絵画ミステリー 名画に潜むスキャンダラスな女たち
その1 ヴィーナスの誕生の秘話/永遠の処女 レカミエ夫人
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11367315146.html
こちらから続いています。
まずは昨夜の記事の余談から。
レカミエ夫人ですけれど、
彼女は美しいということで、
一つのファッションブームが起きています。
この絵の彼女の衣装、
実はシースルーなんです。
そして、下着は着けていない、と。
ギリシャ風ということなんだそうですけれど、
この姿がスキャンダラスで衝撃的で、
また、その美しさからフランスで
彼女のスタイルを真似る女性が多く、
真冬にまでこんな姿でいるものですから、
肺炎で死亡する女性が続出した…、なんていう話もあるようです。
右にいる彼女がこのお話の主人公。
そして、左にいるのは、
彼女に殺されたばかりの男です。
ナイフによる刺殺です。
こちらは昨夜も登場したジャック=ルイ・ダヴィッドによる、
被害者の描写。
「暗殺の天使」と呼ばれた彼女の名はシャルロット・コルデー。
1768年、貧しい貴族の娘として
ノルマンディーの田舎に生まれたシャルロットは、
13歳で母親と死別、修道院に入ります。
修道院での彼女は、
プルタルコスやルソーを好む読書好きの少女でした。
物静かで優しい彼女自身は、
静かに修道女として生涯を過ごすつもりだったようです。
しかし、世の中は革命に荒れます。
フランス革命で王政は終わりましたが、
今度は革命側の過激な急進派により、
庶民が苦しめられることになります。
革命政府により修道院は閉鎖、
シャルロットは叔母の元でくらすことになります。
そんな彼女が革命政府の中で抗争に敗れた一派と出会います。
彼らから彼女が聞いたのは、
奴等、革命の名のもとに
人々を無差別にギロチン台に送り込んでいる
という衝撃的な言葉でした。
革命は恐怖政治へと変貌、
主流派は反対勢力を次々と処刑していたのでした。
反主流派から繰り返し主流派たちの悪行を聞かされた彼女。
罪のない人たちを殺すなんて許せない。
誰かがこの国を守らなければ。
そう決意した彼女はある人物に会いに行くことにします。
彼女が会おうとしているのは、
このジャン=ポール・マラー。
フランス革命のリーダーであり英雄、
そして、革命後には恐怖政治を進めた張本人です。
1793年7月13日。
彼は当時、皮膚病に苦しんでいて、1日中入浴しつつの執務で、
その時も入浴中でした。
シャルロットは反革命派の情報があると伝え、
それを信用したマラーは彼女を中に入れます。
彼の傍まで歩を進めた彼女は無言のまま、
隠し持っていたナイフで彼の胸をひと突き。
ほぼ即死でした。
マラーの肺動脈が切断されたのです。
愛国心と正義感による犯行。
その場で彼女は捕らえられ、
4日後には裁判にかけられます。
その席で彼女はそれが自分の行いであることを認め、
穏やかな表情でさらに続けました。
私は十万人の人間を救うために
一人の人間を殺したのです
彼女の高潔な姿は人々の胸を打ちますが、
判決は即日死刑。
数時間後の死刑執行を独房で待つシャルロットに
来客がありました。それは画家で、
彼女の絵を描きたいと言っています。
…あるいは、教誨の時に、
最後の願いとして絵を描いて欲しいと
シャルロット自身が頼んだ、とも。
これがその時のもの。
絵の中の彼女の目には強い信念を感じます。
そして、彼女は処刑されました。
後世、その美貌と愛国心、正義感から
彼女は「暗殺の天使」と呼ばれるようになります。
次はこの絵にまつわるスキャンダルのお話。
ジョン・シンガー・サージェント「マダムX」。
1884年、フランスで描かれた絵です。
題は匿名という意味からでモデルの名前は伏せられています。
この絵のモデルの正体は
ピエール・ゴートローという銀行家の夫人。
夫人は当時のパリ社交界の花でした。
アメリカ出身の彼女の美貌には
誰もが見惚れ、サージェントもその一人でありました。
この時、既に彼の作品は評判で、
新進気鋭の画家として知られていました。
その彼がゴートロー夫人に絵のモデルになってくれるよう頼みます。
しかし、彼女はそれを拒否、
この頃の価値観では、絵のモデルになる女性は、
娼婦などに限られていたのです。
それでも諦めないサージェント、
彼もアメリカ出身だといいます。
彼の絵の才能も知る夫人は、
ついにモデルとなることを承諾しました。
ただし、モデルが何者であるかは匿名にするという条件で。
何度も繰り返し繰り返しデッサンしてはやり直し、
そこに画家生命を賭けるが如く、
3年もかけてこの絵を完成させます。
ついに納得がいく1枚を書き上げると、
彼は展示会にこの絵を出展しますが、
この絵を見た上流階級の人たちには、
モデルがゴートロー夫人であることは明白でした。
しかも、この絵が人妻であるのに、
官能的で下品、挑発的でわいせつ
いう悪評にサージェントは晒されます。
彼は逃げ出すようにしてパリから脱出します。
そして、ゴートロー夫人も社交界にはいられなくなりました。
このスキャンダル。
この絵をもう一度よく見てみて下さい。
時代が今とは違うとはいえ、
官能的で下品、挑発的でわいせつ
と罵られ、パリにいられなくなるほどのものなのでしょうか?
描かれてから96年後の1980年、
1枚の写真が発見されたことで、
この絵がスキャンダラスとされた本当の理由が
判明することになります。
まさしく、ゴートロー夫人です。
あの絵が発表された時に、
新聞に掲載された写真です。
つまり、これは発表当時の絵を撮影したものだということになります。
一つだけ違う点があります。
彼女の右肩。
ストラップがずり落ちています。
今、伝わっている絵のほうは、
サージェント自身が修正した後のものだったのです。
30年後、彼がこの絵を売却する時に、
その条件としたのが、
今後、一切の修正を禁じる
というものだったのでした。
そして、現在、
この絵は名画のひとつとして鑑賞されています。
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