ハダカデバネズミです。
エチオピアなどに住んでいます。
裸で出っ歯の鼠ということですが、
ハダカデバネズミ属にはハダカデバネズミしかいません。
私は知らないんですが、
何やら最近人気なんだそうで。
ぬいぐるみなんてあるんですね。
一度見ればその姿を忘れることはありません。
実は特異なのは、その姿だけではなくて、
その生態もとても奇妙なものとなっています。
彼らは常に土の中で暮らしていて、
そのために目は退化していて、
その痕跡しか確認することは出来ません。
土の中にアリの巣のような巣穴を掘り、
採餌も土の中から植物の根などを食べています。
上の動画の上野動物園の展示では、
50匹のハダカデバネズミの巣ですが、
自然界では最大300匹規模のものもあります。
彼らはなぜほとんど体毛を持たないのでしょうか?
多くのネズミも地中に潜ることもありますが、
ほとんど体の幅ぐらいしかないパイプの片方を塞ぎ、
ネズミを入れてみると、奥へと進んでいきますが、
行き止まりになると、無理矢理体を折って、
体の向きを反転させて戻って来ました。
ハダカデバネズミは違います。
彼らはそのまま後ずさりすることが可能で、
それは壁に引っ掛かる体毛がないからこそ
出来る芸当だということになります。
さらに、ハダカデバネズミには
女王
がいます。
この動画の中で乳首が見えるのが女王です。
ハダカデバネズミは階級社会で、
1匹の女王を頂点に、その下に数匹の王、
少数の兵隊、多数の労働階級と続きます。
番組では巣の中におがくずを置いてみるという実験をしていました。
いつもは何もない綺麗な巣穴ですが、
そこにおがくずを置いてみると、
働きハダカデバネズミがやって来て、
後ろ足でそれを取り除こうとしています。
後ろ足で蹴って、蹴って、運んでいきます。
そうしていると、また1匹の働きハダカデバネズミがやって来て、
そのおがくずをさらに後ろへと蹴り始めました。
このような連係プレーでおがくずを除去していました。
次に部屋にカメラを設置。
すると、他より大きなハダカデバネズミが。
この異物が敵なら攻撃する構えです。
これら分業と階級が決められている社会を持つハダカデバネズミ。
通路で鉢合わせすると、
階級が上、力が強いほうが上を通ります。
では、女王はどうかというと、
若い女王の場合は時に攻撃されることがあります。
攻撃されて殺されて、
下剋上が起こることも。
したがって、女王アリなどとは違い、
誰よりも巣の中を見回って、
自分の力が巣の中の誰よりも上であることを
示します。
では、王ハダカデバネズミはどうなのでしょうか?
右が普通のハダカデバネズミで、
左が王様です。
王様と呼ばれてはいるものの、
体は小さい個体でやせ細り肌の張りもなくなっています。
王様も元々は右のような姿をしていたはずです。
ハダカデバネズミの社会では、
王は繁殖係で、女王から交尾の要求がくると、
それに応じなければならず、
どんどん痩せていく運命にあります。
しかし、それでも通路ですれ違う時には、
上を通るので地位は守られているのでしょう。
さて、ここまで見てきたように、
彼らの生態はシロアリやアリなどに似ています。
女王を頂点にして、
他にメスがいるもののそれらは子を産まず、
高度な分業制が成立しています。
こういう性質を
真社会性
と呼んでいます。
シロアリやハチ・アリなどは当然ですが、
この真社会性の哺乳類はハダカデバネズミと
ダマラランドデバネズミだけ。
さらにいえば、脊椎動物の中ではこの2種だけです。
ハダカデバネズミには体毛がほとんどありませんが、
それは地中の環境が温度などの面で安定していて、
また、雨水などに体温が奪われることもありません。
よって体毛は不要であるわけなんですが、
一方で体温調節が苦手です。
体温は恒温動物の中では低く、
寝室などでは
このような折り重なって暮らしています。
お互いの体温が必要なのでしょう。
この体温は子育てでも重要で、
産まれて間もない赤ちゃんは低体温に弱く、
労働階級の一部がその体温を役立たせています。
赤ちゃんが見えていますが、
その下敷きとなってほとんど動かない生体がいます。
彼らは「布団」の役割を果たしているのでしょう。
さて、ハダカデバネズミの特長の一つ「出っ歯」。
彼らは前肢、後肢で土を掻き出していますが、
土を掘るのはその歯です。
まるで土に噛みつくようにして土を掘っています。
口の中は土だらけなのでしょうか?
大口を開けたハダカデバネズミです。
これだけ口を開けてもその奥は見えません。
実はハダカデバネズミの門歯は、
口の中に生えているのではなく、
鼻のすぐ下から生えていて、
いわば唇を突き破るようにして、
上下4本の歯が生えているんです。
そのため、歯を使って土を掘っても、
口の中に土が入らない構造になっています。
また、下の2本はわずかに左右に動かすことが出来、
そのため、自分の体重と同じ重量の餌を
安定して運ぶことが出来ます。
ところで、10cmにも満たないハダカデバネズミですが、
その寿命はどれぐらいでしょうか?
一般に脊椎動物の寿命は
その体重の1/4乗に比例するとされています。
ハツカネズミ場合は1年半~2年程度。
それに対し、ハダカデバネズミは、
平均
28年
もの寿命があります。
もちろん齧歯目最長です。
2009年米の科学雑誌「PNAS」に
ハダカデバネズミを癌から守る強い細胞接触阻害
(Hypersensitivity to contact inhibition provides a clue to cancer resistance of naked mole-rat)
http://www.pnas.org/content/106/46/19352.full?sid=3a42e497-a28f-42d6-9ee7-8d1066fb9b3a
こんな論文が発表されました。
今までハダカデバネズミに、
癌が見つかったことはないようです。
細胞が無秩序に増殖されるのが癌ですが、
ハダカデバネズミの場合、
細胞の増殖を必要最小限に抑制するシステムが備わっており、
結果、癌になりにくいと考えられています。
そのため、医学でもハダカデバネズミは注目されています。
なお、彼らが長寿なのは、
地中に暮らしているため、
体温調節をせず、体毛を生やさないなど、
生きるためのエネルギーが少なくて済むことも重要です。
基礎代謝が低いことが重要です。
先日、ハキリアリの高度な分業を記事にしましたが、
ハダカデバネズミも負けてはいません。
たとえば、天敵のヘビが巣穴に頭を入れてきた場合、
どうすると思いますか?
自ら食べられに行くんです。
食べられている間に、他の連中がその穴を塞ぎます。
個体よりも群れが優先されるのがハダカデバネズミの社会で、
それはアリやハチなどと共通です。
なぜこんなことが起こるのか、
それをお書きすることもあるかもしれませんが、
ハダカデバネズミの場合も、
アリやハチと同じ理論で説明できるのか、
非常に面白いテーマですので
考えてみたいと思います。