いつも思うことなんですが、政治家はもちろん、
経済学の大先生の中には経済学の大原則
誰かの支出が誰かの収入になる
を理解していない人が多いのではないでしょうか。
ついに大筋合意となってしまったTPPでは、
この大原則について、どう考えられているのでしょうか?
政府は9日午前の閣議で
全閣僚が参加するTPP総合対策本部の設置を決めました。
今ごろ? 国民の生活を大きく変えるだけの国際協定を推進しておいて、
大筋合意の後に、総合対策本部設置決定とは。
マスコミは「○○が安くなる」などと報じていますが、
安くなるということは、たいていの場合、
そのぶん、それが消費者に届くまでの課程で生計を立てていた人の
収入が減ること、あるいは奪うことでもあるんです。
現在は不況です。
誰がどのように数字をこねくり回しても、
不況という事実は変わりません。
誰かの収入が減るということは、
それだけの購買力を失うということで、
それは内需の減少へとつながります。
政府の無策、あるいは逆効果となる政策のために
長年、日本の内需は低いレベルで推移していますが、
今後、それがさらなる悪化を見せることになります。
内需が悪化すれば、また、国民の収入は減少します。
このデフレスパイラルを止めるためにはTPPが必要という主張も読みましたが、
それはあくまで、この新しい自由経済の基準で
勝てる
者の理窟です。
TPP発効後、多くの日本国民は競争で「勝てる」でしょうか?
私は無理だと思います。
ほとんどは
負ける
はずです。
考えてみてください。
価格の違う品物があった場合、
多くの人は高い品物を買うでしょうか?
安い品物を買うでしょうか?
もちろん、政府やマスコミなどが言うように、
中には品質重視で高額な品物を買う人もいるでしょう。
高品質こそが日本の強みだと。
しかし、現実にはそれは少数の需要に過ぎず、
ある程度の品質さえあれば、
ほとんどの人は安価な品物を買うんです。
そうでなければ、日本中、こんなに百均だらけにはなりません。
高価で高品質なモノに対する需要の総量は知れています。
高い人件費、高い電気料金、コストダウンには限界があります。
既にコストダウンにコストダウンを繰り返して、
不況に耐えてきた企業が生き残っているのです。
ここからさらにどれほど、コストダウン出来るのでしょうか?
だいたいコストダウンで人件費が削減されれば、
それこそ、不況の一大要因になります。
広域自由経済圏の先駆者であるEUでは、
ドイツ以外が負け組です。
よってヨーロッパ全体が不況です。
ドイツも経済を輸出に頼っていますので、
ドイツも不況になってきています。
自由貿易により、EU加盟の他の国に
自国の製品を売って収入を得ていたドイツで、
周りの購買力が低下すれば不況になるのは当たり前です。
TPPでは、EUほどの自由協定には至りませんでしたが、
このEUの取り返しのつかない大失敗について、
政治家や経済学者はどう説明するのでしょうか?
もしかすると、EUでは勝ち組の国が消滅してしまうかもしれません。
新国立競技場の建設費の問題が持ち上がった時、
私はTPPのことを考えました。
あれに2~3000億円がかかったとしても、
そのお金の多くは国内で循環するでしょう。
日本の「誰かの収入になる」のです。
ところが、関税のかからない世界で国外の製品を買った場合、
そのお金の多くはその生産国に流れます。
ほとんどは日本国内の誰かの収入にはならないのです。
年間単位でもその金額は何千億円どころではないでしょう。
そのぶん、日本は不景気になります。
厄介なのは、こういう自由貿易のアイディアが出現した時点で、
それに加盟しない国は貿易で不利になるという点です。
早速、韓国が今からでもTPPに参加する方向での検討を始めました。
韓国は輸出依存度が高い国ですので、
焦る気持ちもわかります。
このTPPで最も打撃を受けるのは韓国経済だとも言われています。
韓国は以前から対米、対EUでFTAを結んでいましたので、
自国の貿易には影響は少ないと考えていたようですが、
TPPが対米欧貿易だけではなく、また、対日のこともあり、
そしてTPPはモノの他に、
カネ、ヒトの移動についての自由協定でもあることから、
ここへ来て、その考えを改めつつあります。
ただ、TPPの内容がほぼ決定した後に参入することの不利はあるでしょう。
日本の場合、だからこそ「入るなら」「ルール作りの段階から」と
各国と折衝出来るようにしてきたのでしょう。
このTPPで、唯一の価値ある効果は対中国です。
経済の秩序を中国が作ろうとしていましたので、
その対策としては意味があろうかと思います。
しかし、それも、IMFが中国元を国際通貨にしてしまうと、
その意味は大きく薄れてしまうでしょう。
軍事面での安全保障の意味は残るかもしれませんが。
これらのポジティブな効果については、
他の具体案があります。
対中の安全保障では、環太平洋で軍事同盟、協定を結べばよく、
貿易面での不利は免れませんが、
日本は韓国のように極端に輸出に依存していません。
TPP発効後、十年もしないうちに
ほとんどの国は敗者となるでしょう。
EUの現在のように。
その敗者たちの中でも、
再び立ち上がるための力を持つためには、
どれだけ自国内での産業を維持出来るか、
新興出来るかにかかっているはずです。
日本国民の支出が、
他の日本国民の収入になるような社会の実現、
そのために、内需拡大こそが
日本が選択すべき正しい経済政策だという認識が必要になるんです。
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