詐欺行為で臍帯血を使用
小林麻央さんが亡くなった件については、当時から悼む声のほかに、その治療方法についての疑問と批判の声が多数ありました。ただ、こちらでもTwitterでも、私はその批判を展開することはありませんでした。代替医療批判は常日頃から行っていますが、彼女の名前を出すことは違うような気がしていました。ただ、月日と、別件でその当事者の医師が逮捕されましたので、ここでお書きしておきます。
再生医療安全性確保法違反容疑で逮捕されたのは表参道首藤クリニックの院長・首藤紳介(しゅとう しんすけ)医師ら6人。同法適用による摘発は初めてとのことです。容疑は臍帯血を用いた再生医療を無届けで行ったというものです。
臍帯とはへその緒のこと。臍帯と胎盤の胎児側血管には造血幹細胞が含まれており、未分化のこの幹細胞は白血病治療などの再生医療に使用できます。その臍帯血を用いた治療を無届けで行っていたということで、厚生労働省は11の医療機関に対し、一時的な業務停止を命じていましたが、ついに逮捕となりました。
彼らが臍帯血を使用していたのは、がん治療目的名目と、アンチエイジングの美容目的。ただ、現時点で白血病治療についての知見は確認されていますが、臍帯血でがんが治るという話もなければ、アンチエイジングについての何かしらの知見があるというものではなく、つまりは詐欺行為なのですが、医師である限り、詐欺罪には問えないというのが実情です。
命をダシにして金儲けしていた医師たち
臍帯血は臍帯血バンクが保存するわけですが、日本赤十字社のような信用のおける組織以外にも、民間の組織が行っていて、そのうちのいくつかが解散、あるいは活動停止、または実体不明となり、そこから臍帯血が流出したものと思われます。母子の善意により採取された臍帯血ですから、腎臓などと同じように管理されないと、臓器売買と同じような可能性が出てきてしまいます。
これまで救えなかった命を救える可能性を生み出す臍帯血を、首藤紳介のような命をダシにして金儲けするような医師が横取りしていたわけですから、今回の再生医療安全性確保法での適用は拍手を送りたいです。詐欺罪などでの立件は困難なところ、なんとか摘発できる道を模索した結果なのでしょうから。
この首藤紳介という医師はこのAmebaでブログを運営していますが、8月13日付の記事が現時点での最終更新となっています。いろいろと騒動についての釈明などがあるものの、私がこの医師に対し、「命をダシにして金儲け」と断じているのは、彼のクリニックのサイトを見たからです。
トリック画像を掲載して治療効果をアピールしていた首藤紳介
小林麻央さんが行ったとされる水素温熱療法なるもののなど、代替医療を行っている表参道首藤クリニックですが、サイトではその成果が強調されていました。具体的には治療開始前と施術中の画像、CT画像を載せていたと記憶しているんですが、そのやり口が悪質でした。
CTやMRIは人体の内部を輪切りの状態で見ることができます。サイトでは代替療法開始前の画像から格段に腫瘍が小さくなっているとしていました。確かに「前」の画像よりも、「後」の画像のほうが、画像全体に占める腫瘍の面積は小さくなっています。ただ、これは疑っている人が見ればすぐにわかるトリックでした。
ボール、特にラグビーボールのような形を考えていただくとよくわかると思うのですが、両端に近い部分を輪切りにした場合、その断面積は小さくなります。逆に中央付近だと大きくなります。それと同じで、このクリニックのサイトに掲載されていた画像は、前と後では撮影条件が異なるものだったのです。
輪切りにするラインを変えれば、画像の中の腫瘍の面積は簡単に小さくできます。そんなことはミスで起きるはずはなく、意図的に見る人を騙そうとしていない限り、あり得ないことです。ブログでも首藤は代替医療の意義を延々と述べていますが、もしも、本当にその意義を信じているなら、こんな捏造画像を掲載しないはずです。その自由診療で大きな利益が上げられるから、行っているだけなんです。彼は自身が行っている代替療法に治療効果が出ないことを知っていたはずなんです。
そのサイトを見に来る人、「腫瘍が小さくなっている画像」に注目する人とはどんな人でしょうか。それは、がんで命の期限を知っている人なんだと思います。前回は小林製薬の悪質な広告をご紹介しましたが、私が赦せないのは、藁にもすがる思いの人を騙そうとしていることです。残念ながら、「命をダシにして金儲け」をしている医師もいます。医師免許があれば、それは違法ではないのです。今回のような治療法ごとの法律がない限り。
「代替療法」と「標準治療」
医療関係者は代替療法批判において、通常の治療を「標準治療」という言葉を使います。私は複数の医師から、この「標準」という言葉がよくないのかも、という声を聞きました。標準ということは、ほかに標準ではないスペシャルな方法か何かがあるのではと思ってしまうのではないかというのです。
実際のところ、「標準治療」という言葉はそんなに浸透してはいないとは思うものの、この「標準治療」という言葉の意味は理解しておくべきだと思います。
「標準治療」とは、エビデンスと呼ばれる科学的根拠に基づいた治療方法で、現時点で実施できる治療効果が確認された治療方法のことです。医療の分野でも最先端という言葉がよく聞かれますが、必ずしも最先端が優れているというわけではありません。最先端の治療方法は、まだ治験などでデータが集まっていないともいえるからです。
医療の研究と臨床で積み上げられて構築されたのが「標準治療」です。代替医療にはエビデンスはありません。あるならば、保険適用にされるなど、標準治療にされるべきものですが、ないために根拠のないものとなっています。ただ、標準治療で根治できないとされた場合、わずかな可能性でもと考えてしまうのは、患者と家族の立場だと仕方ない部分もあるかと思います。
その弱みにつけいる首藤のような医師の金儲けになるのは悔しいですが、もしも、代替医療をお考えの方がいらっしゃいましたら、せめて、標準治療と並行して行える方法を選択してください。標準治療では延命だけでなく、その人らしい生き方を選択できるようになってきています。抗がん剤もどんどん新しくなっています。緩和ケアの考え方も変わってきています。代替医療だけを行って、命を縮めるようなことのないようにしてください。
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