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NHKスペシャル 和食 千年の味のミステリー -和食の旨味はアスペルギルス・オリゼから- その2

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こちらからの続きです。

http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11737058185.html



umami

これは日本語から国際語になった言葉。
甘味、酸味、塩味、苦味が基本的な味覚の種類だとされていた中、
化学者・池田菊苗がグルタミン酸モノナトリウム塩を発見、
現在は上の4つに旨味を加えて、
五基本味とされています。

和食において、アスペルギルス・オリゼ以外のカビも、
この旨味に欠かせないことがわかっています。
昆布は収穫されて蔵の中で寝かされて出荷されてきました。
そうして熟成されることで、フマル酸、コハク酸、
ピログルタミン酸などが生まれ、
これらが複雑に絡み合うことで、
私たちが期待する昆布出汁の味となります。
昆布を寝かす蔵の長年住み着いているカビなどの微生物が
昆布の味を変化させているのでした。
鰹節も何度もカビを着けて、
年数をかけて熟成させることで、
料理に使えるようになります。
和食に欠かせない昆布出汁も鰹出汁も、
カビの働き抜きには得られないものなのです。


アスペルギルス・オリゼは特殊なカビ。
このカビはなぜ日本にしかいないのでしょうか?
また、私たちはどのようにして、
オリゼを手にすることが出来たのでしょうか?



ツバキの枯れ葉を燃やしています。



その灰をご飯の上へ。
このご飯を2日間放置すると、



このようにカビだらけになります。
左が木灰のない茶碗、
右が木灰をふりかけた茶碗です。
空間を漂っていたカビがご飯に付着して増えたため、
このようになりますが、
左は赤や黄色など様々な色のカビが成長したのに対し、
右の灰をふりかけたほうは緑のみです。
この緑のカビがアスペルギルス・オリゼです。
木灰はアルカリ性。
私たちの先祖は木灰をご飯にふりかけて、
アルカリ性でも繁殖できるカビを選択していたというのです。
私たち日本人は、古来から木灰を暮らしに生かしてきました。
かまどや囲炉裏、火鉢などの灰に水を加え、
その上澄み液で洗濯や洗髪しています。
私たちの祖先は、木の灰のアルカリ性に
殺菌作用があることを気付いていたのです。
灰は灰でも、植物によって殺菌力は異なります。
人々はより殺菌力の強い灰を求めて、
辿り着いたのが、



京都大原名産のツバキでした。
室町時代には既にこのツバキの灰で
オリゼを育てていて、
ツバキは種麹屋にとりわけ大切にされるようになっています。


酒の分野では、平安時代中期、
10世紀にはオリゼを使っての酒造りが行われています。
千年以上昔、927年編纂の「延喜式」には、



米一石蘖四斗

とあります。
米1石に対して

蘖(よねのもやし)

を4割。この



こそ、アスペルギルス・オリゼです。


種麹屋「菱六」の主は、
良い酒、良い醤油を生み出すオリゼの選別に、
その仕事の大半を費やします。
経験から得られた眼力と、
研ぎ澄まされた嗅覚で、
残す胞子と廃棄する胞子を選り分けます。
それを代々脈々と続けてきたおかげで、
私たちはその恵みを得ることが出来ている訳です。

ところで、なぜアスペルギルス・オリゼは
日本にしかいないのでしょうか?
東京大学農学部の北本勝ひこ教授は、
このように考えています。

アスペルギルス・オリゼは元々自然界にはなく、
日本人が作り出したものだ




これはオリゼの近種、
アスペルギルス・フラブスです。
このフラブスにも酒を造る力はありますが、
同時にアフラトキシンという毒を生成してしまいます。
アフラトキシンは肝細胞癌など引き起こす発癌物質で、
天然のものでは最高レベルの毒性。
これはフラブスが自らの身を守るために
生成していると考えられます。



フラブスの顕微鏡写真、
フラブスの細胞核は一つしかありません。



オリゼは多数の核を持ちます。
フラブスの中に、突然変異で複数の核を持つものが現れ、
それを日本人が選択して残し、
それを繰り返してきたことで
アスペルギルス・オリゼになった、
それが北本先生の仮説です。

フラブスとオリゼのDNA配列を比較してみますと、
それはほとんど同じ配列になっていますが、
唯一違うのが、毒素を作る部分。
そこだけがすっぽりと欠落しているんです。
オオカミを家畜化してイヌとしたように、
セキショクヤケイを家畜化してニワトリとしたように、
アスペルギルス・フラブスを家畜化して、
アスペルギルス・オリゼを獲得したのではないか、
北本先生はそう考えます。

私たちの先祖はアスペルギルス・フラブスを大気中から獲得、
それらを室で育てて熱を加えて毒を弱め、
味のいい酒を造るフラブスを選択し育てていきます。
それを繰り返していくうちに、
毒素を作るDNA配列を持たないフラブスが生まれます。
フラブスが育てられていた室には、
外敵や競争相手がいません。
敵がいれば、突然で毒を持たなくなったフラブスは滅びるでしょう。
しかし、人間が管理している室であれば、
毒素が作れなくても増殖出来ます。
こうして、毒素を作るDNA配列を持たないフラブスが育てられ、
それを繰り返していく中で、
より糖分を作るDNAを持つものを種麹屋は選択、
また、突然変異で多くの核を持つものも。
より安定しているものを選択していくことで、
それは後世に伝えられていきます。
こうして、自然界に存在しないカビ、
アスペルギルス・オリゼが生まれたのではないでしょうか。


種麹屋「菱六」では、
その元となるオリゼの株の在処を知るのは、
主のみとなっています。
オリゼは代を重ねていくと、
糖分を作る能力が低下することが知られています。
そんなオリゼに、大元のオリゼの胞子一つを加えることで
再び活力を取り戻すそうです。
種麹屋が営々とこれを繰り返すことで、
今も、アスペルギルス・オリゼは
和食の味の基礎であり続けています。





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