本日から姫路市の兵庫県立歴史博物館で、
特別展『人間国宝・桂米朝とその時代』が開催されるようです。
この特別展では関連資料の展示のほか、
「米朝アンドロイド」も展示されるそうです。
昨日はプレス向けに生前の録音に合わせた「百年目」を披露したらしく、
一般公開でも同様の内容になるのでしょうか。
なんでも、この博物館には
米朝さんの三男・中川渉さんが学芸員としていらっしゃるとのこと。
渉さんは「息子が見てもそっくり」と仰っています。
その「米朝アンドロイド」がこちらです。
さて、22日放送のEテレ「サイエンスZERO」から。
番組を通してテーマとなっていたのは
なぜアンドロイドを作ろうとするのか
だったと感じます。
これはNASAが開発しているロボットValkyrieです。
こちらは店舗でも見かけるPepper。
これらロボットはヒューマノイドと呼ばれます。
一方、こちらは夏目漱石のアンドロイド。
番組では人型ロボットのうち、
ひと目見ただけでそうだとわかるものをヒューマノイド、
徹底的に人間に似せたものをアンドロイドと説明していました。
ただ、私個人はアンドロイドはヒューマノイドに含まれるという認識です。
何かの作業させるなど、
人間の生活に役立つ機械としての役割であるならば、
わざわざ手間暇かけて姿形にこだわらなくてもいいはずです。
なぜ、研究者や技術者はロボットを人間に似せようと考えるのでしょうか。
上の漱石アンドロイドは
大阪大学教授でATR石黒浩特別研究室室長の石黒浩工学博士監修によるもの。
漱石の顔はデスマスクが残っていますので、
造形はそちらから。
声はわからないので、
作家で漫画批評家、漫画家、
漱石の孫の夏目房之介さんによるものです。
アンドロイドの分野では世界に知られている彼ですが、
ニュース番組などでご存じの方もいらっしゃるかと思います。
たとえば、
こちらのご自身のアンドロイド。
そのほか、同じく監修の
このマツコロイドはテレビ番組「マツコとマツコ」に登場していました。
そして生前に作られた「米朝アンドロイド」。
もちろん、特定の誰かではなく、
このようなアンドロイドも手がけています。
多数のアンドロイドを製作してきた教授は、
アンドロイドは人間のコピーを作ろうとしているわけです
人間のコピーができたところから
心とは何か、意識とは何か、
アイデンティティとは何か
そういった問題を理解したいと思っています
と話します。
彼が初めてアンドロイドを製作したのは16年前。
娘型のアンドロイドで、
姿形は人間の女の子でしたが、
それを見た人の多くは不気味さを感じるものとなりました。
それからアンドロイド製作は進歩を重ねてきていますが、
それでも、未だに不気味さを完全に払拭したとはいいきれないでしょう。
なぜ、姿が似ているのに、
私たちはアンドロイドに不気味さを感じてしまうのでしょうか。
たしかに、現在の技術では
人間の皮膚を完全に再現できませんので、
そのあたりにも原因があるかもしれません。
しかし、もしも、その問題がクリアされたしても、
似ているだけでは、
その不気味さを取り払うことはできないかもしれません。
教授は生身の人間の表情や仕草を探ります。
それらをアンドロイドで再現させ、
それを見る人の反応を確認します。
すると、アンドロイドがわずかに体を揺らしたり、
首を傾けたりする時に
それを見る人間は親しみを感じることがわかりました。
普段、そういった動作を私たちは意識して行うことはあまりありません。
これらの無意識の動作が「人間らしさ」の一つなのでしょう。
次はこちら。
これは実体として存在しているものではなく、
コンピューターグラフィックスです。
CG「Saya」はネット上でも話題になりました。
"彼女"は石川晃之・友香夫妻による作品で、
その製作では、皮膚の下にある人体の構造を
解剖学書を参考にしていて、
さらに、モーションキャプチャーで
女優さんの動きを取り入れているそうです。
夏目漱石のアンドロイドでも、
内部に45の人工筋肉が配されていて、
皮膚を動かしているそうですが、
皮膚の柔軟性、質感などはCGのようにはいかないようです。
続いてはこちらのアンドロイド「機械人間オルタ」。
これは阪大・石黒研究室と、
