タイムスクープハンター「解明せよ！戦慄の超常現象」その2

こちらからの続きです。

http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11837985628.html

降ってきた石と落ちていたキノコ。
これはササコというキノコかもしれない。

このキノコはこの事件とどういう関わりがあるのだろうか？

私はここで、これまでの監視カメラの映像の解析を依頼することにした。

こちら沢嶋、応答願います。

「はい。タイムナビゲーターの古橋です」

監視カメラの映像の解析をお願いしたいのですが。

「了解しました。データを転送して下さい」

データの量が多いため、
解析には時間が必要なようだ。

ここで、奉公人の平助から事件の手掛かりの情報が得られた。
彼が新左衛門と千夜に話す。

「私めの知り合いの知り合いに聞いた話でございます。
実は、このような奇怪な事が起こっている家が
いくつかあるのだそうです。
どこの家かは、悪い噂が立っては困ると、
名を伏せておりましたので、私もどこかというのは存じておりません。
ただ、その家も夜毎ひとりでに物が動き、
不思議な音が鳴ったりとしていたそうです。
その時に、ある下女に差し障りがあることが分かりました」

意外な話に新左衛門が尋ねる。

「差し障り？差し障りとは何じゃ？」
「変事が起こった家には、
雇っていた下女たちには皆、
似た素性があったというのです」
「その似た素性とは何じゃ？」
「その女たちは皆、池袋村の出身だったそうです」

新左衛門と千夜が顔を上げる。

「その者が言うには、池袋村には狐憑きの一族が多く、
その末裔なのではないかと…。
確かな裏付けはございません。
あくまで噂でございますが…」

千夜がこの家に池袋村の者がいるのかと質問した。

「おります」

千夜が平助ににじり寄って迫る。

「だ、誰です！？」

それは下女のさきだった。
駆けるようにして部屋から出て行く千夜。
慌てて新左衛門と後を追うと、
千夜はさきに掴みかかっていた。

「すぐさまこの家を出て行きなさい！」

さきは突然の事に困惑しているようだ。

「何のことでございますか！？」

「よくもそんなことが言えるのう！
これまでの事は全てそなたのせいなのであろう！
この疫病神が！」

新左衛門が間に割って入って千夜を制止する。

「存じません！何のことでございますか！？」

千夜は新左衛門をふりほどこうと暴れている。

「離しなさい！全てはこの女のせいです！
この家のために追い出さなければ！」
「母上！さきが何をしたというのですか？
先ほどの話はただの噂、
事の次第も分からぬ者の戯れ言にございます！」
「離しなさい、新左衛門！
この家に悪い噂が立ったら何と致す！？
騒ぎが大きくならぬうちに、
早めに手を打たねば鳴りませぬ。
新左衛門は何故、斯様にさきの事をを庇う！？」
「噂に惑わされてはなりませぬと申しておるのでございます！」

千夜はさきに迫ることをやめた。
それは母親としての勘が働いたのだろうか？

「そなた…、もしや？」

「私は、さきを好いております」

新左衛門の告白に千夜は声を失った。

「もう三月前から、恋仲なのでございます。
これは戯れではございません。
真剣に好いております。
もちろん、将来、さきを嫁に迎えたいと思っております」

下女を嫁にと言う息子に千夜が問う。

「そのようなことは許される訳がない…。
そなたは！石黒家の当主なのですよ！
そんな田舎女と一緒になって、この家は如何致す！？」

今度は再びさきに憎悪の視線を向ける千夜。

「…祟りのみならず、新左衛門まで寝取るなんて…、
こんな女を雇ったのがそもそもの間違いじゃ！
新左衛門をたぶらかして…、
これ以上、そなたをこの家に置いておけぬ！
如何な災いがあるかわからぬ！
すぐさま、出て行きなさい！」
「母上！母上といえど、口を慎んで下さい！
さきにどのような非があるというのです！？
確たる証拠もなく、人を貶めるなど、
許されることではありませんぞ」

「これより、池袋村へ参り、
事の次第を突き止めて参ります。
それまで、拙者が戻ってくるまで、
さきをここへ留め置いて下さい。
必ずや元凶を突き止めて参ります。
さきとの離しは、その時まで少しお待ち下さい。
お願い致しまする」

新左衛門は深々と頭を下げていた。
承伏した訳ではないようだが、
千夜は奥の部屋へと下がり、
ひとまずさきを追い出すことはやめたようだった。

私は新左衛門とともに、
池袋村へと同行することにした。
当時、池袋村の女性を下女にすると、
怪奇現象が起きるという俗説があり、
これは沼袋の女性という場合もあった。
こういった噂が都市伝説のように広がっていたのだ。

