ビーバップ！ハイヒール弔辞「故人に送る最後の言葉」その2 -横山ノックから横山やすしへ-

ビーバップ！ハイヒール「THE ラストメッセージ～故人に送る最後の言葉～」

http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-12001401096.html

こちらでは佐藤浩市さんから三國連太郎さんへ、
水谷豊さんから宇津井健さんへ、
原辰徳さんから原貢さんへ、
石原慎太郎さんから立川談志さんへの弔辞をご紹介しています。

一昨年の前回のこの企画では

http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11411624389.html

上岡龍太郎さんから横山ノックさんへの弔辞が扱われました。
あらためて再掲します。

ノックさん
あなたは僕の太陽でした
あなたの熱と光のおかげで僕は育ちました
あなたの暖かさと明るさに包まれて生きてきました

ノックさん
あなたはみんなの太陽でした
あなたが現れるだけでその輪がパッと明るくなりました
あなたが笑顔を見せるだけでみんな心が癒されました

ノックさん
あなたは大きな太陽でした

あなたの前に立つと
自分が如何に些細なことにこだわり
つまらないことに悩み
取るに足らないことで人と争っているか
自分自身の小ささを思い知らされました

ノックさん
あなたは今西の空を真っ赤に染めて
水平線の向こうに沈んで行こうとしています
でも僕の胸の中には今も真夏の太陽のような
あなたがギラギラと輝いています

あなたと初めて会った昭和35年 1960年8月5日から
最後となった平成18年 2006年4月4日までの思い出の数々が
まるで宝石のようにキラキラと胸いっぱいに詰まっています

六甲のベースキャンプ
ハウスボーイ時代にはサミーと呼ばれ
宝塚新芸座では三田久と名乗り
秋田Kスケから横山ノック漫画トリオになったノックさん

初めて買ったブルーバード・ファンシーデラックスが盗まれ
セドリックからアルファロメオ・ジュリアスプリントベローチェ
運転手付きのダッジダートに乗り換えたノックさん

我孫子町から沢ノ町
西宮北口から千里津雲台
桃山台の豪邸から芦屋に移り住んだノックさん

漫才師から参議院議員
大阪府知事から最後は被告人にまでなったノックさん

相方や車や住まいや肩書きはコロコロと変えたけど
奥さんだけは生涯変えなかったノックさん

血の滴るようなTボーンステーキが大好き
あんころ餅や大福餅といった甘いものが大好きで
何より麻雀が大好きだったノックさん
女性が大好きだったノックさん
料理を作るのがうまかったノックさん
麻雀はへたくそだったノックさん
女性を口説くのがうまかったノックさん
お酒は弱かったノックさん
麻雀も弱かったノックさん
女性にも弱かったノックさん

マーロン・ブランド扮するナポレオンの髪形を真似して
ピンカールしていたノックさん
あの頭で10日に1回散髪に行ってたオシャレなノックさん

進駐軍仕込みの英語が堪能だったノックさん
そのくせカタカナは苦手だったノックさん

人を笑わせるのに自分は泣き虫で
賑やかなことが好きな寂しがり屋で
ありがた迷惑なほど世話焼きで
ああ見えて意外に人見知りで
甘えん坊で頑固で意地っ張りで負けず嫌いで
天真爛漫で子供っぽくて可愛くて

そしていつでもどんなときでも必ず
僕の味方をしてくれたノックさん

ノックさん
本当にありがとうございました

ノックさん
本当にお疲れ様でした

そして
ノックさん
本当にさようなら

芸人を送るのに涙は似つかわしくありません
どうか不世出の大ボケ横山ノックを
精一杯の笑顔と拍手で天国に送ってやってください

ノックさんに献杯

上岡さんはノックさんと漫画トリオでしたけれど、
実質、ノックさんの弟子ともいえます。
あれは弟子・上岡龍太郎から、
師匠・横山ノックへの送る言葉でしたが、
今回は師匠・横山ノックが弟子を見送った弔辞をご紹介します。
ノックさんが送ったのは弟子・横山やすしさんへの弔辞でした。

