水は0℃になると凍る
誰もが知っている常識です。
しかし、意外にも水が凍る過程について、
私たちは完全に理解している訳ではないようです。
水が凍っていく様子を見てみましょう。
水が凍るためには温度だけでなく、
きっかけが必要になります。
ここでは、水を0℃以下に冷やし、
液体のままの過冷却状態の水で見てみます。
このシャーレの中には0℃以下の液体の水が入れられてありますが、
ここに、液体窒素の冷気で水面を刺激してみることにします。
すると、
突然、小さな粒がたくさん現れました。
目に見えないほど微細な氷の種が、
一気に成長する様子です。
最初は六角形のミクロの結晶です。
これが横方向に成長しながら、
縦方向にも積み重なって、
目に見える大きさに成長していきます。
これは薄い水の膜が凍る様子を撮影したもの。
六角形の結晶の角が伸びて星形に、
そして結晶と結晶が結合していきます。
ところで、過冷却状態は別にして、
0℃以下になって水が凍らせないためには、
水に塩や砂糖を溶かせばいいことはよく知られています。
今回の番組では、塩や砂糖ではない
不凍蛋白質
という物質が紹介されていました。
これを微量、水に混ぜることで、
0℃以下でも凍らない液体に変えることが出来ます。
最初、この不凍蛋白質が発見されたのは南極海でした。
このノトセニアという魚の体内にそれはありました。
海の水は塩分を含むために、
0℃以下になっても凍りません。
そんな氷点下の海中で血液を凍らせないために、
ノトセニアは不凍蛋白質を獲得したと考えられています。
…が、よく探してみましたら、
私たちの身近な食材からも不凍蛋白質が発見されました。
たとえば、ダイコン。
冬の寒い時期に収穫するダイコンの葉と根にも
不凍蛋白質が確認されています。
海に住むカレイはほぼ全身に不凍蛋白質を持っています。
不凍蛋白質はどのようにして、
水が凍ることを防いでいるのでしょうか?
先ほど見たように、氷の結晶は、
その角が成長して伸びていくことで、
多方向に成長していきます。
不凍蛋白質はそれを成長を阻害します。
角の部分が伸びないので、
隣の結晶と結合することなく、
目に見えるほどの氷にはならないのでした。
下は水の分子構造。
水素と酸素の原子が結合して六角形を形作っています。
そのために最上面は平らではありません。
上はカレイの不凍蛋白質。
この螺旋がぴったりと水分子のでこぼこにはまる形になっています。
そのために、新しい水分子が入り込めず、
氷がそれ以上大きくならないのでした。
これは細胞が壊されないために、
体温調節が出来ない生物が備えた物質なのでしょう。
逆からいえば、
それを持たない者は絶滅したということになるかもしれません。
食材の話ですと、冬野菜して知られているものの
約8割に不凍蛋白質が確認されています。
そして、ダイコンですと、
5月以降に栽培されるダイコンは
不凍蛋白質を持ちません。
つまり、寒冷下でないとダイコンは不凍蛋白質を
産生しないのでしょう。
次は実用のお話。
冷凍された肉を解凍しますと、
どうしても、ドリップが出てしまいます。
このドリップには、旨味が含まれているんだとか。
この液体、ドリップは氷の結晶が大きくなったことで、
細胞組織を破壊してしまったことで、
出てきてしまうことになります。
氷の結晶には、大きく成長しやすい温度帯が存在しています。
0~-7℃がそれに当たりますが、
現在の冷凍技術では、その温度帯を
出来るだけ短い時間で通過する
「急速冷凍」という方法が採られています。
しかし、冷凍時が急速でも、
解凍ではどうしても時間がかかってしまいます。
0~-7℃の温度帯の通過に時間がかかってしまい、
その時に細胞が破壊されてしまいます。
そこで不凍蛋白質が注目されます。
急速冷凍し、解凍した2つの肉を比べてみますと、
予め不凍蛋白質に浸してあった
右の肉からはドリップが出ていません。
これは不凍蛋白質により、
氷の結晶の成長を阻害しているからなのでした。
ただし、ただ浸すだけですと、
肉の表面にのみに効果が現れ、
効果を求めるのであれば、
真空になる容器で、
肉の内部にまで浸透させなくてはいけないとのこと。
不凍タンパク質の効果|冷凍うどんの冷凍焼け カネカ
http://www.kaneka-finefood.com/result/
こういった技術は、既に冷凍うどんなどに実用化されていて、
うどんの場合、小麦粉の0.03%の不凍蛋白質を加えることで、
生のうどんの食感、外観を実現しているそうです。
しかし、この不凍蛋白質、
蛋白質であることに変わりはありませんから、
弱点もあります。
酸と熱に弱いんです。
pH値が6より低くなるあたりから、
水が凍りにくくなる作用が弱くなってしまいます。
酢の物などには使えないということですね。
また、100℃で加熱した場合、
20分を過ぎたあたりから、
不凍蛋白質の能力が失われていってしまいます。
蛋白質であるが故に、
この問題をクリアすることは不可能のようです。
しかし、さらなる発見が。
アラスカに住むこのゴミムシだましの一種は
雪の中にも住んでいます。
それなのに、不凍蛋白質は持っていません。
代わりに持っているのが
キシロマンナン
という糖です。
これは不凍蛋白質同様、氷の分子にはまり込み成長を阻害、
不凍蛋白質と同じ機能を持ち、
また、蛋白質ではないため、
酸にも熱にも強いという特徴を持っています。
これで、不凍蛋白質の代わりに
使用すればいいのではないのかというと、
これはこれで問題がありました。
まず、量産が難しいこと。
そして、私たちはゴミムシダマシを食べませんので、
安全性の問題が未解決です。
そこで、普段食べているものの中に、
このキシロマンナンを持っているものはないでしょうか?
なんと、それはエノキダケの細胞壁から見つかりました。
エノキダケも寒い場所を好むキノコです。
栽培時には5℃以下で育てています。
その他、ある海草からも発見されましたが、
それは普段私たちが食べているものではありませんでした。
キノコでは17種類のものを調べたそうですが、
見つかったのはエノキダケのみ。
このキシロマンナンの研究は、
食材、料理への応用だけではなく、
医療、例えば不凍結の状態で、
臓器などの保存を可能にするのではないかということでした。
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サイエンスZERO 「冷凍革命! 水を凍らせない? 謎の物質」
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