海援隊『贈る言葉』～ビーバップ！ハイヒール「昭和歌謡に秘められた真実」～

音楽評論家・合田道人さんの回のお話を続けます。
前回はかぐや姫の「神田川」でした。

https://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-12390740879.html

この番組ではドラマや再現ビデオを使って解説されますが、
この時には役者さんたちが風貌を似せてきたり
ものまねが入っていたりして
別の楽しみがありました。

武田鉄矢さん役の方は
普段から彼のものまねをされているのではないでしょうか。
ものまねが気になりすぎて
内容が入って来ない部分もありましたけれど。
この時のPR動画です。

こちらでは19日(木)の22:17まで
フルで視聴することができます。

https://tver.jp/episode/46256909

卒業ソングの定番として知られる海援隊「贈る言葉」。

暮れなずむ町の光と影の中
去りゆくあなたへ贈る言葉

作詞の武田鉄矢さんには
実在の「去りゆくあなた」がいました。

贈る言葉[ＥＰレコード 7inch]

Amazon

1973年、海援隊は「母に捧げるバラード」がヒットし、

翌年に紅白歌合戦に出場しています。
しかし、出場から1年後の大晦日、
武田鉄矢さんと奥さんは
居酒屋の厨房で皿洗いをしていました。

今でいうキワモノの一発屋扱いで
「母に捧げるバラード」の印税も底を突いていたのです。

俺はこんな所で何をやっているんだろう

奥さんの「今がどん底だからこの景色をよく憶えておきましょう」
という言葉に彼も「絶対に売れてやる」と決意したものの
コンサート会場は空席だらけで
再ブレイクの気配はありませんでした。

1977年、1本の電話がかかってきます。
映画に出てくれないかと言うのです。

オファーの主は山田洋次監督。
山田監督は武田さんの純朴な姿に惚れ込んでいたそうで
武田さんはこのチャンスを逃すまいと奮起したのでした。

映画は「幸福の黄色いハンカチ」。

あの頃映画幸福の黄色いハンカチデジタルリマスター2010 [DVD]

2,429円

Amazon

あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション幸福の黄色いハンカチ [Blu-ray]

2,454円

Amazon

高倉健さん主演で、

今でもロードムービーの名画として知られています。

この作品は第1回日本アカデミー賞の最優秀作品賞、最優秀監督賞、
最優秀主演男優賞、最優秀助演女優賞、優秀主演女優賞、
優秀音楽賞など、各賞を総なめ。
武田さんも助演男優賞を受賞しています。

この映画をきっかけに、「俳優・武田鉄矢」がブレイク。
それに伴い、海援隊としての音楽活動も再び軌道に乗せることができました。

そしてTBSドラマ「3年B組金八先生」に主演が決まり、
同時に海援隊にその主題歌が依頼されることになりました。

海援隊の千葉和臣さんがメロディーを書きます。
カセットテープで武田さんと同じく海援隊の中牟田俊男さんに聞かせました。
武田さんはすぐに気に入りますが、
どこかで聞いたような気がしてなりません。
それもそのはず
この曲は映画「エデンの東」のテーマ曲に着想を得たものでした。

残るは武田さんの作詞です。
「エデンの東」主演のジェームズ・ディーンについて、
武田さんは「全てを捨てて旅立つさよならの化身」と解釈。
彼は福岡の大学に通っていた頃のひとつの別れを思い出したのでした。

彼には好きな女性がいて、福岡市天神の喫茶店の前でしつこく迫り、
「大きい声出すよ！」と彼女からはヘンタイ扱い。
逃げ去る彼女の背中が思い出されます。

暮れなずむ町の光と影の中
去りゆくあなたへ贈る言葉
悲しみこらえてほほえむよりも
涙かれるまで泣くほうがいい
人は悲しみが多いほど
人には優しくできるのだから

さよならだけではさびしすぎるから
愛するあなたへ贈る言葉

夕暮れの風に途切れたけれど
終わりまで聞いて贈る言葉
信じられぬと嘆くよりも
人を信じて傷つくほうがいい
求めないで優しさなんか
臆病者の言いわけだから

はじめて愛したあなたのために
飾りもつけずに贈る言葉

これから始まる暮らしの中で
だれかがあなたを愛するでしょう
だけど私ほどあなたのことを
深く愛したヤツはいない

遠ざかる影が人混みに消えた
もうとどかない贈る言葉
もうとどかない贈る言葉

ただ、武田さんはこの歌詞にもう一人の女性に対する思いも込めています。
結婚3年目のある夜、夫婦喧嘩の末に別れ話となりましたが、
武田さんは離婚を拒否、

その時、こんな言葉が口から出ました。

俺は酒も煙草も多いから、
きっとあんたより先に死んでしまうだろうよ

でも俺が死んだ後になって、
君は残りの人生で俺を思い出すだろうよ

あの人ほど私の事を真剣に
愛してくれた人はいなかったって

武田鉄矢さんは出来上がった「贈る言葉」を番組側に提出、
しかし、「番組に合わない」と言われてしまいます。
当然といえば当然で、
後に彼が主演する「101回目のプロポーズ」の一場面を思わせるような体験と
奥さんへの思いが詰まった歌詞なのですから。

とはいえ、もう放送開始が迫っており、
今からの書き直しは無理だと判断され
「贈る言葉」が主題歌として採用されることになりました。

その結果、ドラマは大ヒット