2週遅れで開始したNHK大河ドラマ「麒麟がくる」は、
概ね好評のようで、私も期待通りの内容だと思いました。
事前に気になっていたのは、撮り直しのシーンが多いという話です。
明智光秀と帰蝶(濃姫/お濃)はいとこだったという説を採るにせよ、
そんなに帰蝶が出張るような展開になっては
またろくでもない話になりかねません。
ただ、撮り直しに当たり、
おそらくは削られたシーンも多かったのではないかと思います。
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さて、明智光秀はその知名度とは異なり、
その生涯は不明な点が多いです。
特に注目されるのは「本能寺の変」の動機や経緯で、
どのような説を採用し創作してくるのかが楽しみです。
加えて、大河ドラマがあると、
新資料が発見されることも多く、
その期待もあります。
(実際には発見というよりも再評価されることが多い)
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よくわかっていない明智光秀の生涯。
特に前半生においてはさらによくわかりません。
そもそも、生年からしてよくわからないのです。
通説では1528年生まれとされ、
これは江戸時代中期に成立した「明智軍記」に
光秀の辞世の句として「五十五年の夢」とあり、
そこから逆算しての年となります。
ただ、「明智軍記」は所詮軍記物で、
史料価値は低く、江戸時代中期というのも
信憑性は低いです。
「順逆無二門 大道徹心源 五十五年夢 覚来帰一元」が元の歌ですが、
これも、後の創作なのでしょう。
一方、1516年生まれという説があります。
これは江戸時代初期の「当代記」に拠るもので、
一次史料ではありませんが、
「明智軍記」よりは評価されている部分がある史料です。
ここには彼が亡くなった時の年齢を「六十七」としており、
生まれ年は1516年となります。
現在、1528年説と1516年説が有力視されているものの
その幅は干支で一回りもあり、
1516年なら当時の老将が本能寺の変を起こしたということになりますので
イメージはかなり違ってきます。
織田信長との年齢差でも
イメージが変わってくるものと思われます。
生まれた場所も様々。
美濃国で生まれたとする説が有力ですが、
美濃の中でも5か所ほど伝承が残っていて、
近江国にもあります。
「麒麟がくる」では、その中でも最有力だとされている
明智城下明智庄生まれとされていました。
この後、美濃国の明智家は斉藤家に追われ、没落しますが、
光秀はその後、どうしていたのでしょうか。
越前国の戦国大名・朝倉義景が拾ったとされており、
士官はその鉄砲の腕が見込まれたとされています。
また、医術を身に付け医師をしていたという史料も発見され、
寺子屋の師匠のような暮らしをしていたという説もあり
ドラマでどう描かれるのか楽しみです。
次にいわゆる「金ヶ崎の退き口」。
朝倉義景を織田信長が攻めた戦で、
連戦連勝で順調に進軍を続けていた織田軍を
義理の弟・浅井長政の軍が背後から急襲。
その退却戦が「金ヶ崎の退き口」です。
一般的には、後の豊臣秀吉が殿軍を志願して奮戦、
無事、信長本隊を逃がしたとされています。
ただ、殿軍は池田勝正、明智光秀、秀吉だったという史料があり、
秀吉が天下人となったため、
光秀らの功績が消された可能性が指摘されています。
ドラマでの扱いが気になります。
そして、「比叡山焼き討ち」。
信長を攻めるため、浅井・朝倉ら連合軍が迫る中、
信長は比叡山に対し、味方となるか中立を維持せよと要求します。
比叡山はこれを無視し、信長が命じたのが焼き討ちでした。
通説では、光秀はこれに反対。
しぶしぶ、任務を遂行することになります。
ただ、ルイス・フロイスは
光秀の才知と深慮を認めつつも
狡猾さにより信長に認められたとしています。
実際に光秀は焼き討ちの準備を万端調えており、
実行していたのでしょう。
しかし、発掘調査では全焼には程遠い、
山火事程度の被害だったとされています。
僧侶の多くも坂本周辺に下っていたといいます。
焼き討ちの戦後処理を任されたのも光秀でした。
ここに創作の糸口があろうかと思います。
信長に焼き討ちを命じられるも反対する光秀。
しかし、主命には逆らえず、思案した光秀が策を巡らします。
そして、焼き討ち実行。
被害を少なくするための準備を済ませており、
根本中堂と大講堂のみを燃やし、人的被害も最小限。
戦後、被害を大きく報告したという展開を妄想しています。
朝廷のため、仏罰のため、神罰のためと振りかざせば、
織田家家中にも協力者を作ることができるような気がします。
主人公を悪く描きづらい大河ドラマですから。
また、織田信長の描写も気になりますね。
今作では染谷将太さんです。
信長といえば、徹底した合理主義者で、
他者の意見を聞き入れない暴君のようなイメージですが、
染谷将太さんをキャスティングした時点で、
従来とは異なる信長像としたいという意欲がわかります。
実際の信長は当時の戦国大名としての常識を踏まえた上での行動も多く、
歴史上の人物の中で、
現代人のイメージと最も異なる人物ではないかと思います。
そのあたりにも注目です。
考えてみれば、明智光秀もかつては完全な悪役武将で、
十数年前ぐらいからかなりイメージが変わった人物ですね。
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