東京大学の池上高志教授の研究室が経堂で開発したもので、
従来のアンドロイドと大きく異なるのは、
人工知能を備えている点です。
これまでは、どこの関節をどの向きに何度曲げなさいなど、
プログラムされた通りに動いていました。
しかし、オルタにはそういった動きを指示するプログラムは存在せず、
白紙の状態で創り出されました。
オルタは自ら「人間らしさ」を習得していきます。
自分がどのような動きをした時に
人は近づいてくるのか、そして、遠ざかるのかを学習します。
実験では生み出されたばかりのオルタを置いたままにしておき、
その前に集まる人、行き交う人を観察させます。
実験開始前は無意味に両腕をランダムに振り回していたオルタでしたが、
1週間後には、少し落ち着いたように見え、
その動きにも何らかの意味があるようにも見えてきました。
おそらく、人間の赤ん坊も
最初は無秩序に手足などを動かしているのだと思います。
それらの運動の中で、
それぞれの動きに対し、周りの人がどのような反応をしているのか、
それを学習することで、
「人間らしさ」を獲得していくのではないでしょうか。
次はこちら。
こちらも石黒研究グループによるもので
これはコミュニケーションのために開発されたロボット「テレノイド」で、
カメラとマイク、スピーカーが内蔵され、
タブレット端末から遠隔操作を行い、
会話もオペレーターが着けているヘッドセットのマイクで行います。
つまり、オペレーターはその場所か、
近い場所にいるはずなのに、
テレノイドを通して会話していることになります。
わざわざそんなことをするのは、
直接、人間が話しかけるよりも、
テレノイドのほうが話しやすいケースが
実際に多いからなのでした。
このテレノイドは老人介護施設への導入が予定されていて、
オーストリアやドイツでも活用されているそうです。
この個性のない姿形は、
一見すると不気味そのものともいえますが、
実際に抱えてみて会話してみると、
愛情がわいてくるもののようです。
その外見からは目鼻口など、
人間と認識されるだけの最低限の情報しか得られませんが、
石黒教授によれば、
人間は足りない情報は
各個人が「ポジティブなイメージで補完する」らしく、
誰もが愛着を持てるものになっています。
重要なのは人の存在感を再現するのに
人の全てを再現する必要はない
たとえば、この場合だと
だっこできる触感と
人間らしい声の2つがあれば
充分に人の存在感を得ることができる
そのように解説します。
今後のロボット開発はどこまで人間に似せられるかという方向性と、
テレノイドのような最低限の姿で、
ロボットと人間の相互作用についての研究になっていくようです。
なぜアンドロイドを作ろうとするのか
私はその大きな目的の一つは
「人間を知るため」だと思っています。
かつて二足歩行ロボットの開発では、
十年以上、試行錯誤が繰り返されてきました。
二足歩行そのものは実現できても、
1歩踏み出すのに10秒近くかかり、
数cmの段差でも転倒してしまいます。
研究者たちは人間が歩いている姿を録画して、
何度も確認しました。
すると、一つのことに気づきます。
人間は歩く時に、バランスを故意に崩し、
それを支えるために無意識に足を出していることを。
それを繰り返すことで、私たちは歩いています。
それまでの二足歩行ロボットは
できるだけバランスを崩さないように設計されたものでしたが、
それでは、わずかの段差でも倒れてしまいます。
自らバランスを崩し続けなければ、
様々な床面の変化に対応できないのです。
歩行は大きく2種類に分類されます。
接地している足に体の重心を移動させつつ歩行するものが「静歩行」で、
人間では赤ちゃんが行うもの。
よちよち歩きのように、その速度は極めて遅いものとなります。
対する「動歩行」は体の重心を動的に移動させながら行うもので、
成人の歩行はこちらになり、
これらの概念の確立は人間の歩行研究の成果となります。
ロボット開発を行うことで、
歩行における上半身の役割についても研究は進んだのではないでしょうか。
現在のアンドロイド開発でも、
「人間を知るため」という目的で、
医学や解剖学、心理学、哲学、
臨床では理学療法、作業療法だけでなく、
精神医学の分野でも活用されるような