間もなく池袋村だろうか。
森の中の道を進んでいると、
新左衛門が突然立ち止まった。

「いや、向こうの木の辺りに人影が見えたようなんでな」

二人でそこへ行ってみるが、誰もいない。
私は映像で確認してみることにした。

たしかに、何者かの姿が写っている。
その時だった！
突然、新左衛門が走り出し

「待て！」

と叫ぶ。
私たちは必死に人影の後を追った。
しかし、もうどこにも人影は見えない。
追いかけているうちに道から外れてしまったので、
そろそろ戻らないかと新左衛門に提案したが、

「いや、あれは間違いなく村の女よ。
何か知っておるはずじゃ」

彼は探索を続けていた。

辺りは暗くなり、月も星も見えないため方角もわからない。
私は現在の位置を確認するため、
本部に連絡することにした。
しかし、原因不明の機材トラブルにより、
本部と連絡が出来ない。

「おい！」

新左衛門がまた走り出す！
いったい何が起きたのか！？

暗闇の先に小さな小屋が現れる。、
その中から新左衛門が顔を出した。

「先ほど、この納屋に人影が逃げ込んだようなのだが…」

新左衛門が何かを見つけた。

あのキノコ、ササコだ。
小屋の外にもササコが生えていた。
この森にはササコが自生しているらしい。
これで事件がここの村人の仕業である疑惑が深まった。
大量の石を籠に入れるときに、
ササコが混ざっていたのだろう。

ドン！

大きな音がしたかと思うと、
続けて、ドンドンと小屋を叩く音が。
慌てて外へ出ようとするが、戸が開かない。
閉じ込められたのか！？
意を決して、新左衛門が体当たりで戸を破る。
すると、人影が一目散に闇の中に消えようとしていた。
走り出す新左衛門。

「やめろ！いてえよ！俺が何したってんだよ！」

新左衛門が男を捕まえたようだ。

「屋敷に悪さをしたのはお前たちらしいな。
ここのササコが屋敷にもあったぞ。
まだ白を切るか？観念せい！」
「仕方ないだろ！お前らが悪いんだろ！」

「我らが悪いだと？」
「そうだよ！おめえらが村の女に手を出すからいけねえんだ！」
「何を申しておるのだ？」
「村の女は俺たちの村のものだ。
村の女は村の男の嫁になる。そういうしきたりなんだ！
それなのに、奉公先の男に手を出されたらどうする！？
俺たちはしきたりの中で行き、そうやって村を守ってんだ！」

犯人が話したのは意外な動機だった。

「二度と我が家にもさきにも手を出すな！」

そう言うと新左衛門は犯人を放してしまった。
逃がしてしまってよかったのかと新左衛門に訊いてみたが、

「構わぬ。あやつを捕まえたところで…、仕方ない。
…やはり、妖や狐の仕業ではなかった。
これでやっとさきの疑いも晴れようぞ」

ピピッ

本部からのだ。

「沢嶋さん、沢嶋さん。無事ですか？
少し前から呼びかけていたんですが、
応答がなかったもので」
「原因不明の機材トラブルでした。
今は問題ありません」
「そうですか…。よかったです。
映像の解析が終わったんですが」

「お皿が落ちる直前に棒のような物が写っています」

隙間から棒を差し込んで突いていたようだ。

「それと、屋敷の外に仕掛けていたカメラの映像です。
画像を補正してクリアにしたところ、

ここに男性が写っていました」

まさに先ほど捕まえた男だ。
手には棒のような物を持っている。
石も火もあの男の仕業だったのだ。
これで事件の真相が明らかになった。

屋敷に戻った新左衛門は事の子細を千夜に報告し、
さきへの真剣な思いを話した。

このような怪奇現象の真相は、
今回のケースのような出身地の男の嫌がらせか、
奉公先で虐げられた下女の自作自演であることが多い。

新左衛門が出てきた。

「納得してはおられぬようだが、
これで奇妙なことは起こらぬ。
さきとのことは…、時間をかけてご承知いただくしかなかろう。
おお、まつ」

新左衛門が下女のまつを呼び止める。

「さきはどこにいる？」

「それが…、これが奉公人の部屋に置いてございました」

それはさきが書き残した置き手紙であった。
手紙には騒動を起こしたことへの詫びと、
自ら責任を取って、家を出ると綴られていた。
閉鎖的なしきたりから端を発し、
根拠のない噂が悲劇を生んでしまった。
恐ろしいのは幽霊や妖怪でもなく、
差別を作り出す人間である。
時が経ち、やがて村のしきたりがなくなると、
怪奇事件は立ち消えとなり、噂もなくなった。
いつの時代も一時の流行の波に呑まれ、
運命を翻弄される人々がいる。
そうした悲劇が繰り返されていることを
忘れてはならない。