もうひと月ぐらい前からファイザー製の新型コロナウイルスワクチンについて、
「ひと瓶で6回接種できるはずなのに、なんで5回なんだ!」
「6回接種できる注射器が足りないとはどういうことだ!」
なんて言われてきました。
国内に入ってくるワクチンの絶対量が少ないため、
一人でも多く接種できるのであれば、喜ばしい限りですが、
今さらながら、この問題について考えてみたいと思います。
ファイザー製の元々の添付文書には明確に「5回」と書かれています。
元々、5回分接種として出荷されているのがファイザー製です。
ただ、ワクチンは瓶の薬液をそのまま接種するのではなく、
生理食塩水で希釈しますので、その量を変えれば
接種する回数を増やすことができます。
ただ、それってワクチンとしてどうなの、という話ではあります。
ファイザーも世界的に「5回を6回に」との話が拡散された際に、
ひと瓶から6回分のワクチンを抽出するには"ローデッド・ボリューム"を使用するべきであってスタンダードタイプの注射器では6回分目は利用できない
としています。
あとは注射器の構造の問題。
注射器の薬液が入る筒状の部分をシリンジといいますが、
構造上、全ての薬液を注射することができません。
わずかなから、シリンジの中に残ってしまいます。
ファイザーが明言した「ローデッド・ボリューム」注射器ですが、
「ローデッドスペース」注射器などとも呼ばれ、
これはシリンジの中に残ってしまう薬液の量を少なくすることができる注射器です。
これであれば、ひと瓶で6回分の接種が可能になります。
ただ、この注射器、基本的にかなり高額です。
"スタンダードタイプ"と比べて流通量が比較的少なく、
「注射器が足りない」となっているのはそのためです。
専門家の中にも、「今になって厚労省は何をやっているのか」と責める人もいますが、
「5回を6回に」は急に出てきた話ですので、
ある程度は仕方ない部分もあろうかと思います。
現在、国からの要請を受けたテルモやニプロなどが懸命に増産中です。
この騒動が起きるまでは、少々の薬液が無駄になることは当然のことで、
そこを改善しようという意識があまりありませんでした。
ただ、現在はワクチンの絶対量が少なく、
一人でも多くの人に接種してもらいたい、
そして、世間もこの問題に神経質になっているので、
大きく報道されたものかと思います。
次に筋肉注射。
日本で行われる予防接種の場合、皮下注射となることが多く、
比較的筋肉注射となることは少ないようです。
こちらは看護師向けの筋肉注射における手技の解説動画です。
皮膚に対し、垂直に針を入れています。
海外でワクチン接種が進む中、報道で散々見せられているかと思います。
一般的な皮下注射では、針の角度は30~45度とされていて、
筋肉注射は90度です。
日本では帯状疱疹ワクチンなどで筋肉注射が採用されているようですが、
海外ではインフルエンザワクチンなど、ワクチン全般で筋肉注射が主流のようです。
だから、新型コロナウイルスの治験では筋肉注射で行われました。
ひと瓶で採れる接種回数と注射器の問題もからんで、
「日本では皮下注射でやろう」などという人もいるようですが、
治験が筋肉注射で行われ、その中で効果と安全性が確認されたのですから、
絶対に筋肉注射で行うべきです。皮下注射で行うのであれば、
あらためて皮下注射による治験を行うべきでしょう。
さらに今回のmRNAワクチンは
免疫の活性化が起こりやすい血流が豊富な部位が適切だとされています。
痛みはどうでしょうか。
針を入れた時の痛みについては、
同じか、筋肉注射のほうが少ない人のほうが多いのではないかといわれています。
痛覚神経の多くは、皮膚の浅い部分に存在します。
皮下注射ですと、斜め30~45度で針を入れるため、
皮膚の浅い痛覚神経が多い部分に長い「距離」射し込まれることになります。
筋肉注射の場合は、垂直ですので、
皮膚の浅い部分を通る「距離」は少なくて済みます。
こんにゃくに串を刺す時のことを考えてみてください。
斜めに刺したほうが「距離」が長くなるはずです。
ただ、筋肉を包む筋膜にも痛覚神経があり、
そもそも、注射は個人差や、医師などの手技に大きく左右されます。
たとえば、筋膜で針が止まり、そこに薬液が注射されますと、
かなり痛いのではないかと思います。
日本でも皮下注射よりも筋肉注射を主流にすべきかもしれません。
皮下注射と比べて筋肉注射は針を入れた部分の腫れや痛みが少ないとされ、
免疫反応が皮下注射以上だとされています。
日本で筋肉注射があまり行われなくなったのは、
昭和40年代後半に解熱薬や抗菌薬の筋肉注射によって、
大腿四頭筋拘縮症が多く発生したとされたからです。
当時、pH値が高すぎたり、低すぎたりなどの問題があったことが確認されていて、
浸透圧の問題を抱えていた薬剤も多かったようです。
ただ、ワクチンではそのようなことはないでしょうし、
今、あらためて筋肉注射を見直すべきかもしれません。
最後に版画を。
挿絵画家として連載小説の挿絵が多数残っています。
こちらは昭和36年の作品であるようです。