大きな成果を上げ続けるものと思っています。
特別展『人間国宝・桂米朝とその時代』が開催されるようです。
この特別展では関連資料の展示のほか、
「米朝アンドロイド」も展示されるそうです。
昨日はプレス向けに生前の録音に合わせた「百年目」を披露したらしく、
一般公開でも同様の内容になるのでしょうか。
なんでも、この博物館には
米朝さんの三男・中川渉さんが学芸員としていらっしゃるとのこと。
渉さんは「息子が見てもそっくり」と仰っています。
その「米朝アンドロイド」がこちらです。
さて、22日放送のEテレ「サイエンスZERO」から。
番組を通してテーマとなっていたのは
なぜアンドロイドを作ろうとするのか
だったと感じます。
これはNASAが開発しているロボットValkyrieです。
こちらは店舗でも見かけるPepper。
これらロボットはヒューマノイドと呼ばれます。
一方、こちらは夏目漱石のアンドロイド。
番組では人型ロボットのうち、
ひと目見ただけでそうだとわかるものをヒューマノイド、
徹底的に人間に似せたものをアンドロイドと説明していました。
ただ、私個人はアンドロイドはヒューマノイドに含まれるという認識です。
何かの作業させるなど、
人間の生活に役立つ機械としての役割であるならば、
わざわざ手間暇かけて姿形にこだわらなくてもいいはずです。
なぜ、研究者や技術者はロボットを人間に似せようと考えるのでしょうか。
上の漱石アンドロイドは
大阪大学教授でATR石黒浩特別研究室室長の石黒浩工学博士監修によるもの。
漱石の顔はデスマスクが残っていますので、
造形はそちらから。
声はわからないので、
作家で漫画批評家、漫画家、
漱石の孫の夏目房之介さんによるものです。
アンドロイドの分野では世界に知られている彼ですが、
ニュース番組などでご存じの方もいらっしゃるかと思います。
たとえば、
こちらのご自身のアンドロイド。
そのほか、同じく監修の
このマツコロイドはテレビ番組「マツコとマツコ」に登場していました。
そして生前に作られた「米朝アンドロイド」。
もちろん、特定の誰かではなく、
このようなアンドロイドも手がけています。
多数のアンドロイドを製作してきた教授は、
アンドロイドは人間のコピーを作ろうとしているわけです
人間のコピーができたところから
心とは何か、意識とは何か、
アイデンティティとは何か
そういった問題を理解したいと思っています
と話します。
彼が初めてアンドロイドを製作したのは16年前。
娘型のアンドロイドで、
姿形は人間の女の子でしたが、
それを見た人の多くは不気味さを感じるものとなりました。
それからアンドロイド製作は進歩を重ねてきていますが、
それでも、未だに不気味さを完全に払拭したとはいいきれないでしょう。
なぜ、姿が似ているのに、
私たちはアンドロイドに不気味さを感じてしまうのでしょうか。
たしかに、現在の技術では
人間の皮膚を完全に再現できませんので、
そのあたりにも原因があるかもしれません。
しかし、もしも、その問題がクリアされたしても、
似ているだけでは、
その不気味さを取り払うことはできないかもしれません。
教授は生身の人間の表情や仕草を探ります。
それらをアンドロイドで再現させ、
それを見る人の反応を確認します。
すると、アンドロイドがわずかに体を揺らしたり、
首を傾けたりする時に
それを見る人間は親しみを感じることがわかりました。
普段、そういった動作を私たちは意識して行うことはあまりありません。
これらの無意識の動作が「人間らしさ」の一つなのでしょう。
次はこちら。
これは実体として存在しているものではなく、
コンピューターグラフィックスです。
CG「Saya」はネット上でも話題になりました。
"彼女"は石川晃之・友香夫妻による作品で、
その製作では、皮膚の下にある人体の構造を
解剖学書を参考にしていて、
さらに、モーションキャプチャーで
女優さんの動きを取り入れているそうです。
夏目漱石のアンドロイドでも、
内部に45の人工筋肉が配されていて、
皮膚を動かしているそうですが、
皮膚の柔軟性、質感などはCGのようにはいかないようです。
続いてはこちらのアンドロイド「機械人間オルタ」。
これは阪大・石黒研究室と、
