったのだ。
…続きます。
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