進化医学のお話、2回目になります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)について
昼間、起きていなければならない時間に、
そうであることを認識していながら、
それに反して襲われる強烈な眠気。
もしかすると、それは睡眠時無呼吸症候群、
sleep apnea syndrome(SAS)の症状なのかもしれません。
夜、無呼吸の時間が多いと、
深い眠りにつけず、そのしわ寄せが昼間に押し寄せてきます。
そして、SASは自分の命を奪うかもしれません。
重度のSAS患者は脳梗塞や
心筋梗塞などの発症率を大きく上昇させます。
250万年前、私たちの祖先は
初めて石器を手にするようになりました。
元々、私たちは草の根や木の実を食べていましたが、
石器を利用することで、
死んだばかりの動物や、
肉食動物の食べ残しの肉を食べるようになりました。
そして、肉よりももっと柔らかく栄養豊富な骨髄も、
石器があれば食べられるようになります。
柔らかいものが食べられるようになると、
噛む力が従来よりも小さくても困らなくなり、
私たちの顎も大きな力を発揮する必要はなくなり、
小さくても済むようになりました。
この影響を受けたものの一つに舌があります。
私たちの祖先の舌は前後に長い形をしていました。
しかし、私たちの顎が小さくなったことで、
舌が収まるスペースが狭くなってしまいます。
この窮屈になった舌の問題は
舌の付け根を喉のほうへ下げることで
解決しようとしてきました。
その結果、空気の通り道が上下に長くなり、
そのため、横になって眠る時に、
舌が落ち込んで、気道を塞ぎ、
呼吸に問題を起こすようになりました。
柔らかいものを食べることにより、
顎が小さくなり、それがSASを生んだのです。
しかし、その一方で私たちが得たものもあります。
ヒトに最も近い種とされるボノボ。
研究機関には千の単語を認識出来る個体もいます。
その物を示す言葉を聞けば、
その図柄の画像を指して示すことが出来ます。
しかし、私たちには出来て、
ボノボには出来ない決定的な能力があります。
話すこと
です。
なぜボノボには出来なくて、
私たちには出来るのでしょうか?
私たちが発話する時、
舌を上下左右自在に動かして、
その音声ごとに全く違う形の声道を形作ります。
チンパンジーの口腔を見てみますと、
舌を前後に動かすことは可能ですが、
上下のスペースに乏しいため、
声道の形の変化に限界があり、
私たちのような様々な音を発声することは出来ません。
私たちは顎を小さくしましたが、
窮屈になって舌の大きさは変えませんでした。
そのために睡眠時無呼吸症候群のリスクが生まれましたが、
代わりに様々な声、
言葉を手に入れることが出来たのでした。
ある4歳の少女は睡眠時無呼吸症候群に悩まされていました。
彼女の顎が小さいことで、
眠る時に舌が気道を塞いでしまうことに。
彼女は現在9歳。
今、新しい治療法に取り組んでいます。
就寝時、バネの付いたこの特殊な器具を
上顎に装着することで、
小さな顎を押し広げる治療法、
拡大治療
です。
彼女の上顎をかたどったものです。
器具の装着を始めてから半年間で、
幅を6mm拡張することに成功しました。
もしも、私たちが顎を小さくし、
空気の通り道を縦に長くしてきたことが進化だとすれば、
これは一種の退化の方向へと、
人体を矯正しようとしているのかもしれません。
しかし、この拡大治療は、
根治治療に繋がる有効な手段として、
活用されようとしています。
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