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サイエンスZERO「天然の治療薬?脂肪に潜むスーパー細胞 -ASC-」

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現代人にとって「脂肪」といえば、
忌むべきもの、増やしたくないものというイメージがありますが、
今回は脂肪由来のスーパー細胞

ASC

のお話です。


大阪の福祉施設で働くTさん(46歳女性)は、
3年前、左乳房に乳癌が見つかり、
乳房温存手術を受けました。
この手術では乳房を全摘出するのではなく、
癌とその周囲を最小限に切除し、
乳房の変形が軽度になるようにします。
しかし、実際には組織を取り除いた部分には、
窪みが出来てしまうことが多く、
それについて彼女は

メロンをスプーンですくったような感じで
グリッと、本当にグリッとえぐれてて


と語り、入浴の度に落ち込み、
好きな服も着られなくなったそうです。

このような手術を受けた場合、
失われた部分にシリコンなどの人工物を入れることもあるんですが、
切除した部分が患者により様々なため、
非常に困難な面もあります。
また、脂肪を注入する方法もありますが、
その脂肪には血管がないこともあり、
やがて失われてしまいます。

温存手術とはいえ、乳房の失われた部分について、
悩みを持っている人は多く、
それを何とか出来ないかと考えたのが
鳥取大学医学部附属病院形成外科の中山敏准教授でした。
その彼が用いた奇策が

ASC

という細胞でした。
厚労省の承認を受け、人への臨床研究が始まり、
Tさんはそれに応募し参加することになりました。
まずは彼女の腹部皮下脂肪から脂肪細胞を吸引、
これを分離機などで振り分けて、
脂肪の中のASCを取り出します。
このASCを別に取りだしておいたTさんの脂肪に混ぜて、
乳房の目的の部分に注入します。
手術としては簡単な部類で、
あとは経過観察となります。

3ヵ月後、定期健診に訪れたTさんは

乳房の形もほぼ元に戻っています。
2ヵ月過ぎたころから、手術をしていない右胸の柔らかさに戻って、
違和感も全くないですし、痛みもなく、
柔らかい状態です。


と話します。
彼女は乳房が元通りになっただけでなく、
積極的な生活を取り戻し、
このASC注入手術について、

私の人生の中で、一番よかったんとちゃいますかね

と語りました。

手術から1年が過ぎても、
注入した脂肪はほとんど減っていないといいます。
以前から、脂肪の注入は行われてきましたが、
失われてしまうのが普通のようなのですが。




これが脂肪細胞。
そして、



これがその中を走る血管で、



こちらが現在注目を浴びているASCです。

先ほどはASCを脂肪に混ぜて胸の窪みに注入しました。
この時、活動するのが免疫細胞マクロファージで、
せっかく注入した脂肪を異物として攻撃し始めてしまいます。
ところが、ASCはこの時にサイトカインという蛋白質を放出、
それが異物でないことをマクロファージに報せます。
しかし、マクロファージが攻撃を止めても、
血液が届かなければ、酸素も栄養も届かないため
脂肪細胞はやがて死滅してしまいます。
ここでもASCが活躍するんです。
ASCは血管新生因子という蛋白質を放出、
血管を呼び寄せるためのこの物質により、
近くの血管から新しい血管が伸びてくることになります。
そのおかげで、注入した脂肪細胞は
生き続けていられることになりました。
実際に超音波検査を行いますと、
注入した脂肪細胞に新たな血流が確認出来ました。

現在は臨床研究で安全性を検証している段階ですが、
5年以内の保険適用される治療として確立できるように
研究が続けてられています。


お話は国立がん研究センター分野長の落谷孝広先生です。

ASCの効果が期待されているのは乳房再建だけではありません。
たとえば、腹圧性尿失禁もその一つ。
腹圧性尿失禁の原因は病気や出産、老化などによって
尿道をしめる括約筋や平滑筋の機能が弱まることにあります。
現在、日本人の400万人が悩んでいるとされる
この腹圧性尿失禁これまでの治療法では、



テープによって尿道を吊り上げるなどして機能を補っていました。
これだと体内に異物を入れることになってしまいます。



しかし、ASCを用いた方法は、
自分の脂肪から取り出したASCを尿道の周囲に注入し、
衰えた筋力そのものを回復させようというものです。
臨床研究で、11人にASCを注入したところ、
8人が改善、1人は完治させることが出来ました。

