軍師官兵衛第41話「男たちの覚悟」その背景～朝鮮出兵(唐入り/唐御陣)まで～

一般には朝鮮出兵と呼ばれる豊臣秀吉による対外戦争。
学問上、教科書に載っているのは文禄の役、
それに続く慶長の役でしょうか。
たしかに朝鮮に兵を出した訳ですが、
当時は「唐入り」「唐御陣」などと呼ばれており、
秀吉の目的はあくまでも明国であり朝鮮半島ではありませんでした。
そして、現実に戦争したのが、
その通り道である朝鮮半島の李氏朝鮮が相手ということになります。

元々は織田信長の考えだったのかもしれません。
岐阜城を拠点としたあたりで信長には既に、
日本の外を治めるという発想があったようです。
秀吉はまだ信長存命で中国征伐の頃、
毛利に信長にその考えがあることを明かしています。
秀吉はその遺志を継いだか、あるいはなぞっていたのかもしれません。
また、秀吉は天下統一をなし、惣無事令を出すことで、
日本から大きな戦乱をほぼなくしはしましたが、
一方で、その戦乱を糧に生きていた武士たちの
その活躍の場を奪うという結果にもなりました。
何しろ、長く続いた戦国時代ですから、
戦争で活躍し、その功績により領地を得るという生き方をしている武家が
大きく膨れあがっていました。
新天地を得れば、彼らに新しい領地を与えることが出来るということも、
秀吉に大陸攻めを決断させた理由かもしれません。
秀吉の構想は壮大で、天皇を北京に移し、
その後はインドから西アジア、果てはヨーロッパ征服までもが
頭の中にあったとされます。
唐入りは秀吉の野望のみと決めつけるのは正しくないとは思いますが、
たしかに彼の野望が色濃く見える出兵でもありました。

国と国の関係では、現代でも主従関係が見られることがあります。
明と朝鮮の関係はまさにそれで、
宗主国・明とその冊封国・李氏朝鮮という図式で、
この二国の関係は現代にも大きな影響を与えている訳ですが、
それはともあれ、秀吉は明を攻めるにあたり、
まずは通り道の朝鮮半島を従属させようとしました。
朝鮮に明への道程を先導させようという考えです。
しかし、朝鮮は明の臣ですので、
朝鮮がそれに素直に従うはずもありません。
この交渉に当たったのが対馬の宗氏で、
その宗義智は秀吉の軍の先導役ではなく、
明への道を貸してくれ、ただ秀吉軍の行軍を黙認していてくれればいいと
要求内容をグレードダウンさせますが、これも上手くいきません。
義智は交渉不調のまま朝鮮からの使節を秀吉に会わせます。
彼は秀吉に対し、この使者を秀吉への「服属」の意を示す使節だと説明、
一方、朝鮮には秀吉天下統一の「祝賀」のために
使節を出して欲しいと要望していました。
宗氏は以前から朝鮮とは交易などで長い交流があり、
経済的にはその交易で成り立っていた一族でした。
朝鮮との関係を壊したくない、
秀吉にも睨まれたくないという板挟みで、
このような姑息な手段でやり過ごそうとしたのでしょうか。
しかし、実際に秀吉と使節を会わせてしまえば、
当然、話が違っていることは明らかになってしまいます。
こうして、明を攻める前に、
豊臣秀吉は李氏朝鮮を最初の攻撃目標とするのでした。
そして、その前線基地が肥前国名護屋に築かれることになります。