こちらからの続きです。
http://ameblo.jp/thinkmacgyver/entry-11558451373.html
昨年の北海道大学の研究チームの発表です。
このチームはシオカワコハナバチを観察、
シオカワコハナバチは、ミツバチなどと同じく、
女王バチのみが子を生み、
他のメスバチは子を生みませんが、
ごく一部のメスは多くのハチがそうであるように、
単独で子を生み子育てをしています。
この習性に着目し、世代間の遺伝子の伝達量を比較しました。
その結果、複数のメスが協力して子育てをする巣では、
単独での子育てによる幼虫と比較して、
その生存率が単独の巣より9倍ほど高いことが判明しました。
その分、自分が子を生まないとしても、
自分の母親である女王バチが生んだ子を協力して育てた方が、
よりよく自分の遺伝子が残せるため、
スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチなどは真社会性のハチは
この習性を獲得したと考えられます。
さて、膜翅目昆虫のうちアリやスズメバチ、アシナガバチ、
ミツバチなどの真社会性の種の染色体には、
私たちとは大きく異なる特徴があります。
まず女王バチは32本の染色体を持っています。
彼女が子を生む場合、そのうちの半分の16本と、
オスの16本が次の世代に受け継がれますが、
それもメスを生んだ時だけなんです。
この女王バチがオスを生んだ場合、
彼の遺伝子は16本になってしまいます。
人間の感覚からは理解しづらいんですが、
ミツバチなどのオスには(遺伝子的に)父親がいないんです。
女王バチが生んだメスは、
母親から半分、父親から半分の染色体を受け継ぎ、
32本の染色体なので、これは私たちと同じです。
ヒトである私と私の父、私と私の母は染色体を1/2共有していて、
血縁度は1/2です。
しかし、ミツバチなどは事情が異なるために、
母親である女王バチと息子のオスバチとの血縁度は、
1になってしまいます。
私たちの世界では、クローン以外ではあり得ない血縁度です。
そしてキョウダイ間の血縁度も特別です。
メスとオスのキョウダイの血縁度は1/2で私たちと同じですが、
メスとメスの姉妹の場合、
血縁度は3/4となります。
メスバチにとってみれば、
母親である女王バチとの血縁度は1/2なのに、
姉妹間の血縁度は3/4と、
とてもヘンなことになってしまいます。
血縁度というものを血の濃さと言い換えるならば、
母親よりも姉や妹のほうが血が濃いということですね。
巣の中で生まれる子供たちの多くはメスです。
ミツバチの場合、巣の中にオスは全体の5%程度しかいません。
あとのメスは全て姉妹関係にあり、
このことが自分が生んだ訳ではないのに、
その子の世話をするという行動の理屈になります。
こういう染色体の特性を半倍数性と呼びますが、
自然科学の中でも生物進化における理論は、
決定的に実験で確認出来ないという問題があります。
何億年、何千万年観察しつづけることが不可能であるために、
現在の生物種の習性からそれを推察する限りです。
この理論も必ずしも正しいとは限りませんが、
高度な分業制、つまり自分自身の利益にならない行動をとる理由を
うまく説明できている理論ではあります。
ところで、女王バチといいますと、
その巣におけるリーダーで、
働きバチたちはその支持に従っていると考えがちですが、
真社会性昆虫の巣にリーダーはいません。
それぞれの個体はその時々に応じたプログラムに則って、
行動しているだけに過ぎません。
そもそも、巣の中で卵を産み続けている巨大な彼女が、
本当に女王と呼ぶべきなのか、
私は怪しいと考えています。
ここからは私の考えになりますが、
女王バチには
産卵マシーン
という側面があるのではないかと思います。
娘たちに妹を産まされ続けている存在なのでは?
血縁度で考えますと、
より高い血縁度の個体を生むほうに進化するのが自然で、
もしかすると、女王は血縁度1という
あり得ない血の濃さの息子を生みたいものの、
娘たちの都合で、
娘たちの妹を産まなくてはならなくなっているのかもしれません。
ミツバチなどの性決定システムも私たちと違っていて、
そもそも、女王は一度交尾すると、
体内の貯精嚢という器官に精子を貯めておきます。
そして産卵時に貯精嚢から精子を出して受精させれば、
その子はメスになり、
貯精嚢を閉じて生めばオスになります。
では、子供の雌雄を決めているのは、
女王バチ本人なのかといえば、これも違っていて、
どうやら、オスの幼虫にはわずかに大きめの部屋が必要らしく、
女王バチは産卵の時に脚で部屋の大きさを測り、
大きめならばオスを生んでいるようです。
では、その部屋の大きさを決めているのは誰でしょうか?
働きバチ、つまりメスバチなんですよね。
メスバチにとってみれば、
血縁度1/2の弟を生んでもらうより、
血縁度3/4の妹を生んでもらった方がよさそうですから。
そんなことをこの本の巻末にある
亡くなられた日高敏高先生の補足から考えたことがあります。
その時は計算もしてみたんですが、
その結果、この考えに自信を持ったものですが、
今は少し自信を失っています。
他の真社会性生物の場合、
膜翅目と姿が似ている等翅目のシロアリは
私たちと同じ2倍体です。
大雑把にいえば近親交配が行われることが多く、
群れの中の個体間の遺伝子は極めて近くなっています。
これが真社会性を実現させていると考えられます。
脊椎動物で真社会性が確認されているのは、
ハダカデバネズミとダマラランドデバネズミだけですが、
繁殖を行うのは少数のオスと単一のメスのみですので、
やはり、巣の中の血縁度は高くなります。
これらの場合も血縁度が分業に大きく関わっているのでしょう。
ただし、上で女王バチは女王なのかについて疑問視していますが、
この2種のデバネズミの場合、
明らかに女王は巣の中で最も高い位にいるために、
巣の中の順位が分業制に影響を与えている可能性もあるのでしょう。