実は、ASCには別の細胞に変化する能力があります。
腹圧性尿失禁の治療例では、
ASCは筋肉に変化したものとみられます。


adipose-derived stem cells

これを略してASC、日本語では

脂肪由来幹細胞

となります。
幹細胞といえば、様々な組織細胞に変化するもので、
最近ではノーベル医学生理学賞を受賞した
京都大学の山中伸弥教授の研究である
iPS細胞細胞がよく知られるようになり
それ以前にはES細胞が知られていました。
これらは、自然界には存在しない人工的な幹細胞ですが、
ASCは既に自分の体内の脂肪細胞に存在しているもので、
ASCにはこのように様々な組織の細胞に分化し、
その他に、損傷した組織の修復や
細胞の保護などの能力を有しています。
iPS細胞やES細胞のような万能には分化しないものの、
ASCは脂肪、筋肉、骨、軟骨、肝臓の細胞などには分化するようです。
また、iPS細胞やES細胞には癌化の懸念が言われていますが、
ASCの場合はまだその報告はないようです。

私たちの体内にあり利用出来る幹細胞ASC。
このような幹細胞は人体の様々な組織に存在していて、
特に骨髄の幹細胞はその中でも最も古くから研究されてきました。
骨髄の幹細胞では、足の血管の再生、
肝臓や心臓の機能回復のための臨床研究が行われています。
この骨髄幹細胞とASCを比べてみた場合、
まず骨髄から幹細胞を取り出すためには、
全身麻酔をしなければなりませんし、
採取出来る量もわずかです。
そこへ2001年、脂肪組織から幹細胞が得られることが報告され、
脂肪組織は骨髄とは違い、
美容外科の脂肪吸引で行われている方法で採取出来ますし、
その量も段違いの1000倍にもなります。
それも現在ASCが注目されている理由なんです。

さらに、ASCには驚きの能力があることが知られています。
仮に肝臓を患っているとして、
その治療のためにASCを注入した場合、
なぜかASCはその患部の肝臓の部位に集まるというのです。
医療では、病変部が判明していても、
実際にそこへ薬品などを届けることが困難であることが多いものの、
ASCは自らそこへ移動してくれます。

なぜ、そんなことが起こるのでしょうか?
はっきりしたことは不明ですが、
現在はこのように考えられています。

血管に注入されたASCを体内の潜水夫だと考えた場合、
ASCは血流に乗って体内を循環、
巡回することになるでしょう。
その時、患部からSOSに相当する信号物質を感知すると、
ASCはいわば「探査モード」にチェンジ、
ASCは血流に流されないために血管の内壁に付着、
内壁を転がるようにして移動しつつ、
SOSの出所、患部を探します。
患部近くに辿り着くことが出来たならば、
「救援モード」に変更、
自らの形を変形させつつ、血管壁をこじ開け、
患部に向かっていきます。
ここでASCはサイトカインを放出、
この場合のサイトカインは細胞の修復と再生を助ける働きをする"薬"。
ASCは自ら患部まで"薬"が届けるそうなんです。
こういった働きは、骨髄幹細胞でも同様と考えられていますが、
このサイトカインでも、
炎症を抑えるASCのサイトカインの量は、骨髄由来の5~10倍、
肝臓の障害を治すサイトカインでは、6倍であるとされています。

まだASCへの期待は続きます。
あらゆる細胞が分泌するナノレベルの小胞に
エクソソームというものがありますが、
私たちは細胞と細胞の間で、
常にこのエクソソームのやりとりをしています。
このエクソソームの中には、
遺伝情報を伝えるRNAなどが収まっていて、
ASCが分泌するエクソソームは
ある病気の治療に役立つことが判ってきました。
その病気とは、

アルツハイマー病

です。
アルツハイマー病患者の脳には
アミロイドβという蛋白が沈着した老人斑が見られますが、
ASCが分泌するエクソソームには、
アミロイドβを分解する酵素を運ぶ能力があります。

ASCそのものだけではなく、
ASCが分泌するエクソソームも、
薬として利用出来るということなんですが、
現在、治療法としてASCの利用が期待されているのが

・アルツハイマー病
・腎臓病
・脳梗塞
・パーキンソン病
・歯周病
・糖尿病
・脊髄損傷
・肝臓病
・癌


などです。



ASCは、本来私たちの体に備わっている
自己修復機能なのでしょう。
私たちがそれを意識することなく、
毎日のように、体内で起こる病変を
ASCが治療してくれているのかもしれません。
そのメカニズムには不明な点も多いものの、
ようやく、私たちはその存在に気付き始めたのかもしれません。




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