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こちらからの続きです。
一つの大仕事を終えて、
喜多川歌麿は意気揚々と江戸に戻ったのかもしれません。
しかし、時は老中・松平定信の時代。
寛政の改革の波が押し寄せてきます。
武士を頂点とした江戸幕府の原点回帰を志す寛政の改革では、
町人層を弾圧していきました。
特に贅沢品に対する規制は厳しく、
多色刷りの華美な画本や浮世絵などは出版禁止となってしまいます。
歌麿の版元でもあった蔦屋重三郎は身上半減(私財半分を没収)、
この蔦屋専属の作家・山東京伝は手鎖五十日の刑が処されています。
歌麿が自身への影響を心配している頃、
彼は再び栃木へと招かれるのでした。
ここで、さらに大きな画面に挑む歌麿、
描いたのは「吉原の花」。
幕府公認の遊郭・吉原が題でありながら、
そこに描かれている女性は遊女ばかりではありません。
2階のこの女性たち、
彼女たち髪は「片外し」という結い方。
これは将軍家や大名家の女中の髪型です。
さらには酌をせよとばかりの女は徳川の三葉葵。
つまり、これは徳川を含む武家の遊びが
この絵の中で描かれていたのでした。
寛政の改革の最中、
もしも、これが江戸で描かれていたとすれば、
歌麿の命も危なかったかもしれません。
ここには歌麿の御上に対する批判、
風刺が込められているのでしょう。
寛政の改革は定信の失脚により区切りを迎え
依然、厳しい規制はありましたが、
江戸の歌麿は快作を連発しています。
美人大首絵の誕生です。
彼が生み出したこの画面一杯のバストショットで、
人物の内面を描き出しています。
「婦女人相十品 文読美人」
この絵を見た人は、彼女の容姿だけではなく、
彼女がなぜここまで真剣に手紙を読んでいるのか、
その手紙には何が書かれているかを考えるようになるでしょう。
背景に色をなくし、
それは寛政の改革の規制の影響でもありますが、
おかげで、顔が際立つようにもなりました。
「當時三美人(寛政三美人)」。
絵の対象を町娘にも広げた彼の傑作です。
水茶屋娘・難波屋きた、浄瑠璃名取・冨本豊ひな、
煎餅屋娘・高しまひさとなっています。
しかし、この文字が幕府の御法度となります。
町娘の名前を書き入れることは禁じられることに。
当時、歌麿が描いた町娘は人気者となり、
そのために客に対して横柄な態度をとり、
それに腹を立てた客が
店先に人糞をまき散らすという事件もあったようです。
幕府にとっては、市中の治安を乱す存在なのでした。
それに抗って見せたのがこの絵。
上から「菜っ葉が二把」と「矢」、
そして「沖」と「田」。
合わせて「なにわやおきた」という判じ絵を仕込んでいます。
多くの絵師が歌麿の成功にあやかり、
町娘の美人画を手がけましたが、
このような手を使ってでも名前を入れようとしたのは歌麿のみ。
それは歌麿の気概だったのでしょう。
「五人美人愛敬競 兵庫屋花妻」
彼女が読む文には、
人まねきらい しきうつしなし 自力 画師 哥麿
と。「しきうつし」は「敷き写し」のことですね。
さらには
正銘 哥麿筆
と銘が記してあります。
そんな覚悟の歌麿でしたが、
ついに幕府は判じ絵も禁止。
明らかに歌麿を標的とした禁令でした。
それでも歌麿は描き続けます。
人気の町娘が駄目なら、
市井の名もなき女性たちの美を次々と描いていきます。
「吉原の花」から十数年、
歌麿は三度、栃木を訪れます。
手がけたのは「深川の月」。
彼がなぜ、また栃木の地まで赴いたかについては、
120年前のパリで既に明かされていました。
作家でジャポニズム研究家のエドモン・ド・ゴンクールは
1891年自らの「OUTAMARO」の中で、
ある風刺的な版画を出した後、
投獄される危険を感じた歌麿は
遠い地方の友人宅に身を潜めた。
この巨大な掛け軸はそのもてなしの返礼として
描いたものだという
彼の身の上に、
いつ幕府から罰が下されるかわからないような状態、
そんな1804(文化元)年、
この「太閤五妻洛東遊観之図」を描きました。
幕府は豊臣秀吉を演劇や書画で扱うことを禁じていて、
さらにこの絵は、側室を侍らせて花見酒にふける秀吉を
40人以上妻妾、50人以上の子を設けた
当時の将軍・徳川家斉を風刺したものとされました。
歌麿は入牢三日、手鎖五十日の刑。
これを境に、歌麿はやつれていったといわれます。
しかし、時代は彼をほっておかず、
仕事の依頼は殺到、その過労が祟ったのか、
文化3(1806)年、死去。享年54。
「深川の雪」は、現在、
神奈川県箱根・小涌谷の岡田美術館に収められています。
半年以上の修復作業では、
額装するのではなく、
より手間の掛かる元の掛け軸の姿で保存することにしました。
岡田美術館では、
再発見 歌麿「深川の雪」
と題して、4月4日(金)~6月30日(月)の期間、
展示される予定です。
三部作で唯一、本来の姿に近い形で、
そして、唯一日本で鑑賞できる「深川の月」です。
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