横山やすし享年51 1996年1月21日逝去

天才漫才師・横山やすしと呼ばれた彼。
15歳の頃、堺伸スケとして、堺正スケとコンビを組み、
少年漫才師として活動していて、そのデビューは注目されはしたものの、
鳴かず飛ばずの状態が続いていました。
やがて相方が廃業。くすぶる17歳の才能に声を掛けた男がいます。

コンビ別れしたんやてな。いっぺん遊びに来いひんか

漫画トリオで大人気の横山ノックさんでした。
ノックさんは横山エンタツさんの弟子で、
やすしさんもエンタツさんの漫才が好きだったようで、
また、ノックさんは我が子のようにやすしさんを可愛がり、
やすしさんはノックさんを師匠として慕うようになります。
弟子っ子としてのやすしさんはとても気の回る弟子だったようで、
師匠が出かける前には必ず靴と靴べらを用意、
何事も師匠の行動の先回りをして用意していました。
ノックさんは「横山」を名乗ることを許します。
ここに「横山やすし」が誕生、
後にバラクーダを組むことになる岡本圭司さんとの漫才を始めますが、
それも長続きせず、
弟弟子・横山プリンさん、レッツゴー庄司さんとも漫才をしていますが、
いずれも短期間で別れています。
「コンビ別れの名人」と言われるようになったやすしさんに
ついにその才能を存分に発揮できるもう一人の天才に出会います。

横山やすし・西川きよし。
やすきよブーム到来。
向かう所敵なしのやすし・きよしでしたが、
やすしさんは、タクシーで運転手に傷害事件、
無免許運転に、飲酒運転で事故を起こし、
泥酔状態で生放送に出演するなど、
所属の吉本興業は彼を解雇、、芸能界から事実上追放となりました。
そのトラブルの度毎に、
土下座して謝罪してまわっていたのが師匠・ノックさんでした。
そんな師弟関係でしたが…ある年の忘年会、
師匠も顔を出している酒席に贈れてやって来たやすしさん。

やすし。今まで仕事やったんか？まあ、座れ
お疲れさん。今年もよう頑張ったな

ノックさんが弟子にビールを注ぎつつ、
優しく声をかけます。
しかし、この時のやすしさんは既に泥酔状態、
ノックさんにすがりつき、

師匠！はっきり言うて下さい！
やすきよの漫才は漫画トリオを超えたと思います！

と。信じられない師匠に対する無礼な言葉でしたが、
それにもノックさんは怒らずに、

やすし、お前は飲み過ぎや

と諭します。

ごまかさんとはっきり答えて下さい！
やすきよの漫才は日本一や！言うて下さい！

やすしさんのあまりのしつこさに

みんな撤収や。今年もお疲れさん！

ノックさんが怒って見せるようなことはなかったようですが、
この忘年会はここでお開きとなりました。
やがてこの師弟は決定的な別れの時を迎えます。
1996年、やすしさんがアルコール性肝硬変で亡くなったのです。

師匠から弟子への弔辞です。

やすし君
僕の一番弟子で、一番手を焼いた君のために
最後までこうして手を焼くとは思いもよりませんでした
とうとう君に言ってあげることは出来なかったけれど
君の芸はとっくに僕を追い越していたよ
やすきよの漫才は漫画トリオをとっくに超えていたということを
今、やすし君、君に贈ります
なあ、やすし
天国へ行ったらもう飲んだらあかんなんて言わん
大好きな親父さんと一緒に好きなだけビールを飲んだらええわ
せやけど、漫才だけは忘れんとけよ
何年か先には僕も行くから
ふたりで今度はコンビを組んで
天国の人、みんな笑わしてやろ
それまであんまり他の人に迷惑かけんといてくれよ
この言葉を最後に贈り
お別れの言葉と致します
平成八年一月の二十四日師横山ノック