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抗生物質の乱用と耐性菌 ~ダイタイウンコとガンジス川~

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今週は憂鬱な出来事が2つ以上あります。
フランス大統領選挙と韓国大統領選挙は、
どちらが、誰が勝ってもろくなことになりませんし、
北朝鮮もこのあたりで何かやらかしそうです。

そんなこととは無関係に産経が昨日、

感染危機 薬が効かない(上)
http://www.sankei.com/world/news/170506/wor1705060007-n1.html

この記事を掲載しましたので、
抗生物質(抗菌薬)「ダイタイウンコ」の話も合わせまして
記事化しておきます。


インドから輸入されたスーパー耐性菌


今年1月、アメリカ・ネバダ州ワショー郡の70代女性が死亡しました。
この女性は2014年頃にインドを訪問、
右大腿骨骨折し、感染症を発症、
昨年までに複数回入院しています。

そして、昨年8月に帰国。
同月、救急入院して全身性炎症反応症候群と診断、
その原因はカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)感染だと判明しました。
「悪夢の耐性菌」ともいわれるCREは、
その名のとおり、カルバペネム系抗生物質に耐性を持つ細菌で
カルバペネム系は悪性感染症の治療の最終手段として使用されることが多いため、
かれが効かないとなると、敗血症を起こし死亡する可能性が高くなります。
そして、さらにまずいことに、
彼女から採取されたCREは
国内で使用できる抗生物質26種全てに耐性を持っていたことが判明、
それはいわゆる「スーパー耐性菌」だったのです。


耐性菌に汚染されるガンジス川


ヒンドゥー教における女神・ガンガーであるガンジス川は
沐浴の川でもありますが、
それ以上に、生活のための川として、
汗を流したり、洗濯をしたり、食器などを洗う川でもあります。

インドでは下水道設備が整備されていない地域が多く、
ガンジス水系にも、
下水処理能力を大きく超える汚水が流れ込んでいます。
また、インドでも抗生物質の使用には医師の処方が必要であるのに、
それが守られず、患者自身の判断で服用を中止してしまうために
体内に耐性菌が生まれやすい環境ができあがります。
耐性菌が生まれるメカニズムについては
2010年にこのようなものをお書きしていますので
ご覧下さい。

2つの多剤耐性菌 ~進化論とは?~ その1
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-10643167825.html

体内で生まれた耐性菌は便として川に流され、
その流域の住民や旅行客を汚染していきます。
十年近く前から、欧米でインドへの旅行歴がある患者から
ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ(NDM-1)という
耐性菌の原因となる酵素が確認される例が相次ぎました。
そして、インドと同様に、耐性菌で危険視されているのは中国で、
この国でも処方箋という制限は無意味になっています。


既に効かなくなった切り札


カルバペネム系抗菌薬が開発されてから、
あらゆる細菌に有効なため、重宝されてきました。
その結果、使用頻度が高くなったのでしょう。
耐性菌は患者の体内で生まれるため、
投与の頻度は耐性菌発生の頻度であり、
カルバペネム系に耐性菌が生まれやすくなったのでしょう。

上記産経の記事によれば、
日本でも2015年にカルバペネム耐性腸内細菌による感染症は1669例、
うち、59人が死亡しています(国立感染症研究所)。
耐性菌を生み出すのは抗生物質の処方が原因ですが、
命の危機にある人に対し、
その投与をためらうわけにはいきません。
より適切な使用が求められることになります。
全世界で「適切な抗生物質の使用」が叫ばれている中で、
日本でも厚生労働省が「抗菌薬適正使用の手引き」を作成中。
各医療機関に、さらなる徹底を求めていくこととなるでしょう。

ダイタイウンコになる経口第3世代セフェム系


先月の「総合診療医ドクターG」に
国立国際医療研究センターの感染症医・忽那賢志先生がご出演でした。
この時、最もインパクトがあったのが「ダイタイウンコ(DU)」という言葉で、
私も正確なところを知りたかったので、
ほかの機会のついでに、医師に確認してきました。
忽那先生は抗菌薬適正使用を訴えている方で、
その啓発活動の中で「ダイタイウンコ」という言葉を使用しています。
彼が「ダイタイウンコ」と呼んでいるのは
経口第3世代セフェム系という抗生物質で、
第3世代セフェム系でも、経口薬以外は除外しています。

忽那先生は口から入った第3世代セフェム系は、
消化管でほとんど吸収されないため、
だいたいが便になるはずだということで、
「ダイタイウンコ」という言葉を生み出し、
その処方の無意味さを訴えています。

少しでも自分が処方された薬について興味を持った方なら、
「フロモックス」「メイアクト」「セフゾン」といった名前に
見覚えがあるかもしれません。
これらが経口第3世代セフェム系で、
日本では風邪でも処方されることが多く、
歯科でも珍しくない抗生物質です。
消化管から吸収されにくいこれらの抗生物質を
有効だと考えられる量まで服用すればいいのかもしれませんが
それでは、別の危険性がありますし、
保険適応量を超えてしまいます。

忽那先生が問題視するのは、
それが吸収されにくいことに加え、
腸内環境(腸内フローラ)を乱す可能性があり、
副作用の可能性もあるからです。

そして、耐性菌の問題。
風邪症候群はアデノウイルスが原因ですので、
抗生物質は効きません。
それなのに、抗生物質が処方されるのは、
気管支炎や肺炎のような合併症対策なのですが、
全ての風邪の患者に必要ではないでしょう。

また、患者にも「せっかく病院に来たのに」などと
何かしらの薬を要求する場合もあるようです。


新抗生物質が生まれない時代に


ここ20年ぐらい、製薬会社はどんどん、
新しい抗生物質の開発から手を引いていっています。
元々、大金と時間がかかる新薬開発の中でも、
計画されたうち、商品化されるのは1万分の1以下という抗生物質ですので
それよりは、生活習慣病向けのような薬品の方が
1人の患者に対し、長く使用されるので
製薬会社には利益が見込めるからです。

これまでは耐性菌と新抗生物質はいたちごっこでした。
耐性菌が発見されては新抗生物質が生まれ、
また、新しい耐性菌が発見されれば、
次の新抗生物質が作り出されてきました。
しかし、そのいたちごっこすら、できなくなっています。

抗生物質は限りある資源ですので、
本当に必要な時にだけ
必要な種類と量を使用すべきだということを
医師や薬剤師以外も認識しておく必要があります。





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