東京大学の池上高志教授の研究室が経堂で開発したもので、
従来のアンドロイドと大きく異なるのは、
人工知能を備えている点です。
これまでは、どこの関節をどの向きに何度曲げなさいなど、
プログラムされた通りに動いていました。
しかし、オルタにはそういった動きを指示するプログラムは存在せず、
白紙の状態で創り出されました。
オルタは自ら「人間らしさ」を習得していきます。
自分がどのような動きをした時に
人は近づいてくるのか、そして、遠ざかるのかを学習します。
実験では生み出されたばかりのオルタを置いたままにしておき、
その前に集まる人、行き交う人を観察させます。
実験開始前は無意味に両腕をランダムに振り回していたオルタでしたが、
1週間後には、少し落ち着いたように見え、
その動きにも何らかの意味があるようにも見えてきました。
おそらく、人間の赤ん坊も
最初は無秩序に手足などを動かしているのだと思います。
それらの運動の中で、
それぞれの動きに対し、周りの人がどのような反応をしているのか、
それを学習することで、
「人間らしさ」を獲得していくのではないでしょうか。
次はこちら。
こちらも石黒研究グループによるもので
これはコミュニケーションのために開発されたロボット「テレノイド」で、
カメラとマイク、スピーカーが内蔵され、
タブレット端末から遠隔操作を行い、
会話もオペレーターが着けているヘッドセットのマイクで行います。
つまり、オペレーターはその場所か、
近い場所にいるはずなのに、
テレノイドを通して会話していることになります。
わざわざそんなことをするのは、
直接、人間が話しかけるよりも、
テレノイドのほうが話しやすいケースが
実際に多いからなのでした。
このテレノイドは老人介護施設への導入が予定されていて、
オーストリアやドイツでも活用されているそうです。
この個性のない姿形は、
一見すると不気味そのものともいえますが、
実際に抱えてみて会話してみると、
愛情がわいてくるもののようです。
その外見からは目鼻口など、
人間と認識されるだけの最低限の情報しか得られませんが、
石黒教授によれば、
人間は足りない情報は
各個人が「ポジティブなイメージで補完する」らしく、
誰もが愛着を持てるものになっています。
重要なのは人の存在感を再現するのに
人の全てを再現する必要はない
たとえば、この場合だと
だっこできる触感と
人間らしい声の2つがあれば
充分に人の存在感を得ることができる
そのように解説します。
今後のロボット開発はどこまで人間に似せられるかという方向性と、
テレノイドのような最低限の姿で、
ロボットと人間の相互作用についての研究になっていくようです。
なぜアンドロイドを作ろうとするのか
私はその大きな目的の一つは
「人間を知るため」だと思っています。
かつて二足歩行ロボットの開発では、
十年以上、試行錯誤が繰り返されてきました。
二足歩行そのものは実現できても、
1歩踏み出すのに10秒近くかかり、
数cmの段差でも転倒してしまいます。
研究者たちは人間が歩いている姿を録画して、
何度も確認しました。
すると、一つのことに気づきます。
人間は歩く時に、バランスを故意に崩し、
それを支えるために無意識に足を出していることを。
それを繰り返すことで、私たちは歩いています。
それまでの二足歩行ロボットは
できるだけバランスを崩さないように設計されたものでしたが、
それでは、わずかの段差でも倒れてしまいます。
自らバランスを崩し続けなければ、
様々な床面の変化に対応できないのです。
歩行は大きく2種類に分類されます。
接地している足に体の重心を移動させつつ歩行するものが「静歩行」で、
人間では赤ちゃんが行うもの。
よちよち歩きのように、その速度は極めて遅いものとなります。
対する「動歩行」は体の重心を動的に移動させながら行うもので、
成人の歩行はこちらになり、
これらの概念の確立は人間の歩行研究の成果となります。
ロボット開発を行うことで、
歩行における上半身の役割についても研究は進んだのではないでしょうか。
現在のアンドロイド開発でも、
「人間を知るため」という目的で、
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