4月28日付の最高裁判所(山本庸幸裁判長)による判断です。
2008年静岡厚生病院において
胎児の心拍が確認できなかった妊婦に帝王切開を実施、
妊婦が亡くなった事件について、
遺族側が病院を訴えていた損害賠償請求の上告審で、
「早期に治療すれば命を救うことができた」として、
被告側の上告を退ける決定を行いました。
亡くなられた2人の命が気の毒な出来事ですが、
多方面で複雑な状況となっています。
この問題を報じた毎日新聞は3日、このように報じています。
病院側の賠償確定 最高裁決定 /静岡
https://mainichi.jp/articles/20170503/ddl/k22/040/176000c
1審の静岡地裁は、女性が救命率の低いとされる羊水塞栓(そくせん)症を発症していた疑いがあり、救命は困難だったと請求を棄却した。しかし高裁は「適切な治療が行われた場合は救命できた可能性がある」と遺族の逆転勝訴とする判決を言い渡していた。
一方、1日付の産経新聞では
妊婦死亡7千万円賠償確定 静岡厚生病院、最高裁
http://www.sankei.com/affairs/news/170501/afr1705010028-n1.html
と、羊水塞栓症については書かれていません。
羊水塞栓症とは、羊水が母体の血管内に流入、
血液の流れを阻害している状態です。
羊水には胎児の髪の毛や皮膚、便などが含まれていて、
これが母体の血管を詰まらせます。
妊婦が死亡する確率が高いとされ、
根本的な原因はよくわかっていません。
まず、毎日新聞の問題点を指摘しておきますと、
ここで羊水塞栓症としていることで
現場の医師たちは
「羊水塞栓症で妊婦が亡くなったら有罪にされる可能性がある」
と、受け取ってしまうこと。
一部、誤報と指摘する声もありますが、
高裁からの流れとしては誤報とはいえません。
しかし、ちゃんと取材して報道するべきでした。
毎日といえば、半年前に福島県浪江町の大柿ダムについて、
表層水のセシウム濃度を誤報。
単純な資料の誤読も原因でした。
これは明らかな誤報でしたが、
原因としては似ているように思います。
ご存じのように、日本は産科不足です。
私にも度々、
「産婦人科から婦人科」に診療科を変更したような話が聞こえてきて、
さらに地域ごとの医療格差のため、
自分が住んでいる地域でお産ができないということも出てきていて、
十数年前、出産難民、お産難民なんていう言葉も生まれました。
産科の看板を外して、
婦人科にすれば、こんな訴訟リスクを負う必要はなくなります。
ただでさえ、少ない産科医がさらに減り、
少ない産科に妊婦が殺到、
多忙な産科医がますます長時間勤務となり休めなくなります。
そして、また、1人ずつ、産科の看板を下ろすことになるのです。
こんな調子で、全国から産科がなくなれば、
ますます日本は子どもが産めない国になっていくでしょう。
世の中に「訴訟なんて怖くない」という産科医が
どれだけいるでしょうか。
産科に限らず、小児科や外科など、
面倒な診療科はますます人気がなくなっていくでしょう。
裁判としては、最高裁が上告を退けたということで、
二審高裁の判断が正しいもので間違いないとしていることになります。
そこで、東京高裁(富田善範裁判長)の判断を確認してみましたが、
これがまた、私の理解力のなさからなのか、
よくわかりません。
高裁は病院側に過失があったとしていますが、
何が誤りだったのかがわからないのです。
女性が陣痛により来院、胎児の心拍が確認できず、
エコーにて常位胎盤早期剥離(胎児が生まれる前に起きる胎盤剥離)を確認、
帝王切開に娩出、胎児の死亡を確認。
女性の血圧が急低下、輸液でも血圧が戻らず、
輸血でも思ったようには上がらず、
大量出血などが起きていないことから脳出血などの可能性を疑い、
急遽、全身のCT検査を実施、
子宮が通常の2.6倍にまで肥大していることがわかり
女性はこの検査後になくなっています。
そして、死亡後の解剖で初めて
羊水塞栓症を発症していたことが確認されました。
亡くなるまでに羊水塞栓症を考える必要があったのかもしれませんが、
羊水塞栓も胎盤早期剥離も予測困難とされ、
羊水塞栓症として対応したとしても、
延々輸血を続けても、どうしようもないことがあるようです。
高裁も、どの行為があったから過失なのか、
何を行わなかったから過失なのかについての言及が不充分です。
高裁がなぜ、原告側の主張を丸呑みしたかのような判決を出したのか
全く理解できません。
妊婦が死ぬのは医者のミス?
http://agora-web.jp/archives/2019451.html
これは羊水塞栓症の診療経験3例の麻酔科医による記事です。
やはり、高度に医療技術が進歩したこの日本では、
お産は100%安全
という意識があるのではないでしょうか。
だから、マタ旅なんかがメディアで肯定的に採り上げられるのです。
全国民が「コウノドリ」を読むべきだと思います。
一部、妊娠中に読むべきではないという声もありますが
その前に読んでおけばいいかと思います。
ドラマでも羊水塞栓症が扱われましたが
ちょうど先日の「週刊モーニング21号」では、
いきなり羊水塞栓症による母体死亡から始まっていました。
出産は病気ではない
だから妊婦本人やその家族は安全だと思い込んでいる
だけど100%安全なお産なんてない
数万分の1しか起きない重篤な合併症が起きてしまうこともある
この回では、その現場の母体の描写もありますが、
ほぼ、「それ」が黒のみで描かれていて
具体的にどのようなものなのかは再現されていません。
実際は髪の毛など、
一度見た者はトラウマになるともいいます。
そんな時でも、産科医は次のお産への対応が迫られることになります。
多忙がさらなる人手不足の状況を作り出し
より一層多忙になるという悪循環の周産期医療を支えているのは、
各現場医療者の使命感や義務感だと思います。
しかし、善意やそんな気持ちに頼っている世界は
いずれ崩壊します。
産科医などには、この分野への理解と
相応の待遇が必要なのです。
総務省は今年4月1日現在の人口推計として
15歳未満の子どもの数は1571万人と
1982年以来、36年連続で減少していると発表しました。
少子化は先進国共通の問題ですが、
ドイツや韓国、アメリカよりも少ない割合になっています。
政府は少子化問題を重視しているといいながら、
産科の現場から医師が逃げ出すような状況が続いています。
以上、憂鬱な話ですが「こどもの日」に
子どもが産めなくなっている日本の実情のお話でした。
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